灰色の世界。そして花は空に散る

海月 丸

灰色の世界。そして花は空に散る

 ピピピピッ、ピピピピッ……


 また1日が始まる。ベットから起き上がり、顔を洗い、制服に着替えて学校に向かう。


 ガタンゴトン……ガタンゴトン……


 電車に乗り、振動で体が小刻みに揺られる。ふと窓の外を見るが、そこには何処まで続くのかわからない灰色の背景が写っていた。空も、木も、川も、どれも灰色に染まっている。一体いつから世界が灰色に見えるようになったのかももう思い出せない。昨日も、1週間前も、1ヶ月前も……ずっと変わらず灰色に染まっている。


 どうして私は学校に向かっているのだろう。


 そう、ふと頭によぎる。でも、そんな考えすぐに消えた。。大人も、子どもも、皆同じように周りに合わせてアタリマエをこなし続ける。同じ時間に起きて、同じ習慣を繰り返して、同じ時間に眠る。それが人間なんだ。そこに理由なんてあるハズガナイ。そうやって私は私を嘲笑する。そんなことをしている間に、学校の最寄りの駅に近づいていく。


 まもなく○○、出口は左です―――


 電車を降り、改札に向かう。そして、改札を出てバスに乗り込む。そういえば私は、どうしてこんなに遠い学校に通っているのだろう。何かがあったような気がするが、何も思い出せない。でも、今私にあるのはこの学校に通っているという事実だけだ。なら理由なんてどうでもいい。


 同じ服を着た人達に並んでバスに乗って、バスを降りる。ガヤガヤという人の喧騒に揉まれながら、いつもの道を辿り、学校について、靴を脱いで上履きを取りに行く。そしてそのまま階段を登り、自分の教室へと向かう。するとそこにはいつも通り、誰も居なかった。私はただ灰色の、代わり映えのない教室でひとり、授業の支度をする。


 なんで私はひとりなのだろう。


 そんな一言が頭をよぎる。どうして今日はこんなにアタリマエの、変わることのない事実が頭をよぎるのだろうか?いつもそうじゃないか。この教室には最初から私ひとりしかいなかったのだから。あれ?そういえば、私、ノートをどこに入れたのだろう。リュックのどこを探しても見当たらない。また、どこかに落としてしまったのだろうか?仕方がないので、今日は別のノートで授業を受けることにしよう。


 それにしても、今日は一段とこの部屋の空気が悪い。早く換気をしないければ。どうやらこの部屋は環境があまり良くないようで、私が換気をしないとずっと気分が悪くなってしまうのだ。教室の窓を全て開けて、灰色の空を眺めながら私は一息つく。窓から見える生徒の数は、いつもより多いように感じる。だからだろうか?今日は一段と気分が悪くなる喧騒が学校中に広がっている気がする。


 フワッ……


 机に戻り、まだまだ授業が始まるまでかなりの時間がある中、何をして時間をつぶそうかと悩んでいた時、廊下に一瞬、鮮やかな色をした何かが動いていたのが見えた。世界が灰色に染まってから初めて私は、あなたを見た。その瞬間思わず私は駆け出していた。彼女は一体何だったのだろうか?動物だろうか?それとも小さな子どもだろうか?どうしてそんなものが学校にいるのか不思議ではあったが、そんなものどうでもいい。この世界が灰色に見えるようになってから初めて鮮やかな色が見えたのだ。一体何が私に色を見せたのか。それが気になって仕方がない。


 チラチラと見える鮮やかな色を追いかけて階段を駆け上り、先へ先へと進む。途中で何かが聞こえたような気がしたが、気にしない。ようやく色に追いついたと思った時、その場所一面に広がっていたのはピンクや白色の花。一見するとそこは灰色で、荒れ果てているのに、私が見つけた色の周りだけ色鮮やかな花が咲いている。


 あぁ……なんて美しいのだろうか……


 周りから何かが聞こえる。でも、そんなことより少しでもあの花に近づきたい。そう思い、全てをそこに置いていって花々の中に飛び込んだ。すると、周りが少しずつ色づき、音は鮮明に聞こえるようになった。灰色だった空は鮮やかな空色になり、木々は青々と光っている。そして、私の上にも下にも、私を覗き込む人の姿が見え、何かを叫んでいるような気がする。そこで私はやっと気づいた。


 そうだったんだね。じゃああなたはきっと……


 そっと手を伸ばすが、直ぐ側にあったはずの花々と色は、そこからなくなっていた。




 ○○✕✕年8月5日、燦々と太陽が光る夏の青空に、1輪の花が空を舞い、散っていった。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

あとがき


現実で起こり得たかもしれない可能性の1つ。ぜひ貴方なりの色を塗ってほしい。


ひとりに怯えず、あなただけの色を喪う前に、一度誰にでもいいからぶちまけてみてほしい。その相手は人じゃなくたっていい。私に言ってくれてもいい。とにかく抑えて溜めないで吐き出して。そう願っています。

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