イルは人と精獣との間に産まれた半獣の子だ。
誰も気にも止めない空気の様な存在。あって無いようなもの。
だが、運命の輪は非情な方向に輪回まわり始める。
イルの小さな里は、見知らぬ兵士達に制圧され、無惨な姿となっていた。
「よいかイルよ、紅の民の血はもうお前しかおらぬ。
ここで死んではならん。……生きるのだ」
混乱した頭で里を駆け抜けた先には、シュトラエル王子と赤毛の剣士ガヴィがいた。
イルは黒狼の姿をしていると言うのに、噛まれるとは微塵も思っていない。
「ぼくと、一緒にこない?」
彼らとの出会いは、イル=アカツキにとって特別なものとなった――。
“夜明け”はまだ遠い。
けれど、この命は――もう独りじゃない。
心優しい半獣の少女イルと、どこか影を背負った赤毛の剣士ガヴィが織りなす、まっすぐであたたかな王道ファンタジーです。
故郷を追われたイルの視点を通して描かれる世界は、丁寧な心理描写と軽やかな文章で展開し、誰もが感情移入できるように設計されています。
剣と魔法の世界で、恐れや迷いを抱えながらも前に進む登場人物たちの姿は、大人の心にも優しく届きます。
プロフィールを拝見して、「ファンタジー小説に興味を持ちながら、ふりがなが無くて一人では読めなかった娘さんのために・・・」この物語が生まれたと知り、深く感動しました。なるほど、だからこんなにも読みやすく、やさしいまなざしに満ちた物語なのだと納得しました。
全年齢で楽しめる、愛情にあふれた素敵な物語をありがとうございました。
これからも応援しています。