低級回復職の憂鬱※エッセイ寄り

ピチャ

低級回復職の憂鬱

 私はなぜその空間に入れられたかわからない。ただ同じ場所にいる人たちがパーティーメンバーだということはわかる。

なぜなら、同じ状況を前にも体験しているからだ。

ただ、私は幼い頃より戦闘が嫌いだ。

戦闘の気配がすると逃げ出してしまう。臆病で、弱い。

そんな私が何度も戦闘に駆り出されているのは、マスターの意向なのかもしれない。

もっとも、私はマスターを知らないのだが。

私が戦闘できないことを知っていて、逃げ出すことを知っていて、その度に捕まえて戦闘場に放り込まれている。

どうやら質の悪いマスターに目を付けられてしまったようだ。


 私はいつも低級回復職。

傷ついた仲間が再び戦闘に出られるように、回復薬を配っている。

私が声をかける相手は下級職だ。

上級職の方々は私の回復薬では役に立たない。というか、そのへんに転がっていない。

闘い続ける彼らに、何もできることはない。

下級職の方々の回復など無駄に近いかもしれない。彼らもまた、そう力になっていないからだ。


 実際のところ、人を放置したり切ったりするのは、見栄えがいいわけではない。

その部分を担当する人が必要なために、私たちは職を得ている。

つまり、人に見せる部分。営業の部分。華とする箇所。

薄給だ。

切り捨てるには都合が悪いから生き延びている。

闘う人をサポートする。その生き方をした人たちがメインの戦闘職になることはない。

と、バッサリ言ってしまったら人は生きるのを止めてしまうだろう。

数は必要だ。

だから私たちがいる。ただ憂鬱な現実。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

低級回復職の憂鬱※エッセイ寄り ピチャ @yuhanagiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る