ロボ子ちゃん(仮)は虹をわたる

芝山紺

第1話 「淋しい一人っ子に、素敵なガールフレンドを」

 ある時、ある場所に、星の一つや二つ消滅させる位は造作もないかもしれない二つの存在があった。

 その名はかなぶん

 アンドロメダ銀河公認仙導士の資格を有するかれらは、膨張する宇宙の星々を巡り巡ってはその星の悩める人々に救済の手を差し伸べ、ふところが寂しくなった時には『お仕事ください。公認仙導士哉&文』と、全宇宙に張りめぐらされた情報伝達網を通じて広告を出すこともあった。


 その時文は暇を持て余していた。

 相棒の哉がタラモンジャ星の高名な歌手であるまりと結婚して、どこかの銀河のどこかにある地球とかいう惑星に新婚旅行に行ってしまったのだ。

 一人ぼっちで仕事をする気にもなれず、自分もどこかへ旅でもしようかと友人達を誘ったが、ことごとく断られてしまう。

 文は「俺がこんなに暇で退屈なのはお前のせいだ!」と哉にわけもなく怒りを覚えてしまい、新婚夫婦の後を追って遥か辺境の地におもむくことにした。

 しかし日頃哉に操船を任せっぱなしで宇宙船の扱いになれていなかった文は、いろいろ細かいミスをおかしてしまう。

 進路を誤って重力嵐に巻き込まれ、ボロボロになった船体をだましだまし、寄り道しまくった挙句ようやく地球にたどりついたのは、哉がかの地を訪れてから地球歴で約10年後の事だった。



【登場する人達&その他】

銀(ロボ子) 少女タイプロボット。天才科学者ぶんの手によって誕生。

文 銀を作った自称天才科学者。銀河公認仙導士。

三田村尚也 地球生まれの異星人。

三田村哉 尚也の父。アキャラカン星人。元は文の仕事仲間。

三田村毬 尚也の母。タラモンジャ星の歌手だった。

坂茂知多久さかもちたく 銀と尚也の家庭教師。タラモンジャ星人。

野々村圭太 大学生。坂茂知とは野球を通じた知り合い。

ユウリ タラモンジャ星人。自分を捨てた坂茂知を消すために地球へ来た。美しいが危険な少女。

ゴマ ユウリの兄。 

ギンちゃん 文のペット。サカジタ星のラランンペナリ改良バージョンⅡ。


 哉たちはとっくに帰星していると思っていた文だったが、地球に到着して連絡をとってみると意外にも応答があった。数時間後、哉の住居を文は訪れていた。

「驚いたよ。おまえらまだこっちにいたんだな」

 楽しそうな文に、哉は渋い表情を向けた。

「毬がここが気にいっちまってな。結局ずっとこっちだ」

「まだ新婚旅行の続きやってたのか。だっせー。で、毬は?」

「授業参観に行ってる。子供の」

「そうか。おまえらここに来て十年以上たつんだもんな。子供はいくつ?」

「十歳」

「名前は?」

尚也なおや

「へえ。お前がパパやってるなんてな」

 哉は地球では三田村という姓を名乗っていた。家は地球人が何世帯も住んでいる築二十年のマンションの七階。広さはさほどでもないが、居間には明るい日差しが差し込みなかなか居心地が良い。


 玄関で鍵の開く音がした。

「奥さんのご帰還かな?」

文が声を弾ませる。居間に顔を出したのは綺麗に日焼けした肌の快活そうな女性だった。

「文ちゃん。来てたのね」

「毬。その姿すっかり地球人だな」

毬は子供の授業参観に合わせたのか、ダークグレーのスーツ姿だった。

「文ちゃんも、相変わらずファッションセンスおもしろい」

「どこがだよ」

 地球のハヤリを研究してそれなりの服を身に着けてきたつもりだ。

 オレンジのニット帽に格子模様のジャケットとハーフパンツ。今は五月なんだからこの位でちょうど良いはず。文は毬の背後に一人の子供が立っているのに気づいた。

「この子が尚也?」

「そう。尚也、文さんよ。お父さんと一緒にお仕事していた人」

「こんにちは」

 子供はペコリと頭を下げた。

 その顔をじっと見て文が言う。

「へえ。結構イケメンじゃねーの。モテるだろ」

「ううん。全然」

 子供が答える。

「この子愛想が悪くて。女の子としゃべるのも苦手みたい。私たちの子にしては社交性なさすぎよね」

「そんな事ないって。いい家族だよ」

 ふと文は思いついて言った。

「よし。尚也。おじちゃんまた来るからな。その時までいい子で待ってたら、めちゃくちゃいいプレゼントやるから。楽しみに待ってろ!」

「うん。ありがとう」

 尚也がにっこりとする。その無邪気な顔にくしゃくしゃの笑顔を向けると、文は哉に向かって叫ぶ。

「てなワケだから、俺帰るわ。んじゃな!」

「え?しばらくはこっちにいるんじゃ」

 驚く毬の後ろから哉がバイバイと手を振る。長年のつきあいで文の気まぐれには慣れっこだった。


 マンションを飛び出した文は、何年もかけて到着した地球をわずか数時間で後にして、再び宇宙船を不器用に操って母星に向かった。

 幸い帰りの道のりは何事もなくルート通りに進み、文はすんなり故郷のマイホームにたどり着くことができた。そして帰るやいなや、自宅の一室で文はさっそくある作業に着手した。

「淋しい一人っ子に、素敵なガールフレンドを」

 今文の一直線なアタマには、その事だけがあった。


 彼は雌型ロボットを作り出そうとしていた。

 女の子とろくに口もきけないという可哀そうなナオヤくんに、可愛くて性格の良い女性ロボットをプレゼントする。

 その子に比べればナオヤの周りにいる女子たちなんか畑のかぼちゃみたいなもんだろう。

 だが文は勘違いをしていた。それこそこっちの教科書にさえ載ってない、辺境もいいところの記憶にない惑星の、さらにちっぽけな日本国の住人は、褒められると「いやーそんなことないですよアハハ」と否定する事が多い。

 実際には尚也は学校でもかなり女子に人気があったし、話をするのが苦手なんて事は全くなかったのだ。 

 だが謙虚だの謙遜だのという言葉は文の脳内には存在しなかったし、理解する気もなかった。

 

 そして文はまずロボットのボディの制作にかかった。

 これは楽しい作業だった。年齢は大人になりきらない十代半ばから後半あたりを想定する。

 文はその為に地球の医学書と首っぴきになって理想に近い肉体を作り上げた。

 これといったモデルはなかったが、地球のあらゆるデータをコンピューターに放り込んで、大多数の人間に好感をもたれる外見のモデル映像を大量に作らせ、そこから自分の好みで一体を選んだ。

 皮膚は少々値がはったが、尚也のために特注の最高級品を取り寄せ、更に強度を増すよう改良を施した。

 人工眼球は思いつきで四季によって変化させる事にした。

 春は若葉の緑。夏はアジサイの紫。秋は稲穂の黄金。冬は氷山の水色。

 いずれも日本人の中では悪目立ちする事間違いなしの色彩だ。

 体のパーツにもこだわった。指先の一つ一つまでていねいに作っていった結果、繊細過ぎるくらいのほっそりとした美少女が完成して文は首を傾げた。

 予定ではもう少し胸や尻にボリュームをもたせるつもりだった。

 まあ年齢設定が15歳から17歳なのだからそこまで色気は必要ないだろう。

 どこから見てもごく普通の日本人、けれどかなり可愛い少女の誕生だ。

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