好きと得意で食う理想

多賀 夢(元・みきてぃ)

好きと得意で食う理想

 つくづく思う。

 今の仕事は、実に私に向いていない。

 たとえ「手に職あるじゃないですかー!」と言われようと、「その歳になって接客は厳しいですよ?」と言われようと、ITエンジニア(昔はSEって言ってましたね)という職業は私に向いていない。

 ……いや、15年越しに復帰したけども。男一人養うために、選ばざる得なかったけども。


 結局、脳の使い過ぎで辟易している。

 ただでさえ私は双極性障害だ、症状は小さいとはいえ脳の使い過ぎは混乱するし、簡単な順番も分からなくなる。気も小さくなって電話が怖いし、不眠でうとうとしては自己嫌悪で鬱になる。

 でも、昔は得意だったはずなのだ。物事の筋道を立てるとか、前後の文脈(プログラムコード)を見てやりたい事を理解するとか。それなのに、今は他の人の3倍くらいの時間をかけても終わらない。――今の派遣先が優しいところで良かった。


 そういえば去年ぐらいから、旦那に編み物を教わっている。旦那はお手本通りに行動するのが得意で、手際もいいし速度も速い。マフラーやらニット帽やらをサクサク量産し、友達に安値で売っている。

 ところが、私はこれが得意ではない。編み目が汚いとムカつき解き、理論が分からんと憤慨しては解き。もう何度も解いては編みを繰り返しているものだから、毛糸がどんどん細く痩せていく。旦那にもあまりの遅さに呆れられ、そのたびに私のメンタルが削れてく。

 好きなんだけどなあ、手芸そのものは。どうしてこうも下手なのかな。


 そんなこんなで毎日忙しく、なぜか休日も心が痩せていく日々の中。私は旦那の住む本宅で、放置されていたブーケを見つけた。

 これは友達が作ってくれた、結婚パーティ用のブーケだ。濃い紫と白という異なる色バラを、グリーンでまとめた個性的なものだ。100均の造花とはいえ、友達の色彩センスの良さが光っている。

 なのに、それが食卓の下に放置されていた。花瓶を用意して旦那に託したはずなのに、どういうことやねん。

 速攻抗議したのだが、旦那はまったく悪びれた様子もない。そうだった、こいつ片付けるとか飾るとかって能力が徹底的に欠落してたわ。


 いわゆる汚部屋製造機の旦那から、私はそのブーケを救出……もとい持ち帰った。置き場もないけどどう飾ろうと考えた挙句、リースにしようと閃いた。

 まずは動画を複数見たが、どうやら正解はないようだ。そのことに納得できた私は、とりあえず茎を適当な長さに切った。そしてこれまた100均のリースベースに、色を散らすようにザクザク刺した。

 多分、没頭して1時間くらいだろうか。なかなかに立派なリースが出来上がり、それをSNSにUPした。すると結構なイイネが集まった。ふと思い立って玄関に張り付けたマグネットミラーの上にかけたら、なんともメルヘンな花で飾られた鏡になった。


 しばらくご満悦だった私だが、我に返って落ち込んだ。

 ……こんなことが好きで得意でも、これで二人分の飯は食えんのだよ。

 ああ、宝くじ当たるか小説賞当たるかしないかな!?買ってないし書いてないから、無理かーーーー!!

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好きと得意で食う理想 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki

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