【5】 障がいと生活③

【北川】

 それでは、続きまして、病気になられて、どのようなことが⼀番しんどかったですか?



【林】

 そうですねぇ。


 ここ数年の間のことしか記憶にありませんが、居酒屋を辞めて、「就労継続支援A型事業所」に転職するまでの間に、「超貧乏⽣活」をしていたことですね。



【北川】

 超貧乏⽣活ですか! 居酒屋さんで⼗分稼いでおられて、貯⾦はおありではなかったのですか?



【林】

 ほとんどありませんでしたねぇ。居酒屋在籍時は、かなり稼いでいたにも関わらず、


「宵(よい)越しの銭は使わない」


 みたいな感じの⽣活を送っていましたから。


 それで、居酒屋は⼈間関係に⼤きく悩みまして、やむを得ず⾶び出してしまったんですが、


 ⾶び出したはいいものの、就職活動費として残っていたお⾦は、せいぜい1カ⽉分くらいのものでした。


 ですから、毎⽇お⾦が無くなる不安におびえていたので、本当にしんどかったですね。あのときは久しぶりに、「⼊院の2⽂字」が頭によぎったものでした。



【北川】

 そうですか。成功しておられる⽅は、たいてい⼀度は、極度の貧乏状態を経験しておられるそうですが、林先⽣もそうだったのですね。


 最後に⼊院されたのは、もう何年前のことでしたっけ?



【林】

 もう9年も前のことになります。それまでは、かなりの頻度(ひんど)で⼊院してましてね。


 数カ⽉から数年に⼀回ぐらいは。バリバリ働いて⼒尽きては⼊院、というのを繰り返していました。


 でも、最後の⼊院の時に、衝撃的な体験をしましてね。


「もう⼆度と⼊院なんてしてたまるか!」


 というような体験でしてね。



【北川】

 えっ! そんなにひどい⼊院体験だったんですか?



【林】

 そうですね。⼈間として当たり前のことが何もかも奪われ、⽣きた⼼地がしませんでしたね。


 でも、ともかく、退院後、9年間ずっと⼊院せずに済んでいたんです。



【北川】

 そうなんですね。ということは、今回の極貧状態と⾔うのは、そのひどい⼊院体験を超えるほどの、苦しみだったんですね?



【林】

 そうですね。本当に苦しんで死にかけましたので、⼊院したほうが楽かな、と魔がさしかけたんです。


 ⼊院していれば、少なくとも三⾷に関しては困ることはありませんし、地獄の就職活動からも逃れられますしね。


 もっとも、仮に⼊院するにしても、⼊院費をどう払うのか、という問題はありましたけどね。



【北川】

 林先⽣がお⾦をお出しになれないとなりますと、そのご負担は親御さん、ということになってしまいますね。



【林】

 そうです。しかし、両親とももう年⽼いていて、現役ではありませんので、⾼額な⼊院費はおそらく出せなかったと思いますね。思いとどまってよかったと思います。



【北川】

 そうですね。


 では、続いてお訊(き)きしますが、障がいを抱えていて、⽣活の中で、⽣きづらさを感じるときはありますか?



【林】

 最近のケースで⾔いますと、原稿の締め切りが迫(せま)っているのに、朝から症状が出てしまって、何も着⼿できないときですね。


 したいことであり、しなければならないことが病気のせいでできないときは、本当にもどかしく⾟いですね。


 ⼈⽣に希望が持てなくなって、それこそ⽣きているのが⾟くなってしまいますね。



【北川】

 この場合の「症状」とは「うつ状態」と考えてもよろしいですか?



【林】

 そうですね。そう考えていただいて差し⽀えありません。


 逆の「躁状態」の時は、実は苦しみってほとんどなくて、執筆もむしろ絶好調だったりするんです。ですから、⾟いのは「うつ状態」のときなんです。



【北川】

 そんな時はどうされるんですか?



【林】

 僕は、家でじっと療養するということが苦⼿ですので、⾃宅で寝込むということはせずに、とりあえず⾏きつけのカフェに⾏ってゆっくりします。


 友達を捕まえることができたらそうしますね。



【北川】

 なるほど。でも、現実の原稿の締め切りの問題は、どうされるんですか? 担当者はそう⻑くは、待ってくれないでしょう?



【林】

 そうですね。そこで、⼀つやっていることがあります。それは、「メモ帳アプリの活⽤」ですね。


 メモ帳アプリに、簡単に着想だけでも、ちょこちょこ書き込むようにするんです。で、元気な時に⾃宅のパソコンで編集して、⼀気に書き上げます。


 これまでのところ、この⽅法で何とかなっていまして、出版を遅らせたりしたことはありません。



【北川】

 そうですか。それならよかったです。


 それから、⼈⽣に希望が持てなくおなりになるということですが、失礼ですが、⾃殺企図(きと)につながったりすることはありませんか?



【林】

 そうですね、若いころはしょっちゅうありました。落ち込むたびに、⼈⽣に絶望して。実際に⾃殺未遂(みすい)も数回やったことがあります。


 でも⼈⽣経験を積むにつれて、⾃殺願望はほとんど湧(わ)いてこなくなりましたね。


「落ち込んでも必ず回復する」


 ということを経験上よく知っていますので、そこまで悲観的にはなりにくくなっているのだと思います。



【北川】

 なるほど。ありがとうございます。




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