第6話 知ってた

 オルベールが腕を振ると地面が抉れる。恐らく魔力糸を使っているのだろう。アルフィナは、空を飛びながら魔法を準備している。


 「ファイアボール」


 炎の塊がオルベールに向かう。その数20を下らない。ドーンと爆発が起こり砂埃が舞う。


 ・・・ファイアボールって爆発するの?でも、今ので多少はダメージを与えられたんじゃないかな?


 「お互い小手調べなのじゃ!!ここからが本番じゃのう」


 あれで小手調べなんだ。もう既に普通の人間なら三回は死んでるよ?


 砂埃が消えた後には、繭があった。いやあれは、オルベールの糸か?糸を大量に出し周囲を覆う事で防御したのだ。使い方が上手い。英霊のゴーレムは、生前の戦い方に沿っているらしいからオルベールは、生前からあの防御を編み出していたのだ。


 「集え」


 オルベールの号令で瓦礫が集まるりオルベールの眼前で瓦礫が組み上がる。巨大な岩の塊。ゴーレムと聞き真っ先に思い起こす姿をしている。高さ五メートルを超える岩の塊が意思を持って動きだす。


 「うーん。これは、参ったな。僕でも少し苦労しそうだよ」


 少しってアルフィナにとってあの程度は、脅威ですらないのか?


 「リリス。アルフィナは勝てるのか?」


 「うむ!負ける事はないのじゃ!!あれは、ゴーレムと言えど所詮作り物じゃ。普通のゴーレムより劣る。オルベールが魔力糸で繋ぎ合わせ仮初のゴーレムにしておるだけじゃ!!」


 つまり普通のゴーレムより弱いから、アルフィナにとっては、問題ないと言うことかなのかな?いやいや、攻撃が効いてない様に見えるんだけど?


 「流石じゃな!!アルフィナは、多数の者と戦う事を得意としておるが、その分魔法の威力が強すぎるのじゃ!!制御を間違えれば、周りを無差別に巻き込んでしまうのじゃ!!」


 「リリス。悪いがユータを守ってくれ。僕は、少し本気を出すよ」


 「任せるのじゃ!!ユータこっちに来るのじゃ!!」


 リリスは、結界を張ると俺の手を引っ張り結界内に連れ込む。


 「ユータ急ぐのじゃ!!」


 「おい!!待てよ!!そんなに焦らなくても訓練場にも結界は、張ってあるだろう?」


 「あの程度では、完全に防ぐ事は出来ないのじゃ!!彼奴が何故破滅の魔女と呼ばれているのか、それが分かるじゃろう」


 リリスは目線でアルフィナを示す。アルフィナの呪文により、魔法がアルフィナの周りを駆け巡る。火、水、風、土、光、闇それぞれの属性が混ざり合う。


 混ざり合った魔法は、アルフィナを包み込む。繭の様にアルフィナを囲んだ魔法が解けるとアルフィナが冷たい眼で眼下を睨んでいる。


 「あれは、アルフィナなのか?」


 元々青い髪に金色の瞳を持つアルフィナが、今は黒い髪に黒い瞳であり、いつもの様な人を揶揄いながらニコニコしている姿は無く、只々冷たい視線を向けている。


 「あの姿は久方ぶりじゃのう」


 「リリスは、あの姿が何なのか知っているのか?」


 「うむ!あれもアルフィナじゃ!!しかし、いつものアルフィナと違うのも事実じゃな!!あれは、膨大な魔力を纏っている状態じゃ!!」


 「そっそれは、アルフィナは大丈夫なのか?」


 「うむ!問題ないのじゃ!普通の人間では、魔力に身体が耐えられないが彼奴は特別だからのう!!ただ、ほんの少しだけ暴走するだけじゃ!!」


 「暴走って・・・。本当に大丈夫なのか?」


 「うむ!いざとなれば妾が止めるからのう。安心するのじゃ!!」


 リリスがこう言うのだ。大丈夫なんだろう。頼むからあんまり周りを壊さないでくれよ。


 アルフィナとオルベールの勝負がどうなったのか?というとアルフィナが勝った。あの後オルベールの攻撃を悉く防ぎ、オルベールの切り札だったゴーレムを破壊した。


 「ユータ。僕の闘いはどうだった?」


 アルフィナは、現在幼女の姿だ。魔力を使い過ぎて本来の姿を維持出来ないらしい。


 「さて、準備は終わったね。いつでもいけるよ」


 訓練場の修復が終わったらしい。次は、俺が闘う。・・・二人の闘いを見ていたらレベル1ぐらいは突破出来そうな気がしたのだ。勿論無理はしない。まあ、アルフィナとリリスに乗せられた感じはするけど。


 訓練場に入り操作パネルを操作する。


 「頑張るのじゃぞー!!」


 「君なら出来るよ」


 リリスとアルフィナの応援を受けて気合いは十分だ。後は、レベル1の英霊とどう闘うかだが、これもリリスとアルフィナに助言を貰っている。まあ、リリスのは助言と言えるかどうか分からないけど・・・。


 準備も終わったし早速始めますか!!スタートボタンを押して暫く待つが英霊が召喚されない。


 あれ?おかしいなぁ。何処かで操作を間違ったかな?もう一度初めからやろうかな?


 よし。これで問題はないな。改めてスタート!!


 「・・・」


 あれ?可笑しいな。故障かな?もう一度スタートを押そうとした時、パネルに文字が浮かび上がる。


『現在挑戦出来る英霊は存在しません』


 うん。知ってた。レベル1でも英霊だからね。べっ別に悔しくなんかないよ!!俺だけ英霊が召喚されなかった事なんてこれっぽっちも気にしてなんかないやい。


 だからそこ。アルフィナ。腹を抱えて笑うんじゃない。リリス気持ちは有難いが慰めないで。あと、操作パネルを殴っても英霊は召喚されないのでやめなさい。


 はあーー。帰ろ。



 「おーい。そろそろ食事にしよう」


 前方を歩いている二人に声を掛ける。ダンジョンに行く為にまずは、街に向かっているのだ。街までは、まだまだかかる為そろそろ野営の準備をしなければいけない。


 「プリンをよこすのじゃー!!」


 リリスが突撃して来る。こいつは、本当にプリンの事しか頭にないな。そもそも街に着くのが遅れて居るのも八割は、リリスのせいだ。


 「・・・?何じゃ?プリンならやらぬぞ」


 リリスは、幸せそうにプリンを食べてるしまあ良いかな?


 「ふふふ。君は、相変わらずリリスには甘いんだね」


 「まあリリスだしな」


 「ふふふ。そう言う事にしておくよ。それよりも、これを君に渡しておこうと思ってね。」


 「これは?もしかして魔道具!!」


 「その通り。それは魔導銃と呼ばれるものだね。魔力の塊を高速で射出する魔道具だね」


 俺は、渡された魔導銃を構える。ギュイーンと音がした後ズドンと魔力の塊が放たれる。近くにあった木を貫通している。


 うん。これなら俺も戦えるな。今は、まだ魔法を戦闘中に自由に使うことは、出来ない。イメージをするのが戦闘中では、極端に難しい。魔法ではなく魔術が主流になった理由が少しは、理解出来る。


 魔法は、イメージによって形を変える。それ故制限がない。イメージと魔力があれば基本的に何でも出来る。しかし、その分イメージが鮮明でなければ魔法は発動出来ないし、集中力が切れてもダメだ。


 対して魔術は、呪文によって発動出来る魔法が決まっている。呪文さえ唱えれば魔法を発動出来るが、決まった魔法しか発動出来ない。また、呪文によりある程度相手に手を知られてしまう。


 魔法も魔術も一長一短であるがやっぱり『魔法』を使いたい。イメージ次第で様々な事が出来るのは、ロマンだからな。


 「この魔道具は、アルフィナが作ったのか?」


 「そうだね。材料も余っていたしね。僕が封印される前に作った魔道具よりかは、簡単に作れるからね」


 「アルフィナが作った魔道具かー。それだけでトラブルの予感がするんだが?」


 「あはは。嫌だなーユータ。僕が封印されてから百年以上経っているんだよ?今では、僕が作った魔道具なんて時代遅れさ」


 百年ぐらいでアルフィナを超える事が出来るのかな?トラブルが舞い込まなければ良いなー。まあ、その時に考えれば良いか。何かあってもマイホームに転移出来るしね。


 明日には街に着くだろうからそろそろ寝よう。ベッドを召喚してアルフィナが魔法で作った拠点で休む。勿論仮拠点登録をして居るからそこら辺の魔物では、侵入すら出来ないし安心安全だ。・・・まあ、結界よりもリリスとアルフィナが居ればどんな魔物が来ても脅威になり得ないだろうけどね・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る