色づき始める世界
「ねー、校長先生の話、長くないですー? 私、腰痛くなってきちゃった。」
突然、隣にいる私と服装が同じ女が話しかけてきた。
「……ははは。」
と私は愛想笑いをしてステージにいる校長先生に視線を戻した。今日はこの魔法学校スターミッド学園の入学式だ。新入生同士で話し合うのは対して問題ではないが私のポリシーがそれを許さなかった。いや、許せなかったの方が近い。
教育熱心な両親は私が幼い頃から魔法を叩き込んだ。それもそのはず。私は大魔法使いの名門リデル家の次女。ルミナ・リデルだ。小さい頃から英才教育を叩き込まれた結果、同年代の子よりと比べてできる子に育っている。もちろん、魔法だけじゃない。教養、所作などリデル家として恥じない立ち振る舞いも体が嫌というほど刻みこまれている。だから私はリデル家の恥じにならないよう完璧にルミナ・リデルとして振る舞わなきゃならない。入学式で隣の子と話すわけにはいかないの。
「では、私の話はこれにて以上。次は新入生挨拶。ルミナ・リデル。」
「はい! 」
校長先生に呼ばれてステージにステージに向かう。歩くとスポットライトが私を追いかけてくる。何度もこういう場面は経験してるけど慣れない。でも嫌いじゃない。ステージに登り、一呼吸をする。
「花が咲き、温かな日差しに包まれる今日、私はこのスターミッド学園の門をくぐりました_____」
ステージにいるすべての人が私に注目する。この感覚が好きだ。ステージから見る景色は髪の抜け毛ひとつもない制服を着てぴしゃりと背筋を伸ばしている生徒しかいない。
「共に入学した仲間と切磋琢磨し、この学園で立派な魔法使いになり……_____」
話している途中ふと1人の生徒に目が止まってしまった。明らかにサイズが合ってない制服。崩れてしまって姿勢は猫背。いや、それだけならまだそこまで気にしなかった。なにが気になるかって寝ている……。立ちながら……。鼻ちょうちんをだして……。あんな器用に寝れてすごいという感情と品性の欠けらも無いという感情など色々混ざる。しかもさっき私に話しかけてきた子じゃないの。
「…………この世界の未来に大きく貢献できるように日々の勉学に励み、充実した学園生活を送りたいです。」
挨拶を締めると拍手が鳴り響く。皆が拍手している。あの子以外は。ちょっとあの子とは関わりたくないな。そうして入学式が終わった。
「あ! 君! 挨拶してた子だよね。てことは首席? 凄いね。」
あぁ……。早速もう絡まれちゃった……。心が沈む。列で隣だったからクラスは一緒ってことは分かっていた。最初は敬語で話してたのに、もう崩してきたか。
「うん……。まぁね。でもあなた、寝てたでしょう? 私の挨拶聞いてなかったでしょ? 」
「え……!バレてる。エスパー……?」
「エスパーじゃないけど。鼻ちょうちん出しながら寝てる子見たら目につくわよ。」
「はは……。あらぁ…………。」
ブカブカな制服を着ている子は紫色の目を逸らす。今気づいたけどこの子、ピアスもしているのか。少しずつ距離を取ってフェードアウトしよ。そんなこと考えてたら『あ! 』と紫色の瞳の子は何か忘れてたような声をあげる。
「名前言うの忘れてた! 私、フィア・ラックっていうの。気軽にフィアって呼んでよ。……君は? 」
「寝てたから分からないでしょうね……。ルミナ・リデルよ。」
内心少し、いやすごく呆れている。
「へー!! 綺麗な名前だね! リデルって呼ぶねー! これからよろしく! 」
……フェードアウトできる気がしない。
__________数ヶ月
『リデルー!!助けて!!なんかよくわからん科目の単位落としそう!! 』
『あの、すみませんリデルさん……。この魔法の理論がどうしても分からなくてですね……。ここまではギリ分かったんですけど……』
『薬の調合したら未確認生物ができたーー!! なにこれーー?!! 』
毎日毎日慌ただしい。お茶する時間もありゃしない。………………何この子。色んな意味でやばいんだけど。フェードアウト作戦は失敗に終わった。フィアはできる科目とできない科目の差が酷すぎる、ロジックて理解する魔法をフィーリングでやる、薬草から生物を作る。えぇ…………。
「ねぇ、失礼だけどどうやって入試受かったの? 」
頭を抱えながら補習課題をやるフィアに聞く。
「え? コネ、人脈、賄賂、裏口_____」
「もう口を閉じなさい。」
「ごめん、ごめん。嘘嘘。一般入試は受けたよ? 」
「その言い方。なんか引っかかるわね。」
「おー! 鋭い! さすが優等生! 」
口は上手いのよね。この子。それもあって彼女の周りは常に友人や先輩や先生など誰かがいる。
「おだててもなにもないわよ。はやく結論を言いなさい。」
「えー。もう答え言っちゃう感じ? 」
毎回、すぐ課題の答えを聞くくせして何を言ってるんだ。この子は。じーっと彼女を見ると少し焦ったのか彼女は口を開く。
「えーとね、筆記はボロボロなんだけど実技がなんかいけた。」
「実技って魔法の? あなた、基礎魔法も分野によってはままならないじゃない? 」
「ははっ。まぁね!」
「褒めてないわよ。んで、筆記がズタズタのボロボロなのになんで実技受かるの?」
「そこまで私自虐してないよ?! まぁいいや。私さ、皆みたいに魔法を使えないからさ、作ったの。自分だけの魔法を。」
「……は? 」
何を言ってんだ。この子は。魔法は歴史が長くて受け継がれるもの。そんな長い時間を経ても今でも使われる魔法は使いやすくて高性能なものばかりなものだ。魔法を作るというのはその長く受け継がれてきた論理を崩すか派生させるか新しく0から作るかのどれかだ。魔法を研究する人か大魔法使いじゃないとできないレベルいやその人達さえも毎回成功するとは限らない。
「そんなことできるの……? 」
「偶然と運が重なってできたものだけどね。仕組みあんま理解してないからフィーリングでやってる。」
「えぇ……。」
そんなことが魔法で許されるの……? 定期的に魔法を使った実技試験がある。フィアは基礎ですらままならないときがある…………ってあれ。
「……まさか、戦闘試験で使ってる魔法って……。」
「おー! そう! オリジナル魔法使ってるよ。アレって特に禁止事項ないし。」
戦闘実技試験。年に1回はある下手すれば命を落とす試験だ。ルールは相手が降参するか気絶するまで闘うという単純で危険な試験だ。それに年によって開催回数が違うのもタチが悪い。
「使う魔法が自由で本当によかったよ。じゃなきゃ今頃私、お陀仏だもん。」
ケラケラと笑いながら彼女は言う。オリジナル魔法ならそれは対処が難しい。本人が理解してないなら尚更難しい。
「ねぇ、その魔法軽くみせてくれたりっt」
「いいよ。 」
言葉を最後まで言う前に彼女はYesをだした。
『んじゃあ、私移動するからそこにいて。』と言って彼女はどこか消えてしまった。わざわざ移動するってことは瞬間移動とか?いや、でも移動魔法は基礎の基礎だし。視界共有とか? いや、あんな高難易度の魔法をフィアが使えるわけ______(あーあー、マイクテスマイクテス。)
「え?! 」
フィアの声がして思わず立ち上がってしまった。
(ふはは……。私は今、君の脳に話しかけている……。)
あー。オリジナル魔法ってこれのこと? テレパシー的な?
(あれ……。あんま驚いてない感じ? じゃあ目をつぶってみて? )
(いい? 3、2、1で目を開けてね。)
3……………2…………1…………
(3…………2…………1…………)
「え……。」
目を開けると視界が変わる。さっきまで誰もいない教室だったのに外にいる。それなのに足を歩めても視界は動かない。なにこれ。
(おー! 少し驚いたね。)
もしかして、感覚共有……?
(私もそうかなぁっておもったけど多分違う。だって……、)
そう私の頭の中で言って背後をポンと叩かれた。振り返るとフィアがいた。
「会いたかったよー! 」
「気色悪いこと言わないで。」
「ひどし……。」
雨に濡れた子犬のようにしゅんとしている。
「あなたの魔法を体験できたけど何の魔法かさっぱりね。テレパシーかと思えば感覚共有できてなんなら、瞬間移動もできて……。」
「でも根っこは同じなんだよね大きな樹が枝を派生してる感覚。」
「ごめん……。何言ってるかさっぱりだわ……。」
魔法を作ったことのない私はその感覚が理解できない。加えて彼女の独特なワードチョイスが加わればさらに分からなくなる。あ。そうだ。
「次の戦闘実技試験で私が解析してあげる。」
彼女の戦闘を観察すれば分かるかもしれない。
「え。そんなことできるの? 」
「保障はないけどね。でもまぁ、観察するだけだし、私も気になるからね。次は冬休み前だったわよね。休みがあるならやりやすいし。」
おーじゃあ。と彼女も了承した。少しだけ、本当に少しだけだけど楽しみだ。
_________第2回戦闘実技試験
「リデルの闘いってなんかオシャレだよね。」
あと少しで出番なのにフィアは呑気に言う。
「闘いにオシャレもなにもないんだけど。」
「いやー、そうだけどなんか動きが軽いというか洗練された感じ。」
「そりゃそうよ。」
紫色の瞳を見て続ける。
「何年私が魔法やってると思うのよ。」
小さい頃から魔法は叩き込まれた。生まれたときから私の未来は決まっていた。将来を決められるなんてと憐れむ人もいたけど私はそれを自分を可哀想だと思ったことがない。
「あー。確かに。納得。」
ははっとフィアが笑う。
「あなたもいずれこうなるわよ。」
「なるかなー。リデルに比べちゃ全然だし。」
そんなことはないと言おうとしたが、それに……と彼女が最初に口を開いた。
「それに、リデルってめっちゃ努力家じゃん?努力する天才には誰も勝てないよ。 」
サラリと彼女はそう言う。彼女のそういう素直なところに皆は惹かれるんだろう。最初は彼女の明るさが人を惹きてけていると思ったが違った。入学したての頃はなりふり構わず誰にも話しかけていたが徐々に落ち着いていった。それをつっこむと『実は無理して明るくしてたー。師匠に最初が肝心だって言われたからさ。入学デビューでピアス開けたけど逆に浮いて冷や汗かいた。』と。それでも人が集まるのは彼女の人柄がいいからだろう。それになんだかんだここまで話せる友達は初めてだった。今までの交友関係はリデル家の次女としてそれに恥じないように付き合う人を選んでいた。フィアとの関係はフェードアウトしようと思ったけどできなかった。彼女が寄ってくるのもあるけど、一緒にいるのが楽しいから。
「ねぇ。」
「なにー? 」
「……死なないでね。」
「頼むから、フラグ建てないで…… 」
じゃあ行くね。と言う彼女を見送った。
世界崩壊3秒前 さくらん @sakura_394
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