21. 紫
いよいよ、僕たちの勝負の時がやってきた。
マニスにも声をかけてから皆で機械を運んでいく。
忙しいからと断られるかと思ったが、やはり気にはなるらしい。
僕たちの機械は簡単に言うと、第三層の特定の部分を覆って、その中の酸素濃度と温度を調整することで一時的に硬度を変化させようという試みだ。
言葉でいうのは簡単だが、特定部分の酸素濃度と温度を同時に変化させるのはとても難しいことらしい。
どうやって器具を第三層に密着させるのかをサントとハットはずっと頭を悩ませていた。
結果的にうまく吸着するような仕組みを開発できたときは、サントとハットは子供のように喜んでいた。
器具を第三層に取り付け、サントがスイッチを押す。
機械が振動しながら、吸着した場所の酸素濃度と温度を調節していく。
機械をしばらく動作させたあと、サントとハットは変化がないか反応を調べている。
僕とマニスはやることがないのでしばらく観察していたが、マニスは気が付いたらサントとハットの会話を横で聞きながら質問などしていた。
都合のいい男だと思ったが、話についていけるのがうらやましかった。
調査の結果、何かしらの反応が出ているとのことでハットが大喜びしている。
マニスは苦い顔をしながら、苛立ちを抑えられないかのように周りをウロウロしている。
次の段階に進もうと、サントが僕に声をかけてきた。
ここからが僕の仕事だ。
鎌状切削機を体に装着して、集中力を高めながら合図を待つ。
ハットと目でコンタクトを取りながら息を合わせる。
お互いにこくんと頷いてから、ハットがカウントダウンを始める。
「3、2,1......」
機械が外れた瞬間、僕は勢いよく第三層に刃を突き立てた。
今までとは感触が違うのがわかる。
弾力が明らかに少なく、刃が押し返されない。
自分が思ったように力が伝わっていく。
興奮して集中力が途切れたのか力の方向をずらしてしまい、途中で刃がはじかれてしまった。
もう一度、と思い刃を当てると、元の第三層の感触に戻ってしまっていた。
「どう?何か違いはある?」
ハットが食い気味に聞いてくる。
「明らかに違います。弾力を感じませんでした。これなら......いけるかも。」
僕の一言でサントとハットが大きな声をあげる。
「よし、もう一度だ!」
興奮したサントとハットはものすごい勢いで次の準備に取り掛かった。
マニスはまずいと感じたのか、一生懸命にサントとハットの技術を盗もうと忙しそうにしていた。
その後も微調整を続けながら進めていたが、残念ながら掘削まではできなかった。
あともう一歩のところまで来ていると感じるが、何かが足りない。
マニスは今日はもう無理だと感じたのか、明日の準備があるとかで足早に自分の研究室に嬉しそうに帰っていった。
「感覚はどう?最初からいくつかやったけど、どれが一番感触良かった?」
ハットが機械を調整しながら話しかけてくる。
「どんどん良くなっていると思います。本当にあとちょっとだと思うんですけど......どちらかと言うと、僕の技術なのかも......」
サントが僕の隣に腰かける。
「そんなことはないだろう。方向性は間違っていないということか?それであれば、希望はあるか?感覚的なものでもいい。どういう状態だったら削れそうと感じる?」
「うーん......もっと乾いていたら、水っぽい感じが無くなれば、ですかね......?」
ハットとサントは目を合わせる。
「それは硬度に対してか?それとも弾力か?」
「感覚的には弾力かなと......」
わかった、と言ってサントは調整に戻っていった。
僕の感覚的な部分を信用して一生懸命に調整をしてくれているサントとハットの姿に、ぐっときた。
機械の調整が終わったようで、お互いに合図をしてから採掘に入る。
集中して刃に力を込める。
残念ながら、今までと感覚はそこまで変わらない。
ただ、サントとハットの頑張りを無駄にしたくない気持ちで、集中して感覚を研ぎ澄ます。
いつものところで刃が止まったとき、なぜか力の向きを変えるべきだと思った。
そっちじゃないよと、声が聞こえたのだ。
疲れていたので幻聴かもしれないが、たしかに聞こえた気がした。
祈る気持ちでその声に従って力の向きを変えていくと、すっと刃先から力が抜けた。
紫色の破片が地面にゆっくりと落ちていく。
その破片は転がって、サントの足元で止まった。
サントは、震えながらゆっくりとその欠片を拾い上げる。
「ま、まさか......」
僕たちは、初めて第三層を採掘した人間になった。
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