妹に愛を、私に罰を

只石 美咲

序章 途絶えた返信

 メールの返信が途絶えたのは5日目の朝だった。

 会話の潤滑油じゅんかつゆが尽きて、お互いに悟ったように会話に終止符を打つ。


 離れ離れになれば仕方のないことで決して非難ひなんすべきことではない。


 相手には相手の生活があり、こちらが勝手に生活から離脱しているだけなのだから。


 唯一の救いは、5日もメールが続いたこと。


 これは快挙だ!


 今までは3日が最長だったから、2日も長く続いたのだ。

 それだけ相手にとって私は大切な友人になれたということだろう。


 スマホを閉じて、糊のパリッとしたセーラー服に手を伸ばす。

 新しい中学校の制服はこれで4着目。


 初めて制服を受け取った時は、大人になった気がして気分が高揚したものだ。

 でも今は、あてがわれた制服を仕方なく着るだけといった感じ。

 感動なんてなく、ただの煩わしい作業が追加されてしまった。


 そんな冷めた気持ちで、パジャマを脱ぎ捨てる。

 丸襟のワイシャツを着て、スカートを腰まで持ち上げ、ベルトで固定する。

 スカートのプリーツは乱れることなく垂直な線を描いている。


 制服に身を包み鏡の前に立つ。

 まさにセーラー服といったところだろうか。

 紺色のスカートに白いラインが上品さを醸し出している。



「おねえちゃん早く起きて!!1人でいくの嫌だからね!!」


 幼く可愛げのある声が、階段下から響いてきて、きゅっと胸が弾んだ。


「今行く」


「まったく!」


 私の声を聞いて納得したのか、不満げに足音を響かせながら理沙が遠ざかっていった。


理沙りさ


 妹の名前をつぶやくと、胸がはちきれそうになる。


 私は胸に手を添えて、気分を落ち着かせる。


 この気持ち、この感情だけは絶対にばれてはいけない。


 理沙に明かすことは許されない。


 私が苦しくて自分の想いを理沙に伝えるのは身勝手で、自己満足にすぎず、理沙の気持ちをまるで配慮できていない。


 言ったとしても、理沙は優しいから私を排除しない。でも、腫物を触るように接してくるだろう。


 私達は女である前に姉妹だ。


 私という存在に理沙は苦しむ事になる。


 家族にだって言うことは不可能。


 ただでさえ娘が女を好きだなんて、困惑するのにその好きな相手が血のつながった実の妹なんて聞きたくないだろう。


 知り合いの精神病棟に放り込まれかねない。

 友人にだって、相談することはできない。


 できるわけがない。


 相談できるほどの深い関係になるための時間が私にはないし、仮に相談できても、相手はどう思うだろうか。



 私は女だ。



 女が女を愛して性的に見ているなんて気持ちが悪い。


 ましてやそれが血のつながった、妹なんて禁忌にもほどがある。

 誰にも知られてはいけない。


 胸に沿えていた手を強く握りしめる。


 私の想いは私だけのもの。


 私は前日に準備しておいた鞄を手に持つと、足早に理沙の元へ向かった。




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