5月15日(木)

 ドン、ドン! といいう音がした。

「湊!」

「いっつぅ……」

 1つ目は母さんが私の部屋の扉を開けた音で、2つ目は私がベッドから落ちた音。私最近、背中に痛みが走ることが多いんだけど……。

「湊、今日は体育祭何でしょう? 起きなさいよ、遅刻しちゃうわよ!」

「いつも遅刻してるから大丈夫って言ってるじゃん」

 今日は制服じゃなくて、体育着に着替えて荷物をまとめる。

「規則は守ってもらうっていう約束でここに泊めてるの。遅刻するっていうのが規則。崩さないでよね」

「何生意気なこといってんの」

 がちゃ、と扉を開ければ、母さんが私のことを見ていた。

「あーそうですか、遅刻することにメリットがないって言いたいんですねー、ではこれどうぞー」

 怒られそうな予感がしたから私は、母さんに有名少女漫画の第一巻を渡してあげる。……結構ボロボロだけどね。

「そういうことじゃ――」

「行ってきます」

「は、朝ご飯は!?」

「いつも食べてないし」

 めんどーな人だなぁ。

 階段を降りて、そのまま真っすぐ玄関に向かう。靴を履いて外に出れば、もう追いかけてこないだろう。

「峰山」

 名前を呼ばれて振り返ると、真間ちゃんがいる。

「真間ちゃん! おっはー! どうしたの? 早いね」

「峰山こそこんな時間にどうしたんだよ」

「私は別に」

「体育祭は遅刻しちゃだめだからな、峰山を起こしに行こうと思ったら、本人がもう歩いてるっていう状況がわかるか?」

「ごめんわかんない。でもそれ、今の状況と似ているね」

「今の状況を言ってるんだよ」

「真間ちゃんって、すごいねー!」

「声のボリュウムで、棒読み感は騙されないからな」

「だからなんで真間ちゃんは私のことがわかるの?」

 なんか怖いねー。あれみたい。

「なんだっけ」

「何が?」

 なんかさぁ……いたじゃん。そういう生き物。いや、妖怪だったっけ?

「真間ちゃんみたいな妖怪がいたような気がするんだけど……」

「は? お前、え……は?」

「待って『は?』が怖いんだけど」

 いや、そんなことよりいたんだって、本当に。

「あのー、猿みたいな」

「私は猿だって言いたいんだね?」

「あ、いや、その! 違くて! ほら、猿ってすごいし! ブスなのになんでもできるんだよ! いわば天才!」

「ブス……」

「あ、つい口が滑って――、いや、違う!」

「まずは否定しようか。そこからだよね?」

「はい、そうですね……。真間ちゃんは、『残念』だもんね、腐っても」

「その言葉は覚悟ができてるって判断して良かったんだよね?」

「待ってマジで違うんだって!」

 どうしてこうもこの口は、言ってはいけないことをするりと言っちゃうんだろう!? どうしよう、湯婆婆のあの魔法がほしい!

「ねえ、静かに右手で拳を固めるのをやめよう?」

 痛いんだよ、真間ちゃんの拳は。

「あ! 思い出したぁ!」

「何がだよ」

「サトリだ! サトリ、真間ちゃんに似ている妖怪!」

 ふうん、と真間ちゃんはスマホを取り出して、その画面を私に見せる。

「これが、私に似ていると?」

「ア、イエ、チガイマス」


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