3rd order 憂鬱、三度
リリスが俺の家に衣類、その他女性の生活に必須の物を届けてくれたのは結局深夜になった頃だった。
その荷物の中にはメイク道具一式や小綺麗なぬいぐるみなどが入っていた。
ないよりはありがたいが…
これを届けてくれたリリス曰く、
『少なくとも女の子なんだから、可愛くさせないと可哀そうでしょ』
とのことだった。おかげで俺の部屋は少しだけ少女趣味の物が増えた。
しかし、マリアはリリスが持ってきたものそっちのけで動画サイトや無償で読むことができる図鑑、はたまた適当に出てきたファンシーな挿絵付きの童話など…というか、ヤ〇ーキッズばかり見ている。
俺が暇そうにしていたマリアにお古のタブレット端末を渡したのが悪かったのか。
というかいつの間にネットの使い方なんてマスターしたのか。
俺の小さい頃はネットに厳しく、自身の金でマンガかゲームソフトを買って暇をつぶすしかなかたのに…
マリアも現代っ子なのだなと少しだけギャップを感じた。
「…ん!」
マリアはそういうと、タブレットに映ったひらがなで書かれている文字を指さした。つまるところ『これを読め!』という事だろうか。
「あー、これはし、ま、う、ま、だな」
「しーまーま?」
「しー、まー、うー、ま」
赤子に言葉を覚えさせるのはこういうものなのだろうか、と少しだけ感慨深いものを感じた。
というか、俺は明日からの学校をどうやって過ごすべきなのだろうか。
明日は奇しくも、というか幸運なことに午前授業だ。というか三年生の受験と二年生の模試がある。
しかし我々一年生はその日午前中の授業のみである。
これは運が良かった、そう思いたい。
実際問題マリアを一人にしてもいいのだろうかという疑問も残るが、そこらへんは大丈夫だと思う。
この数時間しかマリアを見ていないが、この子はとてつもなく賢い子である。
本の文字も認識できる、絵も区別がつく、なんだったら物を元あった場所に戻すことができる。
最初は赤ん坊位の認識だったが、それも違い、知識が無いが頭脳は年齢相応の少女という少々アンバランスな存在なのだ。
というか少しだけ親バカ入った気がするがそんなことはどうでもいいのだ。
俺が登校してから帰るまでの数時間、その間にこの子が部屋の外に出ようとしなければなんとかなる、はず。
俺は明日も早いので寝る準備をした。
「……ん!」
「もう、これで最後だぞ…『むかしむかし』…」
俺の夜は少しだけ延長された。
───
この半分都会とも田舎ともいえない地方都市、
数百人を超える生徒数を誇るそこそこの学校で、俺は憂鬱な表情で机に向かっていた。
「どしたん、幸喜?はなしきこかー?」
「うるせえ、周治。そういうのは傷心中の女に使えって」
げっそりした表情の俺を見てケラケラ笑っているこの男は林周治。俺の友人である。
今年この街に来て右も左もわからない俺に対して、いろいろ教えてくれた恩のある悪友だ。
「いや、まあ、ちょっとな…」
「うんうんそれはお前が悪いわ」
「こういう時は俺を慰めるんじゃないの!?」
「い~や、幸喜は絶対、トラブルに巻き込まれる星に生まれてる。だからお前が悪い」
「どんな理屈だよ…」
なんて、馬鹿話を繰り広げていると俺はふと、視線がこちらに向かれているのに気が付いた。
「やっほ、幸喜」
「リリス…」
俺の事を見ていたのはリリスだった。昨日あったこともなかったのように屈託ない笑みで俺に話しかけてきた。
「しゅーじもやっほー、朝っぱらから悪いんだけどさ、幸喜借りていい?」
「え…ちょ、おま…幸喜どういうこと!?え、そういうこと!?」
「そーそー、そういう事。という訳で借りていくねー」
ああ、そういう事ね…にしても、学校でとなると少しというかだいぶ嫌悪感が勝つのだが…
俺はリリスに連れられ、学校の空き教室に向かった。
向かっている最中俺はリリスに少しだけ、話かけた。
「学校てのはあんまり気が進まないんだが…」
「は?私も学校でやるのは嫌だよ!?バッカ、何期待してんの?!」
「いや、だってさっきそういうことって…」
「それは!話を深堀されても困るからそう言ったのであって、別にそういう事じゃないから!」
その言葉を聞いて俺は少しだけ安心した。
「そうか、そうだよな、さすがに学校でおっぱじめるアホはいないもんな」
「ふん!」
大振りで頭を殴られた。ぐーではなく、ぱーであった為比較的ダメージは少なかった。しかし連撃の構えを見せるリリス。俺はその腕を抑え込む。
「しょーがなくない!?そういう事しちゃう時期は
「ごめん、まじで悪かったから、ごめん人間の価値観押し付けるのはちょっとあれだったな、ごめん、てか力強いな、おい!」
てかお前学校でいたしたことあるんかい!それは申し訳ございませんでした!
あと、どこに地雷抱えてんだお前!
というかこの学校、
そんな事を考えていると、思ったよりリリスの力が強く結局はリリスの力に押し負ける形で廊下に倒れこんだ。
「…もう、許さないんだから!このままおっぱじめれば、学校でいたしたアホに早変わりだねぇ!?幸喜!」
「マジでやめてくれ!?だれかー!誰かいませんかー!?」
「あっ幸喜うるさい!…もう遅いよ、もう人除けと遮音の魔法使ったから二時間しっぽりとできちゃうねぇ!」
「ほんと悪かったって、てか今じゃなくてもいいだろ別に!」
「うるさい!てかこれはお願いごととは別だから!これは
「そんなんで、取り戻せる尊厳があってたまるか…てかそこ触んな!」
「………?」
「ふふ、そう言ったって、幸喜もなんだかんだ男の子じゃん、このまま始めちゃっても文句ないよね?」
「文句しかないわ!クソっ、なんでこんなに…殺せ!」
「……!」
「くっころを男から聞くとは…なかなか悔しいものがあるけど、それじゃあごかいちょー!」
「ちょー!」
俺は必死に抵抗する、それは本当にやばい!
ん?
「……え?」
「……は?」
「ちょー?」
なにかがおかしい、そう感じたのはリリスも同じだった。俺らは示し合わせたわけではないが同時に横を向く。
「………ん」
そう言ってかわいらしく首をこてんと横に倒したのは、いつか見た、というか今朝方寝巻のまま放置していたマリアだった。
全裸の
「服を着ろぉー!???」
「きゃーっ!!?」
性に奔放だといわれる
俺は遮音と人除けの魔法に今世紀最大の感謝を送った。
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