26話目 報告ともう一つの告白の話
週が開けて火曜日の放課後。私と玲奈、それとカリンさんは、学校の空き教室に集まっていた。私と玲奈はぎゅっと手を繋いでいる。
「その様子だと、聞くまでもないデスね」
「うん。けど、聞いてもらいたくて来てもらったの」
「分かりました」
カリンさんは俯きがちになっていた。
「私、玲奈と付き合うことにした。だから、カリンさんの気持ちには答えられない」
「……分かりました。ありがとうございます。返事、してくれて」
しばらくの沈黙の後、カリンさんは言った。
「……一人にさせてください」
後ろ髪を引かれながらも、私と玲奈は空き教室を出ていった。
× × ×
初めから答えはなんとなく感じ取っていた。けれど、言わずにはいられなかった。それがワタシ、カリン・ブライアントという人物だからだ。
空き教室にガラガラと扉の開く音が響き、誰かが入ってきた。誰だろうと顔を向けてみると、そこにはアヤノが立っていた。
「やっぱり振られたんだ」
「はい、振られちゃいました」
「昔から告白しては振られての繰り返しだもんね」
「はい、いつもそうデス」
ワタシは一息ついてから言葉を続けた。
「でも、今回は彼女──サクラコに恋をした。というのは実は間違いだったのかも知れない」
「どういうこと?」
アヤノは首を傾げてワタシに尋ねる。
「確かに昔からワタシは惚れっぽいのは事実デス。でも、今回はなにかが違うって直感があったのデス」
ワタシは指先を弄んで言葉を続ける。
「ワタシが恋したのは、サクラコ自身じゃなくって、レイナに恋心を向けるサクラコだったのかもしれません。そんなサクラコに恋──ううん、違う。憧れを抱いたんだと思います」
アヤノはじっと黙ってワタシの話を聞いてくれる。ワタシは天井を見上げながらため息をついた。
「あーあ、何度も経験してますけど、失恋はシンドいデスね……」
「それでも止めないんでしょ」
「ハイ、それがワタシデスし、青春デスから」
どうしてか深いため息をアヤノはついた。
「いい加減止めたら」
アヤノは鋭い言葉で容赦なく刺してきた。
「いい人が出来たら止めます」
俯きがちになってワタシは言う。すると、アヤノから声がかかった。
「……それ、ボクじゃだめ?」
唐突な提案に一瞬、ワタシは言葉を失ってしまった。
「え、どういうことデス?」
「カリンが恋愛体質なのは嘘でしょ」
アヤノはすばり指摘してくる。
「そんなことないデス! ワタシが惚れっぽいのは──」
「嘘。本当はフィアンセとの縁談を切りたいからなんでしょ」
「そ、それは……」
ワタシが内に秘めていた思いをこうもあっさり暴かれてしまった。
「いつから気づいていたのデスか?」
「おかしいなと思い始めたのは中学入ってから。その頃だよね。アヤノが色んな人に声かけてたのは。フィアンセの話のせいじゃないかって気づいたのは、中学三年生になってから。なんとなくだけど、焦りが見えた気がするから」
俯きがちなワタシの顔が更に俯く。
「……アヤノにはなんでもお見通しですね」
しばらくの沈黙。静寂を破ったのはアヤノの方だった。
「ねえ、カリン。高校卒業したら、ボクと一緒に逃げよう」
「逃げるなんて……」
「ボクがバイトしてるのは、この先カリンと逃げるためのものなんだ」
ワタシは顔を上げて目を見開く。
「そうだったのデスか」
「そう……今はまだ心許ないけど……」
アヤノは一呼吸ついてからワタシに言った。
「ボクと共に来てくれないかな?」
アヤノはワタシに手を伸ばす。ワタシは迷うことなくアヤノの手を取る。
「……こんなワタシで良ければ」
ワタシはアヤノの手を取った。
「でも、一つ条件があります」
「条件?」
「バイト、ワタシにもさせてください。アヤノ一人に負担はかけさせたくないデス」
アヤノはワタシにも見せたことのないハニカミを見せて答えてくれた。
「そういうことなら」
アヤノはそっとワタシの手の甲にキスをした。
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