12話目 海に遊びに行く話 その1

 七月の暑い日の中、終業式が終わった。その放課後、私たち四人はクーラーの利いた教室の隅に集まっておしゃべりしていた。

「いよいよ夏休みデス! みんなはなにするか決まってますか?」

 カリンさんが口火を切って、続けて私は話す。

「私は宿題早くやっつけて、本でも読もうかな」

「サクラコはインドア派なのデスね。レイナはなにするんデスか?」

「あたしも早めに宿題片付けて、あとはバイトかな」

「アヤノはどうするのデスか?」

「ボクはずっとバイト」

「あれ? 宿題は」

「後回しでもできる」

「そう言って、ワタシの宿題、写そうって気なんでしょ?」

 菊池さんはそっぽを向く。どうもその気満々らしい。

「カリンさんはどうするの」

 私はカリンさんに尋ねた。

「ワタシは遊び尽くしたいデス! 夏祭りに、海! ネーネー、みんなで行きませんか? あと、パジャマパーティーもしたいデス!」 

 カリンさんは私たちを見ながら訴えてくる。

「私はいいけど、二人は?」

「桜子が良いならあたしも行く」

「ボクはバイトをす──」

「ジーーーー」

 カリンさんは菊池さんを睨みつけるように見つめている。

「分かった。分かったから。日付、合わせるよ」

「やったー! それじゃあみんなで夏を満喫するデス!」

 気合い充分なカリンさんを見てなんだか微笑ましくなった。

 × × ×

 夏の海辺。日差しが眩しく、空は雲一つない絶好の海水浴日和となった。

 私は花柄のワンピースタイプの水着に着替えてみんなが集まるのを待っていた。

 まず最初に合流したのは菊池さんだった。菊池さんはボーダー模様の水着にサーフパンツを合わせていた。

「二人は?」

 そっけなく菊池さんは言う。

「まだ着替え中みたい」

「そう」

 そこで会話が終わってしまった。菊池さんはクールでかっこいいと思う。

 普通なら気まずいだろう沈黙の時間は苦ではなかった。

 程なくして、玲奈がやってきた。

「お待たせー。あとカリンだけ?」

 そう言う玲奈は青のシンプルなビキニスタイルだった。

「やっぱり桜子はワンピース系なんだ」

「うん。肌出すのって勇気がいるっていうか……」

「ビキニタイプも似合うと思うんだけどなー。出るとこ出てるし、引っ込むところは引っ込んでるし」

「ええー、そうかな? お腹周り、出てない?」

「そんなことないよ。ねー」

「ボクに同意を求められても。まあ、痩せてる方ではあるんじゃない?」

「ほら、今度試してみようよ」

「えーっと……」

 ビキニスタイルの自分を想像してみる。想像だけで顔が熱くなるのを感じた。

「私にはやっぱりちょっと……」

 私はその場でモジモジしてうつむく。

「そっか、まあ無理強いは出来ないもんね」

「ボクも同感」

「お待たせしましたー」

 カリンさんの声がして顔を上げる。カリンさんの水着は鮮やかなオレンジ色のパレオスタイルだった。

「どうデスか? 似合いますか?」

「うん。似合ってると思う」

「うんうん。さすがあたしらのファッションリーダーって感じ」

 菊池さんは頷きで同意を示した。

「あ、先生たちいますよ!」

 カリンさんが指を指す。その先にはビーチパラソルの下、ビーチベッドで寝ている城崎先生と柏川先生先生がいた。二人はおそろいの黒いビキニを身につけていた。

「声かけましょう!」

 カリンさんが大声をあげようとすると、菊池さんがカリンさんの肩を掴んで静止していた。

「待ってカリン。そっとしておこう」

「どうしてですか? 楽しいと思うのですが」

「先生たちは付き合ってること隠してるんだよ。たぶん、見られたくないと思う」

「あたしも同感。せっかくのお休みなんだからのびのびさせてあげよう」

「私も同意見」

 付き合っていることを隠している先生たちからしたら、声をかけられて見つかることは迷惑だと思う。そっとしてあげたほうが良い気がする。

「みんながそう言うなら、そうします」

 カリンさんはシュンと小さくなる。私たちは先生たちに気づかれないようにその場を去っていった。

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