秘密の時間

@runa666

さようなら、醒めない初恋


 何度繰り返しただろう。クラスメイトが普通にいうこのセリフ。

 「彼氏ほしいよねー」

 「わかるー」

 そのやり取りを繰り返す度、心にたまる淀み。

 「友華、かわいいしモテるのに振っちゃうのもったいないよ」

 何もわかってない人たちに言ってもしょうがないが、私の譲れない思いがある。

 好きな人がいるからという思いが。


 勉強も運動も人並み以上にできた。けれど私の好きな人は届かない、もう二度と。私の時計は止まっているままだ、好きな人の形見分けにもらった時計も止まっている。時計が好きな男の子だった。いつか、好きって言いたかったけど、もう今更届かない。そんな思いが私の心に影を差す。


 「なんか最近死んだ人に夢で逢えるおまじない流行っているらしいよ」

 友人の一言にぴくっとなる。

 「夜寝るときに皿の上に思い出の品を置くんだって。たった一回しか会えないとかいう話だって」

 そばで聞いていた運動部の女子がふざけて返す。

 「それ誰が得するの?どうせ嘘じゃん、病んでるね」

 途中から頭に入ってこない友人の話し声。もし彼に会えたら、私の願いをかなえてもらうんだ。

 

 私の好きな人は幼馴染だった。お互いの家に行き来して、わたしより勉強ができて将来の夢はお医者さんだった。なのに、そんなあの子が死ぬなんて。私と遊んで帰った後、買い物に行って車にひき逃げされた。雨の日だった、その日から私の心は雨が降っている。雨の日は眠れない。夢を見ればあの子を想う。命を大切にする彼が、私を叱ってくれることも笑ってくれることももうない。


 その夜、私は例のおまじないをした。昔、彼が笑いながらも友情が続くおまじないに付き合ってくれたのを思い出した。絶対に人を馬鹿にしない人だった。

 

 泣きながら私がいた場所は、花畑に蝶が舞っていた。楽園のような光景、空は晴れ渡り、どこまでも続くようだった。

 「友華。そうめそめそとするな」

 私はその声に、なつかしさに振り向く。ずっと求めていたその声、ぬくもりもそのままで。

 「智樹。智樹」

 小さい頃より成長して、成長した彼も格好が良くて不意にドキッとした。

 「それより友華。いつまでも泣いていられると、成仏できないじゃないか。せっかくいい友達がいるのに、どこか周りの人を馬鹿にしていないか。友華にはわからないだろうけど、今の友人や自分をもっと大切にしてくれ。心を閉ざすな。人を見下すな。自惚れるな。俺の好きな友華はだれよりも誠実で素直で謙虚だった」

 「じゃあ、そんなことになる前に叱ってくれればよかったじゃん。ずっと一人ぼっちで、いつも寂しくて、少しずつ私が壊れそうで。お願い、私を智樹のところに連れて行って。このままじゃ私、おかしくなっちゃう。智樹が叱ってくれなきゃだめだよ」

 抱き着いて泣きじゃくると、智樹は困ったように笑いながら、昔みたいに頭をなでてくれた。

 「馬鹿なことを言うなよ。友華、好きな人には幸せになってほしいんだ。それが今の望みだ」

 優しい声だった。

 「ずっとそばにいたい。私を連れてって」

 「ダメだ。俺、生まれ変わったら友華の子供になるよ。だから友華も幸せになってくれ」

 「智樹以外を好きになれない」

 私は泣きじゃくりながら縋り付く。

 「大丈夫。友華ならきっとこれから幸せになれる。思い込んじゃいけない」

 私の頬をぬぐう感触が懐かしかった。智樹は諭すように言った。

 「ねえ、生まれ変わりって本当にあるの?」

 私は泣き止んでいた。無理に笑う。笑顔で智樹を送るんだ。強くなれ、私。

 「それは、あの世に行ってからのお楽しみ」

 秘密と笑って、智樹は花畑を歩いて行った。

 智樹!と叫んで目が覚めた。


 不思議なことに、止まっていた智樹の時計の秒針が動き始めた。明日から、クラスメイトと関わろう。私が苦しんでいたら悲しむほどやさしい智樹だから好きになった。残酷なほどに優しい。彼の時計をにっこり笑って見つめると、不機嫌なショートヘアの女子はいなくなり、鏡の前には少しだけ悲しげに笑う、優しげな年相応の少女がいた。

 

窓の外を、夢の中からついてきたような蝶々が楽しげに飛んで行った。

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