第4話 ~かくれんぼ鬼編 消えた学園の生徒たち~
真っ暗な闇の中、息を切らして必死に走る少女が1人。
「ハァッ…ハァ… んぐ い いや ! たったすけ て」
彼女は何かに怯えて、恐怖に顔を強張らせる。今すぐにでも崩れ落ちそうな己の膝を足を、必死に動かしその暗闇の中を力の限り走った。
すると後ろからは不気味な声
「も〜〜〜い〜〜い〜〜かあ〜〜いぃぃ〜〜?」
その呼びかけに
「まっ…まあーだだよおぉー! い いやあぁー!!」
まるで泣き叫ぶように応える。
『もういいかい?』『まーだだよ』それは、日本の子供たちの伝統的な遊びの一つ〝かくれんぼ”だ。
ルールはシンプルで、
鬼となる者を1人決め、他の者はその鬼から逃げて身を隠す。鬼は十(とお)数えて合言葉と共に隠れた者達を探して捕まえるというゲームである。
しかし この〝かくれんぼ”はそれとは違うようだ。
「みっみかあー! どこなのぉ??」
真っ暗な闇の中で、自分が何処にいるかも分からない状況に、パニックになりながら友人の名を呼ぶ。
しかし『みか』と呼ばれる友人からの返答はない。次々とその少女の恐怖に満ちた瞳から涙が溢れて零れ落ちる。
するとまた
「も〜〜〜い〜〜い〜〜かあ〜〜いぃぃ〜〜?」
嫌な声である。
「いやっ う…やだやだやだあー! ひっく まだだってばー!」
頭を振り必死に走るのにその声の主との距離が一向に縮まらない。
もうあれから何分 いや…もう1時間は走っているような…もう分からなくなるぐらい長い長い時間がすぎている気がする…次第に彼女の疲労が限界に達し、足が動かなくなった…
「はぁ…ハァハァ… い…いきが… く くうき…」
その後ろからまたあの声が
「も〜〜〜い〜〜い〜〜かあ〜〜いぃぃ〜〜?」
彼女にはもう逃げる気力はない…瞳からも生気が消えた…そして、とてもとても小さな声で
「… もう… はあはあ… いい よ 」
すると とても小さな声だったのにも関わらず、闇の中からズザァー!!と物凄い勢いで、少女の元へ駆けてきた何者かが目の前まで来て、
ニタリと大きな口元を歪めた…それは人とは言えないかくれんぼの鬼だった…
「みぃ〜〜つけたあ〜〜」
そう言ったかくれんぼの鬼が彼女を捕まえると、スゥ…ッと闇の中に彼女ごと消えたのである。
それは篠突く雨が煙る夜深き日の出来事であった。
そして神代泉雲が大和仁王学園に編入してきて1週間程が経った。
「ねーねーヒデ かくれんぼって知ってる?」
そう言葉を発したのは、ふわふわのピンクがかった茶髪のパーマヘアの太眉で、女の子のように大きな垂れ目をした前原真太郎である。
「…なに? 突然」
そう疑問を呈するのは頬杖をつきながら開いた本に視線を落とす日下部秀雅。秀雅は高身長でサラサラの黒髪、切れ長な瞳で鼻筋は高く、いわゆるイケメンだ。
真太郎「だーかーらー かくれんぼ」
高身長の秀雅に対し、真太郎は背が低い。足をバタつかせ、せがむように喋る仕草は幼い子供のようだ。
秀雅「…知ってるよ だから なに?」
半分呆れ顔の秀雅が本から視線を外し、真太郎にそう応える。
真太郎「この大和仁王学園(やまと)ではね 鬼遊び禁止なんだって だからかくれんぼもしちゃいけないって知ってた?」
ニコニコと可愛く笑う己の友人に脱力する秀雅
「………」
この大和仁王学園略してヤマトは、とても古い歴史がある学校で、創立に不明な点があり、謎が多いからだ。
「あのなぁ 高校生にもなってかくれんぼなんかする奴 いないだろ」
ため息を吐きながら秀雅は応える。そんな秀雅に対し、真太郎はジーっと見つめ
真太郎「なんでかくれんぼしちゃダメなんだろね?」
と己の素朴な疑問をぶつける。
秀雅「…知らん」
そんなそっけない態度の秀雅に、真太郎はちょっと拗ねた。
*ところ変わって真太郎たちがいる教室から離れた場所では
『数日前に学園(ヤマト)の女生徒2人が姿を消したという事だが 何かわかった?』
「さぁ…」
『〜さぁってー泉雲ちゃん ちゃんとお仕事してよぉぉー』
通話相手の声色が変わって鬱陶しく感じた泉雲は、スマホを一旦遠ざける。それに気づいた相手が騒ぐので仕方なく戻す。
泉雲「…わかった 気が向いたら調べとく」
『だから〜気分でお仕事しなーいのっそんな事ばっかり言ってるとぉーこっちのお仕事も手伝ーブチッ』
相手が言い切るより先に無言で通話を切った。
泉雲「行方不明者か… めんどくさ」
そう呟くと、泉雲は己の教室に戻って行った。戻ると教室内でも行方不明になってるい女生徒達の話をしているグループがいた。
女生徒A「ーなんでも 学校内で消えたらしいよ」
女生徒B「ウッソー!じゃあ もしかしたら校内のどこかで監禁とか??こっわ!」
女生徒C「ありえるーどっか探したら いるんじゃね?」
そんなグループの1人と目が合った泉雲は話しかけられた。
「あっ神代くんねーねー行方不明の人 どおー思う?」
怖いよねぇ!とは言ってるが、明らか嬉しそうである。だが泉雲は「さあ」と一言だけ応えて、そのまま自分の席に着いた。
そんなそっけない態度でも、泉雲の容姿に騙されて、
女生徒A「やーん 相変わらずクール♡そこがまたイイんだけどねー」
そう言ってうっとりとした目で頬を赤く染めながら泉雲を見つめていた。それを見ていた真太郎が
真太郎「…白王子 ほんと喋んないねー」
※白王子とは一部が呼んでいる泉雲のあだ名である。
秀雅「だね 他人と関わるの 好きじゃないっぽいしね」
真太郎「え? なんで?? あんなに美形なのにもったいないじゃんっっ!!」
秀雅「…いや…俺に言われても… しんちゃん もしかして 神代のコト気に入ってんの?」
真太郎「うん そーだよ」
一見対照的に見える2人ではあるが、何故か馬が合うのだ。だから自然と共に行動する事が多くなる。
秀雅「ふーん 俺はあんまり興味ないかなー女子なら別だけど」
「えーなんでだよ!」とぷりぷりと頬を膨らませながら怒る真太郎を見て、思わず頭を撫でたくなるが、子供扱いすると余計に怒るので、グッと堪えるのである。
その頃汐梨は自分の席で、聞こえてくるクラスメイトの会話を静かに聞いていた。
(…ここの学校 古いとは聞いてたけど そんな噂合ったの??ってか行方不明って…まさか 妖とかのせいじゃないよね?)
汐梨は、この世にいないモノ 所謂妖や霊の類いが視えてしまうのだ。
それは彼女の親の血筋のせいなのだが…好きでそうなった訳ではないとこの能力を嫌い、その存在を視えないように、感じないように消してくれる便利アイテムがこのメガネなので、汐梨は片時もこのメガネを外せないのである。
このメガネにはあるまじないがかけられている特殊仕様で、シールド〔結界]のような機能が備わっている。
そして波長をずらす事ができるので汐梨は普通の女子高生として学校生活を送る事ができるのだ。
だがしかし!おかげで別の障害が生まれる訳だが…いかんせん彼女は気づかないのである。
だから泉雲は汐梨が能力者という事が解らないのだ。
しかもお互いあれからほとんど口を利かないので知る由もないのである。
汐梨(あっ 神代くんがこっちにくるっ)
体を縮こませて本を開いて顔を必死に隠す汐梨。その様子をチロリと見たが、すぐ関心を無くして視線を逸らした。
こんな状態だからなんの変化もない2人である。でも時々汐梨の事が気になるのだが、もちろん恋愛感情とかの類いではない。
その原因は、つい最近偶然教室で1人でいる汐梨を見かけた時の話である。
その時泉雲はその場をすぐ去ろうとしていたのだが、
***
「ダメよ!もーここに来ちゃっ」
(ん? 独りだろ)
「チュピ チュピ」←(は?)
「だからっ 大きな鷹がでるんだってば あぶないのっ」
何やら窓際でコソコソと話をしている。その声が泉雲の耳に届いたのだ。
不審に思った泉雲がバレないように静かに掃除用具のロッカーの裏に隠れて覗き込んで見てみると、会話の相手はなんとツバメであった。
泉雲は珍しく固まった。ちょっと今の現状受け入れられない…泉雲は異能者ではあるが、流石に動物とは会話できない。
(あの女…マジで何者?)
何やら汐梨は一生懸命此処を離れるよう説得しているようなのだ。
「えーもう巣があるの? ヒナもいるの??」
(マジで鳥(ツバメ)と会話してるみたいだ…)
心の中でブツクサ悪態を吐きながら、冷たい視線を送る泉雲。
その存在に気づいたのはツバメの方だった。
「ツピーッ」と鳴いて飛び立った後、汐梨が恐る恐るこちらを振り返った。
そして泉雲が隠れているロッカー裏を見てくるので、あのツバメが教えたのか と理解し、泉雲は観念して姿を現した。
その存在を知り固まる汐梨。
(みっ 見られた!??)
傍から見ればメルヘンな光景 まるで童話の世界。だがしかしここはリアル(現実)シビアな世界…汐梨は頭を巡らせた。
この場をいかに回避し、切り抜くかを、冷や汗をダラダラかきながら汐梨はぐるぐる考える。
だが
泉雲「お前 鳥と喋んの?」
(きっ 聞かれてたぁああーー!!)
汐梨「ノおぉおおーーーウ!!」
出た言葉が思いっきり否定を表す英語のNO!である。
…きっとよっぽどテンパっていたのだろう。
「………」
汐梨「わっ わたし 普通の ニンゲンですからっっ!」
泉雲(…いやいや お前 ”普通の定義″しらねーだろ いろいろ…)
不審に思うが探ってもこれといって汐梨からは霊力の類いの能力は感じられない。
すると汐梨は急いで身支度をはじめる。そしていつもの様に走って逃げだそうとした、だがそれを泉雲は思わず汐梨の腕を掴んで阻止したのだ。
「え…?」 ビクッ
泉雲も己の行動にしまった と思った。
だがもう2回も同じ手で逃げられたのだからと 1人納得する事にした。
泉雲「お前は すぐ逃げようとするよな…いい加減オレの質問に応えろよ」
泉雲はあまり他人に関心は持たないが、初めて会った時から何故か汐梨の事が気になっていた。
もちろん!しつこいが恋愛感情とかの類いではない。
この謎の言動と行動にだ。
しかし そうは言われても、汐梨は恐怖しか感じないのである。だから口を開かない。
そんな様子の汐梨にイライラが募り、短気な泉雲は引き止めておきながら、掴んだ腕を離し、1つ舌打ちをして去ってしまった。
取り残された汐梨は一度は安堵したが、
汐梨「あっ クラスメイトとして アイサツぐらいはした方が よかったんじゃ…ってか 話しかけてもらえたのにっ クラスメイトとしてっ」
友達が 欲しい気持ちはあるが、長年拗らせまくったコミュ障のせいで、本当“正解”が解らない汐梨はその場にヘタリこんだのだ。
***
そんなある日の問答をぼんやりと思い出して少し自分があの場を逃げた事を後悔した泉雲は 今までことごとく逃げられた記憶を思い出し、フツフツと湧き上がる彼には珍しい〝やる気”に己の拳を握りしめ、
(くっそぉ …今に見てろよ藤峰め そのうちてめえをとっ捕まえて心ゆくまで尋問してやるからな!)
泉雲が固く恐ろしい決意を決める頃、汐梨は正体不明の悪寒に襲われていたのだった。
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