プライドが高い僕は絶対に養われたくない
しぇふ
第1話 『出会いの春』
『春』といえば入学式、満開に咲き誇る桜、青くどこまでも澄み渡る心地の良い青空、真新しい出会いなどの季節だと一般的には思うはずだ。この僕だってそう思っていた。
しかし、自室の窓から見える景色といえば黒で塗りつぶしたかのような空が永遠と続き、バケツをひっくり返したうえにホースで追い打ちをかけているような『春』とはお世辞にも言えないような景色だった。
そんな暗い世界に包まれた中でも、僕は天気とはまるで正反対のように上機嫌でテキパキと身支度を整え始めた。なにせ僕は、入学式の新入生代表で挨拶をするんだからな。初日からしっかりしなくては。
朝ごはんを食べ終え、全ての準備を終わらせた僕は入学式に向かうことにした。まだ時間には余裕があるが、優等生たるもの常に余裕のある行動をしなければな。
すでに誰もいなくなった家に「行ってきます」とだけ告げて雨が降り注ぐ中、僕は高校の入学式に向かった。
高校につくと何人か新入生とみられる生徒が見かけられた。これからこの生徒達にはこの高校でこれから誰が上の立場となるものか教えておいてやろう、そう思った僕は近くにいた一人の生徒に話しかけた。
「やぁ、君の名前は?」
少し傲慢な態度ではないか、と僕の良心がとがめるような話し方だったがこのくらいでいいだろう。
「先に自分の名前を言うのが礼儀というものでしょう。そんなことも分からないんですか?それに、あなたは見たところ新入生のようですね。先輩への敬語を使おうとは思わないんですか?」
いや、僕もどうかとは思ってたんだよ?でもさ、そんなに言わなくてもいいじゃないか…?それよりこの人先輩って言ってたか?!傘をさしていてよく見えていなかったが、見たところ150cmもないぐらいじゃないのかこいつ。同級生どころか小学生に間違えられるぞ。
まぁ仕方がないか、身長については僕もあまり高い方とは言えない、四捨五入して160cmというところだからな。
「敬語も使えないような新入生は早く体育館に行きなさい。」
僕はこの年で本当に泣きそうになった。そんなに根に持つなよ…僕より小さいくせに、と思いながら僕は愚痴を言いたくなる気持ちをぐっと我慢して渋々体育館に向かった。
その後は何事もなく入学式は進んでいった。次は僕の新入生代表挨拶だ、この場にいる全員の印象に残るような挨拶にしてやる。
「次は新入生代表挨拶です。
ついに来たな。見ているといい!この場で誰が一番上なのか見せてやる!
壇上に上がると全体がよく見渡せた。ここの高校は県内でも1番か2番の偏差値だ。全員が真面目そうな顔をしている。まぁこの中で僕が一番なんだがな。
周りを見渡しながら話していると先程の先輩を見つけた。どうやら生徒会長のようだな、その座は僕のものになるんだがな。そんな事を考えていると視界の端のほうでチラチラと何かが動いているのが見えた。
なんだあの女子生徒は?
二礼二拍手一礼をずっと繰り返しているのか?合格発表前なら神頼みをやっていてもおかしいとは思わないが、(僕は絶対にあんなことはしないがな)なぜ合格発表後にしているんだ?そのうえ、もう高校の入学式だぞ。それにしてもすごくきれいな女性だな、今まで僕に近づいてきた女性の中でトップクラスで綺麗かもしれない。だが、僕には関係ないな。
入学式が終わって外に出ると、あれだけ酷かった豪雨が雲一つない青空に様変わりしていて、心地の良い風が吹いていた。1ヶ月前とは違う少し暖かい風だった。
そうだ、少し前の僕とは違うんだ、これからは僕がこの学校の一番になってみせるんだ。もう誰にも甘えたりなどしない。僕の面倒は僕しか見れいない。あのときに実感させられたからな。
さて、くだらないことは考えないで早く帰るとしよう。
校門につくと入学式で見かけたきれいな女性がいた。近くで見るとさらにきれいに見える。
整った顔立ち、たしかウルフカットとかいう髪型だったか?その髪も丁寧に手入れされているようだ、そして僕にはないスラリと長く伸びた足、羨ましいが175cmはあるんじゃないか?くそ。それにしても目元もきれいだな、・・・こっち見てないか?! 見すぎていたようだな。 知らないフリをしていようと思っていたがこっちに向かってきているな。
まずい、どうしよう!謝ったほうがいいだろうか。8m、5m、2m、どんどん距離が縮まっていく!僕はとっさに目をつぶって防御の姿勢を取ったが何も起こらない。
・・・ふっ、僕を前にして怖気ついたか。目を開けるとそこには丸くうずくまる女性がいた。うずくまっているというより土下座じゃないかこれ!僕は何もやってないぞ!まずい、周りの人がすごい見てる。初日から問題は嫌だぞ!
とりあえずこいつは何なんだ?このままだと僕が悪者扱いされてしまう。なにか言ってくれよ!
頼む。なにか言ってくれ。
「・・・・・くれ」
「な、何だい?」
自然と声が震えてしまった。彼女はなんて言ってるんだ?
できればこの場から逃げ出したいが、何を言ったか気になってしまった。僕は震える声で
「もう一度言ってくれないか?」
と聞いた。
数秒の沈黙の後彼女はこちらを見て、周囲に凛と響き渡る声で
「一生のお願いです!君を養わせてください!」
と言った。
意味がわからない。
突然のことで僕の脳は考えることをやめた・・・
しぇふより
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