赤璧の鬼と藍の陽光

鯛谷木

本編

 また同じ夢を見た。復讐を遂げた日の夢だ。

白木の床に広がる血液。たくさんの人が転がり部屋中に鈍い斑の絨毯を作り出している。それらはみな一様に顔面へモザイク処理が施されていて、身元は特定できない。何度か周囲を見渡したのち、死体を踏んであるテーブルの陰へ近づく。そこには幼い男児が座り込んでいた。俺は何を思ったかそいつへ血まみれの手を差し出す。こんな状況だというのに、子供は無表情のままこちらの手を握り返し立ち上がる。そうして俺はガキを連れて共にドアへと近づいた。次は眼前のノブを回す……はずがやけに視界がぐらつきぼやける。

「……じさん、おじさん!起きてよ!」

 目を開けると陽太が俺を揺さぶっていた。

「ああ、今、起きるとも」

とりあえず上体を起こす。

「やっと起きた……ほら!!シャキッとして!今日は僕の入学式なんだから!」

そうか、もうそんな日付か。人間の成長スピードには目を見張るものがあるな。長く生きていると、特にそう思わざるをえない。

 ここで少し解説を挟むとしよう。陽太は……世間の肩書きで言うなれば養子だ。とある事件によって父母を亡くした彼を引き取った、ということになっている。まぁここまで言えば分かるだろうがその父母というのが先程見た夢の、俺の復讐相手だった、はずだ。諸般の事情で俺はそこら辺について深く語れる記憶を持ち合わせていないため割愛する。とにかく俺は、たくさんの血を浴びながらもそれを忘れて、そこそこ楽しく家族ごっこをやってきたのである。

「はい、おじさん!コーヒーいれたからこれ飲んで目え覚まして」

 陽太に話しかけられて気分を引き戻される。熱いブラックコーヒーを啜ると眠気が引けていく。そのまま寝台を離れ、顔を洗い身支度を整えて時間を見る。これならギリギリ間に合いそうだ。

玄関で待っていた陽太はドアを開け、こちらを振り返る。向こうには陽光に照らされた春が広がっていた。

「ほら、早く!」

陽太は俺の、最高の息子だ。暖かく朗らかで……そしていつか罪に塗れた俺を灼きつくしてくれるかもしれない、理想の太陽なのだ。

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