スキ

上田 由紀

スキ

スキ、って言えない。

あなたと向かい合っていると、なおさら……。


スキと言ったとたん、あなたが離れて行ってしまいそうで。

心地良い距離感が崩れてしまいそうで。

そして、どんどんあなたに引きずり込まれそうになるから。


だから、スキと言えない。

スキを、胸の奥に押し込める。


笑顔を向けるあなた。

その眼差しに真意を確かめようとしても、

見えない、分からない。

あなたの存在は、こんなにも心地良いのに。


本当は思い切って、スキって言いたい。

でも、やっぱり言えない。

ますます、あなたに惹かれてしまいそうになるから。

そして、あなたを失ってしまうかもしれないから。

自分にブレーキをかけるために、スキの言葉を飲み込む。



一人ぼっちの夜。

目蓋に浮かぶあなた。

私は何度もスキ、と呟く。

目の奥が熱くなる。

寂しさが募る。

だけど、あなたを想って寂しくなるのも、

そう悪くないわ。

私は甘美な寂しさに身をゆだねる。


ねぇ、いつか、

友達を超える日が訪れるのかしら?









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スキ 上田 由紀 @1976blue

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