星が好きな藍川さん

入江 涼子

第1話

 ある小さな町に、藍川さんは住んでいた。


 藍川さん、年齢は三十八歳。独身の会社員で某アパートにて、一人暮らし。外見は普通、趣味はプラネタリウム鑑賞に天体観測、たまに読書と言ったところか。

 今日も一人で近くにある公園に向かい、ぼんやりと過ごす。


(あ、おうし座のプレアデス星団だ。日本語名は昴星すばるぼし!)


 目を凝らして、藍川さんは昴星を内心で数えた。けど、長年のデスクワークのおかげか。疲れてショボショボした目では大した成果は得られない。結局、四つだけしか見つけられなかった。肩を落としながら、自宅に帰ったのだった。


 今、二月の下旬だ。藍川さんはアパートの一階にある自室に着くと、鍵を解錠する。中に入ると軽くクレンジングオイルでメイクを落とす。洗顔料でよく洗い、タオルで水気を拭いた。


「ふう、すっきりしたあ」


 ヘアピンを外し、寝室に向かう。普段着に替え、キッチンに行った。冷蔵庫からレンチンできるきつねうどんを出し、電子レンジの前に。容器を入れ、扉を閉めた。ボタンを操作して温める。お箸を取りに行き、ついでにほうじ茶も淹れた。

 ピーピーと電子音が鳴り、ミトンを履く。扉を開け、容器を取り出した。フィルムなどを取り、テーブルに置く。履いていたミトンも外して傍らに。きつねうどんにありつく。


「いただきます!」


 一人で言うと、最初におだしが染み込んだ油揚げを食べた。甘辛いのが癖になりそうだ。

 うどんやネギも息を吹きかけながら、食べる。藍川さんはしばらく、食事に勤しんだ。


 入浴を済ませ、午後十時過ぎには就寝した。明日は土曜日、会社はお休みだ。久しぶりに近くにある天文台に行き、プラネタリウムを堪能して来よう。そう思いながら、瞼を閉じた。


 翌日、藍川さんは浮き浮きした気分で身支度をした。一通りできたら、アパートを出る。目指すは天文台だ。

 だが、途中であまり面識がない女性から声を掛けられた。


「あれ、藍川さん?」


「……え、何で。私の名前を?」


「ははっ、スーツ姿じゃないし、髪をアップにしちゃってるからなあ。分からないかな」


「はあ」


「同じ部署で隣のデスクの川上です」


 藍川さん、相手の声や名前でやっと思い出したようだ。目を軽く開く。


「あ、隣の川上さんかあ。普段、かっちりしたスーツに引っ詰め髪だから、分からなかった」


「だよねえ、藍川さんは普段着でもすぐ分かったよ」 


 川上さん、普段は真面目で隙がないが。プライベートでは髪をアシアナネットでアップにして、シックながらにオシャレなワンピース姿だ。藍川さん、ちょっと同性としては負けたと思う。


「川上さん、今からどこかに行くの?」


「うん、休日だからさ。カフェにでも行こうかなと」


「ふうん、私はプラネタリウムでも見に行こうと思ってて」


「え、プラネタリウム?」


「うん、そうだけど」


「……藍川さん、もしかして。一人で行くの?」


 藍川さん、素直に頷いた。川上さん、ちょっと憐れみがこもった目を向けた。


「普通はプラネタリウムって、彼氏と一緒に行ったりするものだけど」


「いやあ、私はあまり気にしないんだよね」


「そう、何て言うか。藍川さんって天体観測とかさ、好きなの?」


「うん」


「……直球な答えだね」


 川上さんは苦笑いした。藍川さんは不思議そうにしている。


「じゃあ、川上さん。私は行くね」


「あ、ちょっと待って。良かったらさ、あたしも付いて行っていい?」


「え、川上さん?」


 藍川さん、いきなりの誘いに戸惑う。川上さんは好奇心が滲む表情で告げた。


「あたし、こう見えて。兄貴が天文ファンでさ、興味はあったんだよね」


「そうなんだ」


「プラネタリウムが終わったら、星座とか教えてよ」


 藍川さんは驚きを隠せない。意外と川上さんはグイグイ来る。


「分かった、私で良かったらさ。教えるよ」


「やった、じゃあ決まりだね。天文台に急ごうよ!」


 藍川さんは川上さんと二人で天文台に行く。プラネタリウムを楽しめたかは神のみぞ知る……。


 ――終わり――

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星が好きな藍川さん 入江 涼子 @irie05

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