第5話:5月の兆しとざわめき
タクミは朝、目が覚めた瞬間から何か変だった。
ベッドのシーツが汗で湿ってて、肌にべたっと張り付いてる。
マットレスの端が背中に硬く当たって、少しゴリゴリした感触が残る。
窓の外から、5月の朝陽がカーテンの隙間を抜けて、床に細い光の線を引いてる。
時計の針がカチカチ動いてて、7時を少し過ぎてる。
身体を起こすと、肩に長い髪が落ちてきた。
首筋がくすぐったくて、手で払うとさらっとした感触が指先に残る。
「うっ、またか。」
呟いて、全身鏡に目をやった。
黒いストレートの髪が肩まで伸びてて、白いキャミソールが汗で張り付いてる。
ピンクのショートパンツの裾が太ももでふわっと広がってて、胸の膨らみが薄い布越しに目立つ。
でも、今日は何かおかしい。
下腹部に妙な重さがある。
鈍い痛みがじんわり広がってて、腰がだるい。
「何だ、これ……風邪か?」
呟いて、立ち上がった。
身体がいつもより重くて、足がふらつく。
今日は水曜日。
学校の日だ。
区大会が来週に迫ってる。
でも、この変な感じが頭をモヤモヤさせる。
階下から母さんの声が響いてきた。
「たくみー! 朝ごはんできたよー!」
少し甲高くて、台所の壁に反響してる。
階段を下りると、木の手すりが冷たい。
擦れた感触が指に伝わって、一段ずつ踏むたびに下腹部の重さがズキッと響く。
顔をしかめて、息を小さく吐いた。
台所に着くと、パンの焼けた匂いが鼻に漂う。
バターの甘い香りがふわっと混ざって、スクランブルエッグが皿で湯気を立ててる。
母さんがエプロンを着てて、肩までの髪が朝の湿気で跳ねてる。
「おはよう、たくみ。顔色悪いよ、大丈夫?」
ニコッと笑うけど、目元が少し心配そうに細まる。
「うん、おはよう。ちょっとだるいだけ。」
タクミは椅子に座った。
木の表面が冷たくて、背もたれが背中に当たる。
座ると下腹部の重さが強くなって、腰がズキズキする。
父さんが新聞を広げてて、眼鏡越しにこっちを見た。
「おはよう、たくみ。女の子は大変だな。春は体調崩しやすいし。」
新聞をカサカサ動かしながら笑った。
タクミは一瞬固まった。
「女の子って……何だよ、それ。」
小さく呟いて、パンを手に持った。
バターが溶けてて、指に少しべたつく。
口に運ぶと甘い味が舌に広がるけど、いつもより味が薄い。
学校に向かう道は、いつもより長く感じた。
江戸川の土手が右側に見えて、5月の朝陽が水面に細かく反射してる。
土手の草が風に揺れて、薄緑の波みたいに動いてる。
タクミはランドセルを背負って歩いた。
スカートの裾が膝に当たって、太ももがスースーする。
歩くたびに胸が小さく揺れて、肩紐が食い込んでズキッと痛む。
でも、今日は下腹部の重さが一番気になる。
鈍い痛みが波みたいにきて、腰がだるい。
「何だよ、これ……気持ち悪い。」
呟いて、スニーカーの先で地面を軽く蹴った。
砂利がカリカリと乾いた音を立てて、小石が跳ねる。
近所の塀沿いを歩くと、コンクリートに苔が薄く生えてる。
朝露で濡れた緑が光ってて、足元の桜の花びらがスニーカーの底でクチャッと潰れた。
教室に入ると、空気が湿っぽかった。
窓が開いてて、5月の風がカーテンをふわっと揺らしてる。
机の上に教科書やノートが散らばってて、鉛筆の削りカスが床に落ちてる。
タクミは自分の席に座った。
後ろから2番目だ。
椅子の冷たい感触が太ももに当たって、ヒヤッとする。
スカートが膝の上で広がって、脚がスースーする。
隣にツバキが座ってきて、鞄をドサッと置いた。
「おはよ、たくみ。どうしたの?顔色悪いよ。」
さばさばした声で言うと、長い髪が肩を越えて少し乱れてる。
タクミは笑顔を作った。
「おはよう。ちょっと寝不足かな。」
適当に答えたけど、下腹部の痛みがズキッと強くなって、顔をしかめた。
ツバキが目を細めた。
「ふーん。無理しないでね。区大会近いしさ。」
ニヤッと笑うと、机に肘をついた。
タクミは頷いて、ランドセルを机に置いた。
革の匂いが鼻に漂って、少し汗臭い。
昼休みになった。
タクミは弁当を開けた。
プラスチックの蓋を外すと、卵焼きの甘い匂いが鼻に漂う。
ご飯の上に海苔が敷かれてて、梅干しの赤が少し滲んでる。
箸を手に持つと、手が震えて上手く持てない。
下腹部の痛みが強くなってきて、腰が重い。
ハルミが近づいてきて、ニコッと笑った。
「たくみ、一緒に食べよっか。」
長い髪が風に揺れて、薄い水色のブラウスが汗で湿ってる。
タクミは小さく頷いた。
「うん、いいよ。」
ハルミが椅子を寄せて、弁当を開けた。
「おにぎりだけだけどさ、妹が朝グズってて母さん忙しかったんだ。」
少し照れ笑いを浮かべて、おにぎりを手に持った。
タクミは卵焼きを箸で摘んで、口に運んだ。
甘い味が舌に広がるけど、食欲が湧かない。
下腹部がズキズキしてて、胃が締まる。
「たくみ、大丈夫?顔真っ青だよ。」
ハルミが心配そうに顔を覗き込んできた。
タクミは慌てて笑った。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。」
でも、その時、下腹部に何か温かいものが流れる感覚がした。
一瞬息が止まって、椅子から立ち上がった。
「ごめん、トイレ行ってくる。」
声が裏返って、高い音が耳に響いた。
ハルミが目を丸くした。
「うん、気をつけてね!」
トイレに駆け込むと、ドアを閉めた。
カチッと音がして、静かな空間に息が荒く響く。
スカートを捲ると、生地がシャカシャカ擦れて、太ももがスースーする。
下着を下ろすと、ピンクの布が膝まで落ちてきた。
赤い染みが広がってる。
「何!?血!?」
頭が真っ白になって、膝がガクガク震えた。
下腹部の痛みが強くなって、腰がズキズキする。
「これって……生理?」
呟いて、息が詰まった。
母さんが昔、「女の子は大変だよ」って言ってたのを思い出した。
でも、自分が男だった時はこんなの考えもしなかった。
「うわっ、気持ち悪い……どうすんだよ、これ。」
慌ててトイレットペーパーを手に取った。
紙が指に湿ってて、冷たい。
下着を拭うと、赤い染みが広がって、心臓がバクバクする。
保健室に行くしかない。
スカートを整えて、トイレを出た。
歩くたびに下腹部が重くて、足がふらつく。
保健室に着くと、ドアをノックした。
木の表面が擦れてて、冷たい感触が指に伝わる。
「どうぞー。」
中から声がして、入ると白いカーテンが風に揺れてる。
消毒液の匂いが鼻に漂って、喉が少しヒリッとする。
担任の結城マイコ先生が椅子に座ってて、書類を手に持ってる。
「たくみ、どうしたの?顔色悪いよ。」
少し眠そうな声で言うと、肩までの髪が乱れてる。
タクミは目を逸らして呟いた。
「その……生理が来たみたいで。」
声が小さくて、喉が詰まる。
マイコ先生が目を丸くして立ち上がった。
「ああ、そういうことね。初めて?」
タクミは頷いた。
「うん……何だか気持ち悪くて。」
先生が笑って、棚から何かを取り出した。
「大丈夫よ。慣れるまでは大変だけどね。ほら、これ使って。」
ナプキンを渡された。
白いパッケージが指に冷たくて、少し硬い。
「トイレでつけてみなさい。わからないことがあったら聞きにきてね。」
タクミは頷いて、保健室を出た。
トイレに戻って、ナプキンを手に持った。
紙がカサカサ鳴って、指に汗ばむ。
下着に貼ると、厚い感触が股間に当たって変だ。
「慣れねえよ、これ……。」
呟いて、スカートを整えた。
歩くとナプキンが擦れてムズムズする。
でも、下腹部の温かい感覚が少し落ち着いてきた。
放課後、タクミはハルミと一緒に帰った。
夕陽が江戸川区小岩の町並みをオレンジに染めて、古びた商店街の看板がカタカタ揺れてる。
スカートの裾が膝に当たって、太ももがスースーする。
下腹部の重さはまだ残ってて、腰がだるい。
ハルミが紙袋を手に持ってて、キャラメルの甘い匂いが漂ってくる。
「たくみ、今日さ、ほんと大丈夫だった?顔真っ青だったよ。」
首をかしげてこっちを見ると、長い髪が夕風に揺れる。
タクミは笑った。
「うん、大丈夫。ちょっと体調悪かっただけ。」
声が少し高くて、喉が乾いてる。
ハルミが目を細めた。
「ふーん。女の子って大変だよね。私も最初ビックリしたもん。」
クスクス笑うと、指先が夕陽に透けてる。
タクミはドキッとした。
「大変って……何だよ、それ。」
小さく呟いて、顔がカッと熱くなった。
ハルミが肩を叩いてきた。
「まあ、慣れるよ。また明日ね!」
軽く手を振って、スニーカーの足音がコツコツ遠ざかった。
タクミはその背中を見ながら、胸がドキドキしてるのを感じた。
「慣れるって……こんなの慣れねえよ。」
呟いて、家に向かった。
家に着くと、玄関のドアを開けた。
木がギィと軋んで、暖かい空気が顔に当たる。
「ただいまー。」
声が少し高くて、喉が乾いてる。
母さんが台所から顔を出した。
「おかえり、たくみ。遅かったね。」
エプロンを着てて、額に汗が滲んでる。
「うん、ハルミとちょっと話してた。」
ランドセルを下ろして、スリッパに足を入れた。
つま先がはみ出てて、踵が浮いてカタカタ鳴る。
夕飯のテーブルに座ると、味噌汁の湯気が鼻をくすぐった。
鶏の照り焼きが皿に盛られてて、甘辛いタレがテリッと光ってる。
椀を手に持つと、陶器が熱くて指がジンジンする。
味噌のしょっぱさが舌に広がるけど、下腹部の重さが気になって食欲が薄い。
母さんが顔を覗き込んできた。
「たくみ、どうしたの?ボーッとしてるよ。」
タクミは箸を置いて目を逸らした。
「その……今日さ、生理が来たみたいで。」
声が小さくて、喉が詰まる。
母さんが目を丸くして箸を止めた。
「えっ、初めて?そっか、びっくりしたよね。」
少し笑って、椅子を寄せてきた。
「うん……気持ち悪くてさ。ナプキン使ったけど、慣れなくて。」
呟くと、顔がカッと熱くなった。
母さんが頷いて手を握ってきた。
「大丈夫だよ、たくみ。最初は誰でも戸惑うから。痛かった?」
温かい手が指に伝わって、少しホッとする。
「うん、下腹部がズキズキしてて、腰もだるい。」
母さんが笑った。
「そっか。じゃあ、お風呂入ってゆっくりしてね。ナプキンは夜用もあるから、後で持ってくよ。」
タクミは頷いて小さく笑った。
「うん、ありがと、母さん。」
でも、心の中はまだぐちゃぐちゃだ。
「女の子って、大変だな……。」
呟いて、味噌汁をすする音が静かに響いた。
たくみは朝から喉が変だった。
ベッドから跳ね起きると、シーツが少し乱れて、マットレスがギシッと軋んだ。
窓に近づいてカーテンを開けると、5月の朝陽が一気に部屋に差し込んでくる。
江戸川の土手が遠くに薄緑の線になってて、朝日でキラキラ輝いてる。
「今日もいい感じだな。」
呟いて、全身鏡の前に立った。
短い髪が額に落ちてて、白いTシャツが汗で湿ってる。
グレーのハーフパンツの裾が膝の上でピッタリしてる。
でも、声が掠れてる。
喉がザラザラしてて、少し低く響く。
「おはよう――って、うわ、声が!」
自分で言って目を丸くした。
もう一度呟いてみた。
「もしかして……これが声変わり?」
ニヤッと笑って、鏡に映る自分を見た。
喉仏が少し膨らんでて、触ると硬い感触が指に伝わる。
「少し男っぽくなってきたかな。」
笑いが止まらなくて、拳を握った。
学校に向かう道で、たくみはニヤニヤしてた。
スニーカーが地面を蹴るたびに、小石がカツカツ跳ねる。
ポロシャツの襟が風に揺れて、汗で少し湿ってる。
喉がザラつくたびに声が低く掠れて、心が弾む。
校庭の砂がザクザク鳴って、埃がスニーカーに付く。
カイが近づいてきて肩を叩いた。
「おはよ、タクミ。声、変じゃね?」
カイがニヤッと笑う。
たくみは笑った。
「おはよ。声変わりだよ、やっと男っぽくなってきただろ。朝、鏡見てテンション上がったよ。」
声が掠れて低く響くのが嬉しくて、口元が緩む。
カイが目を細めて肩を軽く叩いてきた。
「へえ、いいじゃん。区大会で吠えそうだな。でもさ、声変わっても塾の宿題は減らないぜ?」
少しからかうような口調で、鞄を机にドンッと置いた。
たくみは一瞬黙った。
塾か。
昨日、父さんに「ちゃんとやれよ」って言われたのが頭をよぎって、胸がモヤッとする。
「うん、まあ……野球の方が大事だけどな。」
笑って誤魔化したけど、手元の鉛筆を握る力が強くなった。
放課後、たくみは塾に向かった。
夕陽が江戸川区小岩の町並みをオレンジに染めて、古びた商店街の看板がカタカタ揺れてる。
ランドセルが肩に重くて、革の紐が食い込んでズキッと痛む。
塾のビルが見えてきて、ガラス窓が夕陽で赤く光ってる。
「めんどくさいな……。」
呟くと、声が掠れて低く響く。
エアコンの冷たい風が顔に当たって、汗がスッと引いた。
教室に座ると、机の木が冷たくて、教科書の紙の匂いが鼻に漂う。
算数の問題が目の前に広がってて、分数や小数がグルグル回ってる。
喉がザラつくたびに、声が変わった実感が湧く。
でも、塾の時間が長く感じて、胸がざわつく。
「女の時はこんなのなかったのに。」
小さく呟いて、鉛筆を手に持った。
木の感触が指に硬くて、少し汗ばむ。
夜、たくみは家に帰った。
玄関のドアを開けると、木がギィと軋んで、暖かい空気が顔に当たる。
「ただいまー。」
声が低くて、喉が震えた。
母さんが台所から顔を出した。
「おかえり、タクミ。声、変わった?」
エプロンを着てて、笑顔が柔らかい。
たくみはニヤッと笑った。
「うん、ちょっと男っぽくなってきただろ。」
夕飯のテーブルに座ると、豚の生姜焼きの香ばしい匂いが鼻に抜ける。
味噌汁の湯気が顔に当たって温かい。
父さんが言った。
「タクミ、声変わりか。もうすぐ中学生になるんだ。塾も頑張れよ。」
たくみは箸を止めて眉を寄せた。
「うん、わかってるよ。」
でも、心の中では苛立ちが募ってる。
「男の身体は最高だけど、塾はなぁ。」
呟いて、ご飯をかき込んだ。
タクミはベッドに寝転んだ。
シーツが湿ってて、マットレスがギシッと軋む。
下腹部の重さがまだ残ってて、ナプキンの感触がムズムズする。
「女の子って、大変だな。」
呟いて、目を閉じた。
たくみはベッドにドサッと座った。
「塾か……。」
呟いて、天井を見上げた。
5月の夜が、二人を静かに包んでいく。
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