アップデート

橘 流依

第一話


離陸する度、飛行機はこんなに揺れるものかと再確認されられる。


窓際の席を予約したものの飛び立つ瞬間が見える方が余計に怖いと気付いて目を閉じた。

 ふわりと内臓が浮く感覚に襲われ、問題なく飛び立ったのだとほっとする。

掌に汗が滲んでいた。薄目を開けて隣を見るとエミはバケットハットを目深に被り死んだように眠っている。

二人とも家に帰ったのは今朝方だ。私も眠かった。

離陸の瞬間にも気付かず寝ていられるほど図太くない自分の神経に苛立ちながら到着後の予定を反芻する。


 仁川空港に着いたらすぐに高速バスのチケットを買って江南に向かう。入管が混んでいるとバスに乗れるまで一時間半はかかるだろう。

ギリギリだ。渡韓初日は施術の後にそれぞれ別のクリニックでカウンセリングの予約を入れている。


 「お食事でございます」


 にこやかなCAの声で顔を上げた。エミを起こし、食事を受け取る。

メニューはトマトソースのかかった肉団子と付け合わせの野菜だ。

白米とパン。

なんで機内食ってご飯とパンが両方出るんだろう。どっちかでいいのに。


 「ビールください」


 アルコールを注文し即座に缶を開けるエミにぎょっとして声をかけた。


 「まだ飲むの?」

 「ビールは酒に入んないよ。二日酔いをこれで洗い流してるとこ」

 「やめときなよ。肌荒れるよ」

 「リジュラン打ちながら点滴もしてもらえば平気でしょ」


 そう言いながら横目で私を見て肉団子を頬ばる彼女の奔放さがうらやましい。

私もそんな風に気楽に生きれたらいいのに。


 「ユウカは飲まないの?てかあんたも酒抜けてないっしょ」


 確かにそうだ。同じキャバクラで働く私たちは出勤のあとアフターに行き、ミックスバーでしこたま飲んだのだ。仕方ない。


 「まあこうなるだろうと思って初日は軽めの施術にしといてよかったよ」

 「さすがユウカ。しごでき」


 先輩のバースデーに看板レースとここのところイベントが重なって、まとまった休みが取れる状態ではなかった。店休の日曜日だって二日酔いでほぼ死んでいる。


会社員よりお金も時間も融通が利くけれど、それは自分が休めば誰かに追い抜かれるってこと。


半月ごとに来る締め日。


売り上げと同伴予定に悩まされる毎日で、だけど休まなきゃアプデも出来なくてそれもそれで誰かに抜かされていく。

ようやく得た束の間の休み。メンテナンスとご褒美を兼ねての韓国旅行だ。


 機内食を終えると、身体がようやく入ってきたまともなエネルギーでアルコールを分解しようとしているのか動悸が早くなる。


海外ドラマを見ているとあっという間に韓国に着いた。

早い、さすがお隣の国。



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