第4話【ナポリタンとチーズケーキ】

 俺はまた今年もコスモスの種子を一人で植えた。

 その後に食べた夏生のナポリタンは優しい味がした。でも…

「あのな、ピーマン避けるなよ」

 夏生は俺の皿を見てフォークを向ける。

「…苦手なの知ってるだろ」

 俺は苦い顔をした。

「ちょっとは気を使えよ。オレが作ってやったんだから」

「いや、それはすごくありがたいし、俺がお前のやばい成績の世話を焼いてもいいかなと思う程度には美味い」

 夏生は意外と家庭的な人間で、料理が上手い。共働きの家だから、両親のために夕飯の用意などしているからだろう。

「ちょっとしか入ってないじゃん。そんなに美味いなら勢いで食えよ」

「……」

 俺は渋々ピーマンとパスタを絡めて口に入れて咀嚼する。

「…苦い。やっぱ無理」

「ピーマンですから」 

 何故か夏生は得意げに言うと、台所にあるテーブルから庭の方を見る。

「やっぱ、お前の母さんのチーズケーキには勝てないよな」

 少し遠くを見るような表情で夏生は言った。

「オレが作ろうとしても、多分同じにはならないよ。作り方、想像できないわけじゃないけど…」

「ごめんな」

 夏生は切なそうな顔で俺を見る。

「なんでお前が謝るんだよ」

「うーん、何となく」

 軽口の奥に、少し哀愁を感じた。

 多分、夏生は誰よりも俺のそばにいてくれる。家族とは違う感情…。俺はそれをなんと表現するすればいいのか分からない。

 薄々わかってはいるけれど、夏生はなんともない会話や冗談を言うことで、俺の傷を癒そうとしてくれる。

 それが、とても有り難かった。

 大切にされている。それがひしひしと感じらる。


 

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