30. 燈火

サントの一言で僕が固まっていると、テオが口を開く。

「行方不明って、どういうことですか?」

「あまり詳しいことはわからないが、調査中に行方不明になったんだよ。私も自分の調査団と一緒に捜索したんだが、手がかりがまったくなくてね。残念ながら見つからなかった。」

「研究員の人と一緒ではなかったんですか?」

「いや、一緒だった。調査団ごと行方不明になってしまったんだ。といっても、研究員のハットは新米だったから、作業員は一人だけしかいなかったけどね。」

例の探している研究員の名前だ。

テオの推測通りということは、行方不明の作業員というのは兄さんなのではないだろうか。

「痛ましい事件ですね......ベテランの作業員が付いていれば行方不明になることはまずないのに......」

「いや、作業員は子供のように若かったよ。ハットが気に入ってね。普通はベテランの作業員を入れるんだが、年齢は関係ないとか言って、採用していたよ。本当に優秀な採掘員だった。第三層を採掘したときのアイデアは彼のものだったからね。たしか、シャルと言ったかな。気持ちのいい少年だった。ちょうど君によく似ているよ。」

その後もいくつか話をしていたが、何も頭に入ってこなかった。


「今日はありがとうございました。また明日も来てもいいでしょうか?」

「もちろん。好きなだけ見てくれてかまわないよ。」

「ありがとうございます。それでは、今日はここで失礼します。」

僕とテオは研究所を出てからしばらく無言で歩いていた。

まさか兄さんの名前が聞けるとは思ってなかったので、頭の整理が追い付かない。

しばらく歩いた後、前を向いたままテオが口を開く。

「まさか、だったな。」

「はい......一人目から情報が得られるとは思いもしませんでした。」

「とりあえず、今日は宿に向かおう。詳しい話はそこでだ。」

僕がうなずくと、テオはポケットから地図を取り出して大きく息を吐いた。


雑多な露店がひしめき合う路地を抜けて、少し開けた通りに出る。

「ここだな。ちょっと年季は入ってるけど、居心地は悪くないはずだ。」

テオが指差したのは、古びた看板を掲げた一軒の宿だった。

看板には、花を模したような独特の紋様が刻まれ、巨骸素材を使っているだろう外壁は鈍い光を放っている。


入り口をくぐると、微かに甘く、そしてどこか花の匂いが混じったような、何とも形容しがたい香りが鼻腔をくすぐった。

受付には巨骸の素材を加工したらしい滑らかなカウンターが置かれ、その奥には琥珀色の光を放つ光蛋結晶が飾られている。

テオが手早く受付を済ますと、鍵を受け取ってから部屋に向かった。


案内された部屋は、決して広くはないが、清潔に整えられていた。

適当な椅子に座り、居てもたってもいられずに明日からの作戦会議を始める。

「とりあえず、明日も行くだろ?」

「はい、ど......」

「わかってる。どこまで、言うかだろ?」

僕がうなずくと、テオが話を続ける。

「まず、サントが信用できるかどうかだ。あの話しぶりから俺は大丈夫かと思うが、印象はどうだ?」

「僕も大丈夫だと思います。あの人、僕のことを兄さんに似てるって思ったみたいですし。」

「たしかにな。それじゃ、明日にでもタイミングを見計らって話をしよう。ただ、もし政府にチクられた場合は、俺たちは終わりだ。だからこそ、逃げられる道を作っておく必要がある。」

たしかにその通りだ。

ここで一か八かの賭けをする必要はないのだ。

まだ、手掛かりはほかにもある可能性が高いのだから。

「俺たちがほしい情報は、二つ。シャルが行方不明になる前後で何をやっていたのか。そして、シャルの交友関係だ。」

「協力者になってくれるよう、お願いはできないですかね?有名な研究者なら色々な情報を持っていると思うんですけど......」

「それが理想的だが、そこまで信用できるかがわからない。言うにしても最後の最後だな。目覚めたら牢屋だった、なんてことは絶対に嫌だろ?」

それもそうだ。

どうしても気持ちがはやってしまう。

ああでもない、こうでもないとテオと明日の作戦について話し合っていたら、あっという間に真夜中になっていた。



今日も暗い部屋で、過去の名簿を調べる。

眠い目をこすりながら、一ページずつ丁寧にめくっていく。

監督官にここまで自由がないとは知らなかった。

これでは何のために監督官になったのかわからない。

ただ、監督官ではないとできないことがあるのも事実だった。

仕方ないよなと思いつつも、ため息が止まらない。

このままじゃいけないと、頭を左右に振って、気持ちを切り替える。

この時間は無駄にできないのだ。

何としても二人に会うために。

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