第22話
それなりに大きな町らしく、人通りも多い道で、明日葉とカーフは、地図を見ながら歩いていた。
魔力で動く車は、まだ普及しておらず、ほとんどの町で、町中を走行する許可が出ていない。
そのため、町中に用事がある明日葉とカーフは、目的地まで徒歩で移動していた。
「えーっと……ここを右な気がするんだけど、なんで一回曲がってるんだ……?」
近江に渡された簡易的な地図には、目的地とルートが書かれている。
その道が、まっすぐに向かうわけではなく、もうひとつ、星マークの書かれた場所の前を通るように、回り道するようになっていた。
「このマークが書かれたところに寄れってことじゃない?」
意味は想像がつくが、理由が分からないのは、カーフも同じだ。
「暇だし、いいけど」
微妙に同意しにくいが、近江たちがダンジョンの調査をしている間、明日葉が手が空いているのは事実だ。
そのマークが書かれた場所が、一体何なのかがわからないまま、その場所に辿り着くと、何かの施設のようだった。
「知ってる場所?」
「全然。本当に、なんなんだろ……?」
明日葉も知らないらしい建物に、ふたり揃って首をかしげていると、その建物の扉を勢い良く開けて出てきた少女。
「やっぱり、カーフだ!」
知っている少女だった。
「アイ……? アイじゃないか!」
カーフの味方をして、ダンジョンに取り残された子供たちの一人だ。
「ちょっと待ってて! みんないるから、呼んでくる!」
愛はそう言い残すと、すぐに中にいるらしい友達たちに呼びかけている声が、閉まりかける扉から聞こえていた。
「カーフ、無事だったんだね。よかった」
「みんなこそ。無事でよかった。いつから、ここに来てたの?」
「二日前だよ。涼介君が、松葉杖で歩けるようになってから」
庭先で、久々に会った五人と話していれば、怪我をした涼介も含めて、みんな、元気そうだった。
「じゃあ、カーフ、今はその、明日葉さんの使い魔になったの?」
「うん。そうだよ」
「いいなぁ。先越されたー!」
「ちょっと、ついこの間の事忘れたの……?」
「本当だよ。ダンジョンは、危険なんだからね。リョースケ、わかってる?」
「わかってるって」
つい最近、ひどい目に遭ったというのに、相変わらず、すぐに調子に乗る涼介に、カーフはたしなめるように視線を送るが、すぐに安心したように息を吐き出した。
「でも、カーフが遊びに来てくれて、すっごい嬉しかったよ!」
「うん……もう会えないかと思ってた」
玲の俯きながらも、嬉しそうに頬を綻ばせる様子に、少しだけ言葉が詰まったが、すぐに笑みを作る。
「そんなわけないだろ。必ず会いに行くよ。約束さ!」
「うん。約束……!」
嬉しそうに頷いた子供たちに、カーフは大きく頷いたのだった。
「そうだ。この近くのダンジョンに、ドラゴンがいるらしいから、気を付けた方がいいよ」
「ドラゴン?」
「うん。ここの先生たちが言ってたんだ」
雄也の話では、近くのダンジョンで、ドラゴンが出たという話が、町中で噂になっているらしい。
先程、近江から聞いた話とは違うが、この施設の先生も、同じように噂しており、施設の引っ越しなども検討しているという。
「ボクらが聞いたのとは違うけど……別のダンジョンの話かな?」
「いやぁ……一緒だと思うよ。元々ドラゴンって話もあったから、炎歌ちゃんが事前に確認しに行ってるんだろうし」
「そっか。じゃあ、ドラゴンじゃないよ。心配いらないよ」
みんなにも心配いらないと説明すると、残念そうな声を上げたのは、涼介だった。
「だって、ドラゴンだぜ? かっこいいじゃん!」
「涼介ってば……」
さすがに、他の子どもも呆れていれば、玲だけが心配そうにカーフの方を見ていた。
「カーフは、またダンジョンに行くの?」
「うん。そうだよ?」
「…………怪我、しちゃうかもしれないのに? 明日葉さんだって……」
少し目を伏せる玲に、カーフは優しく頭を撫でる。
「大丈夫! ボクは強いからね。アスハも……ものすごく強いよ」
「そうだよぉ。だいたい殴れば殺せる激つよさんだからね! ドラゴンだって、殴れば死ぬ。たぶん!」
「頭がちょっと心配だけど、強いのは事実だから…………頭はすごく心配だけど」
「聞こえてるから、2回言わなくていいんだよ?」
「……本当に、明日葉姉ちゃん強いのか?」
「強いよ!? 頭は置いといてね!」
自分で言うんだ……とばかりの冷たい視線が、明日葉に刺さると、明日葉は頬を膨らませると、どちらが子供かもわからない怒り方をし始めた。
「そんなこというなら、炎歌ちゃんと会わせてあげないぞ!」
「誰だよ。その人」
「ドラゴンとの親戚の人!」
「え、マジ?」
”ドラゴンとの親戚”という言葉に、あまりにも容易く興味を示した涼介に、愛が無言で涼介の頭を叩いた。
*****
その頃、草木が生い茂る森の中で、炎歌が小さくくしゃみをしていた。
「え、風邪? メンタルやられて、一気に疲れが来た?」
「喧嘩売ってます? 買いますけど」
「ジョーダンジョーダン。俺は、平和主義を掲げてんの」
相変わらず、機嫌が悪そうな炎歌は、その赤い髪を乱暴に払うと、草木に覆われているダンジョンの奥を見つめる。
「弱者アレルギーかしら」
とんでもないこと言い出したなぁ。と、決して口には出さず、近江は、静かに遠い目をしておいた。
しかし、炎歌がそういうのであれば、ほとんど確定とみていいだろう。
「ドラゴンじゃないわけね」
「当たり前です。こんなビクビク、他者に怯えるようなザコが、誇り高いドラコンなわけないでしょ。これは、ドラゴンの名を偽る虫けらのような存在です」
「あ、そう」
ドラゴンの血筋が混ざっており、人一倍その気配に敏感な、炎歌がここまではっきりと”違う”と判断しているのだ。
確実に、このダンジョンにいるのは、ドラゴンではない。
「ちなみに、最後のは冗談? ガチ?」
近江のその質問には、炎歌は、静かに睨み返すだけだった。
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