第25話 熱海旅行

「いやー、一時は誰かと鉢合わせするんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど、誰とも会わなかったね」


 怜さんは、新幹線の自由席で胸を撫で下ろしていた。


「私もですよ~。仕事以外で店長達に会いたくは無いですよ」

「だよねー。ゴールデンウイーク終わりかつシーズンオフを狙って計画したかいがあったよ」


「さすが、私のお嫁さんだね! 安心して旅行出来るよ」

「ふふ、結衣。これからも一緒だよ」


 私たちは、手を繋いで熱海に着くのを楽しみにしていた。

 熱海に到着すると、山々に囲まれた自然と綺麗な海、そしてさんさんと照らす日差しが私たちを歓迎してくれた。


「さて、まずは来宮神社へお参りして私たちの縁が長続きするよう願っておこう」


 私は怜さんの案内に従って新幹線から電車に乗り換えて一駅降りた。

 ゴールデンウィーク終わりにも関わらず、外国人を中心に来宮神社へ訪れる人が多かった。どうやら、縁結びの神様を祀っている祭ってい神社らしくて、まさしく私たちにピッタリだった。


「え! 境内にカフェがあるの!」

「結衣、ちょっと落ち着きなさい」


 神社の境内にカフェがあるなんて珍しくてワクワクしていた。


「ねぇ! 神社の隣のカフェで一旦休憩してお茶してから参拝しません? ちょっと紅茶を飲んで甘い物を食べたくなった」

「結衣ー。ちょっと甘え過ぎだよー。でも、熱海紅茶気になる」

「やったー!」

「ふふ、相変わらず子供っぽいわね」


 こうして、境内のカフェを楽しんだ後でいよいよ参拝するときが来た。

 私たちは、お賽銭の方へ立って祈願する。

 私たちの夫婦関係が続きますように。


「よし、ここから温泉街巡りしにいこっか」

「はい! 怜さん」


 私たちは来宮神社から出ようとしたときに、あることに気付いた。


「あれ? あの子どこかで……」

「どうしたの? 結衣」

「いえ、あそこにいる子ってどこかで見た気がするの」


 私が指を指すと、見慣れた制服の女の子が来宮神社の入口近くのカフェで誰かを待っていた。いかにも学級委員長をやってそうな雰囲気の子で、彼女が座っているテーブルには食べかけのケーキとドリンクが二つずつあった。


「あの制服って、薫や太宰さんが着ている制服……だよね」

「うーん。確か、前のクローズドベータテストの時に太宰さんとペアで参加してた子に似てる?」

「ま、まさか。たまたま似てる子かも。あの子が着てるなんてない」

 私たちは自分に言い聞かせるように呟き、そそくさと温泉街へと向かう。


「わぁ、足湯だ!  怜さん、ちょっと休まない?」

「結衣、紅茶飲んで休んだでしょ?」

「でも、足湯は別腹!」

「……まあ、確かに気持ちにそうだね」


 私たちは、通り沿いにある無料の足湯に足をつけた。

 じんわりと温まる温泉に、二人でほぅっと息を漏らす。


「うん……結衣の足、ちょっと冷たかったね」


 怜さんが私の足をちょっとだけ撫でる。


「ひゃっ!? な、何してるんですか!?」

「ふふ、ちょっと温めてあげようかと思って」

「うう……妙にドキドキする……」

「結衣って、意外と足フェチ?」

「ち、違いますぅ!!」


 思わず照れながら、私は足をバシャバシャと動いて誤魔化した。

 その後、温泉街へ向かいお饅頭や熱海プリンを堪能したり、お店の人向けのお土産を買って二人で楽しんだ。

 あぁ、こんな幸せが続いたら良いのにな。


 百合デートをたっぷり満喫した後、怜さんがふと時計を見る。


「そろそろ、チェックインしようか」

「そうだね!  どんなお宿なの?」

「ふふ、着いてからのお楽しみ」


── 旅館の前に着くと……


「え? ……え? えぇぇぇぇぇぇ!?」


  私は怜さんの腕をガシッと掴んだ。


「怜さん!?  ちょ、待って!? これ、普通の旅館じゃなくて……ラブホ!?」

「あ、気づいた?」

「気づいた? じゃないですよ!!  なんで!?  どこかの高級旅館のはずでは!?」

「いや、だってその……結衣と、ちゃんと過ごしたくて?」

「……」

「……ダメ?」

「ダメじゃないです!!!  むしろこの日をどんなに待ち望んでいたか!」

「お、落ち着いて?  ね?」

「あ、えと……はい」


 私の顔が、恥ずかしさと嬉しさで真っ赤になった。

 こうして、私たちはふたりきりの夜を迎えることになった。


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