第17話
「だけど、俺の想いは勘違いなんかじゃない。だから、俺が本気だってこと分かってもらえる方法をずっと探してた」
「……あなたが本気だということと、このおまじないがどう関係あるのよ」
「イヴは何も気付かない? これがどういう状況なのか」
「どういう状況って……」
「あれ〜? マスター・イヴェット〜? シュティル〜?」
シュティルに言われて、改めて状況を整理しようと思ったところへ、使い魔ののんびりとした声が落ちてきた。
私たちが転がっているのはベーリー・オルクスがいるカウンターのすぐ近くだ。私はカウンターの中にいたのに、ここまで移動させられたらしい。
「あれ〜? いなくなっちゃった〜?」
「ベオ! 私はここにいるわよ!」
「ふああ〜、まあいっか〜」
声から察するにベオは私たちの姿を探しているようだった。急に消えたのだから流石に彼女も驚いたのだろう。
しかし彼女はすぐに考えることをやめてしまったようだ。主人たちの行方を気にするより襲う睡魔に対応することを優先したらしい。
そして、私は気づいてしまった。
「なんで気づかないの……? ベオ! ねぇベオ!」
「無駄だよ。この箱の中は、外の音は聞こえても中の音は一切外に聞こえないらしいから」
「はぁ!? 何でそんな……!」
「誰にも邪魔されないように二人きりになるためだよ。こんなことをするために──」
すぐ近くにあったシュティルの顔があっという間に距離を縮めてきた。
唇がシュティルの吐息に覆われている。
一ヶ月ぶりにするキスだ。シュティルのキスは相変わらず上手で、すぐに私を蕩けさせようとしてくる。
しかし、今はキスなどしている場合ではない。
だから私はシュティルの身体を押し返そうとしたのだけど、私たちが閉じ込められている見えない箱は随分と狭いらしく、押し返そうにも押し返せなかった。どうもこの箱は、私たちの身体の大きさにぴったりのサイズに設計されているみたいだ。
おかげで私は大した抵抗もできず、シュティルの口づけに翻弄され続けた。
シュティルのキスは随分と長かった。
まるで、会えなかった期間を埋めるかのように長く長く口づけてくる。息をつく暇も与えられない。
すると段々と酸素が足りなくなってきたのか、頭がくらくらしてきた。
もう何分が経ったのだろう。一分か、それとも三分か、それ以上か。何度も何度も貪られる。
「イヴ……さっきの言葉、意味わかる?」
「さ……きの、言葉……?」
シュティルの唇が離れたときにはもう私は息絶え絶えだった。抵抗する力も残っていないくらいにヘトヘトだ。
さっきの言葉、と言われてもすぐに思い出せない。
荒々しくキスを繰り返したからか、シュティルの前髪が少し乱れてアメジスト色の瞳が露わになっている。
相変わらず綺麗な瞳だと、つい思ってしまった。
「カナノコハノリ、キリタフイナレラ、デトイナシスクッセ……逆から読んで」
「逆から、って……えっと……」
シュティルのキスのせいで考える力まで奪われている。うまく働かない頭で思考しようとしたとき、シュティルの後ろの見えない壁に張り付いている紙が目に入った。
見た目には何の変哲もない羊皮紙のようだ。
しかし、よく見るとワインレッドのインクで何やら文字がぐるりと渦を描くように並んでいる。
文字はちゃんとした文章になっているらしい。魔術文字で先ほど私が言わされた言葉が書いてある。
シュティルはこれを逆さから読んでと言っていた。
渦の中心から遡って文字を追いかける。
「セックスシナイトデラレナイフタリキリノハコノナカ…………え?」
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