バイト歴1年、まだ慣れません
瞬遥
プロローグ いつものコンビニバイト
「いらっしゃいませー」
今日もいつも通り、コンビニの自動ドアが開くたびに、条件反射のように声を出す。
私は、岩城灯里(いわきあかり)。
都内の私立大学に通う二十歳の大学生。
サークルには入らず、家で動画を見たり、本を読んだりするのが趣味。
バイトはここ、「エブリスタ翠川駅前店」で始めて約一年になる。
初めは「短時間でそこそこ稼げるし楽そう」と思っていたけど、蓋を開けてみれば、まぁ、楽な日はほとんどない。
とはいえ、もう一年も続けていると、それなりに慣れてきた。
レジ打ちもスムーズになったし、お客さんのクセみたいなものも何となく掴めるようになってきた。
「灯里ちゃーん、レジ交代お願い!」
金髪ボブの小柄なバイト仲間、福原美羽(ふくはらみう)が声をかけてくる。
「はーい、美羽ちゃんお疲れ」
「はー、今日マジで暑いね。アイス買って帰ろ」
「そろそろ夏だもんね」
美羽ちゃんは私より一ヶ月早くエブリスタで働き始めた同い年のバイト仲間。
同じ大学生だが、私よりもレベルの高い国立大学に通っている。
軽音サークルに入っていて、たまにライブの話なんかもしてくれる。
バイト中は基本、ダルそうな雰囲気を出しているけど、仕事はテキパキこなすタイプだ。
「おつかれ、美羽。帰る前に廃棄チェックしといてくれよ」
そう言って奥から出てきたのは店長の小幡さん。
中肉中背、最近少し白髪が増えてきたのを気にしているらしいけど、見た目よりもコンビニ歴の長さがにじみ出ているベテラン感がすごい。
クレーム処理は妙に上手いのに、バイトのシフト管理にはやたら厳しい。
「了解っすー」
「おい、美羽、”っすー”はやめろ」
そんな何気ないやりとりを聞きながら、私はレジに立つ。
夕方の時間帯は、ちょうど仕事帰りのお客さんが増えてくる頃だ。
レジに並ぶ人をさばきながら、ふと入り口を見ると、見慣れたメガネの先輩がやってきた。
「灯里ちゃん、入ってたんだね」
理系の国立大学に通う先輩バイト、安藤さん。
長身でメガネがトレードマーク。
バイト歴は私より長いけど、そこまでガツガツ仕事するタイプではなく、どちらかというとマイペース。
いつも何かしらのドリンクを買っていくのが習慣らしい。
「安藤さん、こんばんは。今日も何か研究ですか?」
「うん、炭酸飲料とコーヒーを混ぜたらどうなるか試したくて」
「絶対にまずいと思いますけど」
「試してみないと分からないよ」
たまにこういう謎の実験をしているけど、理系の人の発想ってこういうものなんだろうか。
そんなこんなで、今日もエブリスタ翠川駅前店は平和……とまではいかないけど、それなりにいつもの日常を送っている。
たぶん、この後も色々なことが起こるんだろうけど。
「……あっ、すみません、お箸何膳ご入用ですか?」
そして、私はまた、コンビニバイトという戦場に立つのだった。
(つづく)
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