それじゃあまた明日
大黒天半太
「またね、大好き」
「
母の呼び掛けに、六歳の
「きょうも、おともだちがまっててくれてるから、はるとくんもいくの」
母は、春に小学校に上がるようになれば、僕とか私とか使ってしゃべれるようになって、お友達のことも説明できるようになるのかしらと思う。
母はまだ、
もしかして、名前も、まだ聞いてないのかしら。
我が子ながら、と母は思う。
鷹揚と言うか無頓着と言うか、嫌な思いをせず楽しく一緒に遊べる相手なら、男女も年齢の差も名前を知らないことさえ気にしないのだ。
「気をつけて行ってらっしゃい。お友達の名前がわかったら、お母さんにも教えてね」
「うん!」
返事だけは元気よく返って来る。
教えた通り、道路には飛び出さず、左右を確認してさっと渡っている。教わったことは忘れずきちんとできる子なんだけどな、と母は思う。
道路の渡り方のように、友達の作り方も何かルールを教えてあげるべきか。いや、それは、
「その子がいい子だと、お母さんも嬉しいぞ、
「あ~そ~ぼ!」
児童公園に着いた
風が、陽光の揺めきが、若草の匂いが、
「おかあさんに、おともだちのなまえをきかれたけど、はるとくんはしらないから、おしえてくれる?」
『名前ってなぁに?』
『名前は人間が付けるものよ』
『名前は嫌い。付けられると、縛られるもの』
サブローにサブローって名前を付けたのは、自分だ。では、自分はサブローを縛っていたのか?
そう言われれば、サブローは虫籠にずっと閉じ込められていた。
名前を付けたら、お友達もサブローのように死んでしまうのかもしれない。
それはイヤだ。
「わかった。もう、おともだちのなまえはきかないし、なまえをつけたりしないよ。さぁ、きょうはなにしてあそぶ?」
初めて遊んだ時は、心の力がすぐ空っぽになって眠くなったけれど、もう今はお昼まで遊び続けても、
ひとしきり遊んだら、もうすぐお昼になろうとしているらしく、お腹がすいて来た。
「もうそろそろ、かえっておひるをたべなきゃ。おひるねしたら、きょうはもうこれないかも」
『さようなら、ハルト』
『また明日ね、ハルト』
『ハルトはいっぱい魔力をくれるから、ハルトもご飯をいっぱい食べてね』
『ハルト、大好きだよ。また明日ね』
「はるとくんも、みんながだいすきだよ。それじゃあ、またあしたね」
それじゃあまた明日 大黒天半太 @count_otacken
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