罪骸之墟~TRASH SiN BABYLON~

儚之シーシャ

序章

ACT.1 罪骸之墟~TRASH SiN BABYLON~

 人間は大部分が愚か者であって、熟慮したうえで行為するようなことはなく、ただ欲望のおもむくままに、あるいはまた運にまかせて行動しているのである。

 また、彼らはを物事を、それらはそうあってしかるべきであったのだと判断すが、物事はたいがい…無鉄砲に行われているものなのである。


——————哲学者ジャンバッティスタ・ヴィーコ——————

 



 遥か昔…この地で起きた凄惨な話…欲が生み出した、古き都の歴史の話。


 いったい何時いつから其処に存在したのか、何故其処に存在したのか…

 …ゴホッゴホッッ…誰も彼もそれを正確に答える事が出来ないが、確かには存在する。

 

 …罪骸之墟『バビロン』。

 

 嘗て世界全体を守り、かの大地に無限の豊穣をもたらした『世界樹』を中心に栄え、永劫の発展を遂げた黄金の王都は、突如現れた世界の破滅を願う『魔王』と『世界樹』を守っていた『守護竜』の裏切りにより…『焼失』したのじゃ。


 偉大なる『世界樹』と、それがもたらす無限の豊穣を失った事で、大陸全体はその均衡を失い、大陸中…特に『バビロン』を含む周辺の王侯諸国らは、混沌の時代生き残るため残り少ない資源を奪い合う果て無き無限の闘争…『飢人戦争』起こした。


 王都『バビロン』は辛うじて残された『世界樹』の残滓、『根子HOPE』を頼りに何とか自国の維持だけは可能していたのだが、侯諸国らは『根子HOPE』を独占する王都『バビロン』を深く恨み、『根子HOPE』を簒奪する為、連合を組み王都に決死の全面攻撃を仕掛けた。


 嘗ての活気に満ちた黄金の都は見るも絶えない地獄絵図と化し、昼夜問わず行われる連合国の波状攻撃により狂乱した王都の民達は、教会の『黒き聖女』の先導もあってか愚かにも王都内で反乱を起こし、当時の統治者『ハムラ王』の首を刎ね、自らの助命と引き換えに王都『バビロン』と『根子HOPE』を連合国を明け渡したのじゃ…。


 しかし、ムシがいい王都の民の不忠を蔑如した連合国の将兵達は、彼らをかつて国を裏切った『守護竜』なぞらえ弾劾し、連合国の将兵達は彼らの正義の名のもとに王都の民を無情にも虐殺していっての…。


 民の男は生きたまま全身の皮を剥がされたのちに火にくべられ…女子供は犯されながら首を刎ねられたのじゃ。


 殺戮と略奪の宴は7日7晩続き、王都の民が皆殺しにされた後…悍ましき連合国の将兵たちは今度は『根子HOPE』の所有権をめぐり争い始めた。

 彼らは共通の敵を討つため固い協力をしていたはずだったのが、まるでそんな事実が無かったかのように互いを殺し合い始めた。

 その結果道では腐った死体の上に新鮮な死体が重なり、壁には乾いた血の上に瑞々しい血が重ね塗りされた…。


 夥しく流れ出る人々の穢血で、嘗ては美しかった都の川が全て深紅に染まる頃か…。

 王都『バビロン』の遥か上空から、かつて国を裏切った『守護竜』…もとい『罪骸竜ざいがいりゅう』が、地獄の戦場と化した王都の中心に降り立ち、その場にいる全ての罪深き愚か者達を一人の例外も無く『黒き焔』で焼き尽くしていった…。

 

 そうして夥しい死が重なり合い、生命の一つもいなくったと思われたバビロンであったが、この国における恐ろしい悲劇の呪いはまだ終わりでは無かったのじゃ。


 …取り残され、弔われず放置された多く遺骸と、絶望のまま無念に死んでいった成仏出来ない哀れな霊魂の匂いを嗅ぎつけた大陸中の幽鬼妖魔の数々が、この廃都『バビロン』に吸い込まれるかのように集結して、この悪夢の都を根城としたのじゃ。

 

 さらに、この『バビロン』にはかつてから『ハムラ王』が秘匿していた言われる数多くの『神の財宝』や『奇跡の秘術』、『力を与える悪魔』がいるとなど噂されておっての、将兵を失った大陸内の侯諸国は勿論の事、『バビロン』の滅亡を知った大陸外の国々もが、この都に眠る巨万の『遺産』を求め、『バビロン』に更に多くの人間をこの地に派遣したのじゃ。


 …教会の神託を受けた『祝福されし勇者』。

 …更なる名声を得る為に勇む『救国の英雄』。

 …資本家の口車に乗る『強欲な冒険者たち』。


 その他多くの愚かな者たちが、この廃都『バビロン』に挑んだが…誰一人として、この迷宮を攻略するどころか、


 廃都『バビロン』が発生した最初の内は、金の匂いを嗅ぎつけた『通商連合ギルド』のやり手商人達が、迷宮のすぐ近くに巨大な商業キャンプを設営して、せっせと商を行っておっての…。

 誰一人として帰って来ないこのに対して、駆り立てられた冒険心を抗えない世界中の多くの若者たちが、この『バビロン』に悉く食い尽くされていったのじゃ。


 多くの若者がこの迷宮に姿を消し、調査に向かわせた者達さえ帰って来ない事態を深刻に捉えた『元老院』の大賢者達は、廃都『バビロン』を完全に封鎖し、『通商連合ギルド』に迷宮に関わるなと厳重な通達を施したのじゃ。


 それから100年近い長い期間をかけての『元老院』の情報統制もあってか、この呪われた廃都『バビロン』の歴史と伝説は次第に人々の記憶から失われていったのじゃよ。

 …しかし、ワシのようなほんの一部人間だけは知っておるのじゃよ。


 …そうそう。お前さんが今眺めているじゃ。

 黒き暗雲が文字通り空を覆いつくし、未だ晴れる事無く立ち込めているあの薄暗い廃都、この遠い丘からでさえ伝わってくる悍ましい怨嗟の念と、聞くに堪えない魔物の絶叫が絶えず木霊するあの恐ろしき場所…。


 それがかつて栄華の極致に至った黄金の都『バビロン』。そして今は折り重なった強欲な穢れた人間達の腐った血肉と、不義の『罪骸竜ざいがいりゅう』が吐き散らした黒煤に塗り固められた呪われた廃都…



罪骸之墟TRASH SiN BABYLON』じゃ。









——————枯れ枝のような老人の語り部


 


 

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