太陽系外惑星探査船の消失から始まった驚愕の真実

向出博

第1話

序章——太陽系外惑星探査船の消失


太陽系外惑星探査船 オリオン9 が、冥王星の軌道を遥かに越え、地球から約500億kmまで到達したところで消息を絶った。

通信が突如として断絶し、船体の質量すら観測できなくなった。


「機器の故障か?」

最初はそう考えられた。


しかし、オリオン9の前に送り出された探査船 ヘリオス12も、地球から500億kmを越えた瞬間に消息を絶った。

オリオン9はヘリオス12の改良型だったため、ヘリオス12より先に消失地点に達していたのだ。


二機の探査船が消息を絶ったという事実は、当初、技術的な問題が原因とされた。

しかし、あまりにも同じ地点で消失した事実は、偶然では片付けられなかった。

国際宇宙機関(ISA: International Space Agency)は事態を重く見て、最高機密のもとで調査を進められた。


そして、ある物理学者は「何かがおかしい」と論文を発表したが、学界の反応は鈍かった。

しかし、その論文を読んだ人々の中に、一人だけ強い危機感を抱いた者がいた。


彼の名は高峰直人。天体物理学者であり、量子宇宙論の第一人者だった。

高峰はISAの協力を得て、消失地点に関するデータを精査した。そして、驚愕の事実を発見する。


「我々の宇宙は、有限だ」

もちろん、一般相対性理論によれば、宇宙は有限の可能性もある。

しかし、問題は宇宙のスケールだった。

人類が観測していた宇宙の大きさである「直径930億光年」より、はるかに小さい。

はるかに小さいどころではない、この宇宙には太陽系しか実在していないのだ。

しかも、太陽系と言っても、地球から500億kmまでのほんの中心部分しか存在していないのだ。

「宇宙の大きさは、たったそれだけしかないのか。」


この事実を知った各国政府は、発表するかどうかで揉めた。

だが、真実は隠しきれるものではない。

次々と論文も発表され、ついに国連事務総長が声明を出した。

「宇宙は、私たちが思っていたより、はるかに小さいことが判明しました」


その瞬間、世界は凍りついた。

「それはどういうことだ?」

「じゃあ、ビッグバン理論は間違いだったのか?」

「太陽系の向こう側には、何があるのだ?」


メディアは騒然となり、世界各地で暴動が発生した。

「宇宙の外側」に何があるのかという疑問が、人々の心理を蝕んでいった。


「太陽系だけの宇宙で、どこがいけないのか。」高峰直人は世界に訴えかけた。

事態を沈静化させるために国連事務総長も、同様の声明を出した。


「人類というのはおかしな生き物だ、行けもしない広大な宇宙なんて、人類の運命とは無縁だろう。」真っ暗な闇の中に神々しい声が響き渡った。


■ 有限の宇宙


天体物理学者・高峰直人は、オリオン9とヘリオス12が収集したデータと飛行の軌跡を詳細に解析した。そして、ある異常を発見した。

「探査機は、地球から500億kmを越えた瞬間に、物理的な存在を失っていた。あたかも——宇宙がそこで『切れている』かのように。」

今までは、宇宙がこれほど小さいとは誰も考えていなかったので、気付かなかっただけか?

だが、それはオリオン9とヘリオス12の観測データの誤差ではなかった。

光学観測、電磁波観測、あらゆる測定データを突き合わせても、そこには何もなかった。


「いや、正確には——そこには宇宙が存在していないのだ。」


まるで、プログラムのバグに気づいたかのような違和感。

高峰は、最も恐るべき仮説を提唱する。

「我々が見ていた宇宙は、巨大なホログラムに過ぎないのではないか?」

高峰のホログラム仮説が公表されると、世界は大混乱に陥った。


「ビッグバンなんて無かったのか? 宇宙は無限じゃなかったのか?」

「今まで観測されていた銀河は全て偽物だったのか?」

しかも、さらなる調査で、冥王星の先には何も無い空間が広がっているだけだということも判明した。


科学者たちは宇宙の構造を再分析し、愕然とした。

「我々が観測していた宇宙は、二次元平面に投影されたホログラムだったのかもしれない。」

遠方の銀河、宇宙の背景放射、暗黒エネルギー、すべては巧妙に設計された「映像」に過ぎなかったのではないか?


実際の宇宙の広さは、冥王星の軌道まで。その外側には、「何もない」。


人類は、世界中の混乱を収束させるために、最後の賭けに出た。

有人探査船 エンデバー を冥王星の外へ送り込むのだ。


乗組員は高峰を含めた3名、ミッションはただ一つ。

「宇宙の壁」を突き破り、その向こう側の世界を探査することだった。


■ 太陽系を超えて


最先端の技術により大幅にスピードアップされたエンデバーは順調に進み、冥王星の軌道を越え、地球から500億kmの「消失地点」に到達した。

その瞬間、船内のスクリーンに奇妙な映像が映し出された。

「……これは?」

そこには、真っ暗で何もない空間が拡がっていた。

その瞬間、通信が途絶え船内は真っ暗になった。

「もしかしたら私たちの感覚がシャットダウンしてしまったのかもしれない」と高峰は思った。


高峰は冷静に分析を続けた。

「ここはただの空間ではない。」


その頃、地球では、「宇宙の壁を突破しようとしたエンデバーが消えた」というニュースが人々を恐怖のどん底に突き落とした。

さらに、ニュースを知って夜空を見上げていた人々は異変に気付かされた。

星々の配置が、僅かに変化している。

「……宇宙が、書き換えられている?」


やがて、世界各地で不可解な消失現象が発生し始めた。

注意深く観察しないと気づかない程度の消失現象だが、都市や記録や人々の記憶が、僅かに変化し始めた、しかもそれは古い物や記録、歳をとった人々から始まっていった。

まさにパニックだ。


そんな中、SNSではやけくそになった若者たちが言いたい放題。

「考えてみればこの宇宙は、人類にとって都合が良すぎた。」

「まるで仮想現実とでも思えるくらいに。」

「宇宙人がいない理由も納得がいく。」

「人間の寿命に比べて、この宇宙は広すぎだ、そもそも『直径930億光年の宇宙』なんておかしいと思っていた。」


■ 有人探査船 エンデバー


高峰直人は、闇の中で目を開いた。

そこには、何もなかった。

光も、音も、時間すらも存在しない。

彼はエンデバー号の船内にいたはずだった。しかし、今はその感覚すら曖昧になっていた。

「……一体どうなっているんだ?」

声を出そうとしたが、声帯の震えを感じることはできなかった。

彼の意識だけが、宙に浮かんでいるようだった。


だが——その瞬間、彼は“気配”を感じた。

それは何か具体的な形を持つものではなかった。

ただ、そこに「存在」があった。

彼を見ている何か。

——いや、見られているのではないか。

それは、彼を認識していた。


「お前は誰だ」

言葉が音になることはなかった。

しかし、その問いは伝わった。


「お前こそ、誰だ?」

声というものではない。

ただ、意思が流れ込んできた。


「私は……高峰直人だ。」


「高峰直人。人間。観測者。」


「観測者……?」


「お前たちは、自らの世界の限界に気づいた。だからここに来た。」


「ここは……宇宙の外側なのか?」


「宇宙の『外側』という概念は、お前たちの言葉では表現できない。」


「どういう意味だ?」


「お前たちが知る宇宙は、一つの『場』に過ぎない。お前たちが認識できるように設計された、限られた情報空間だ。」


高峰の思考が震えた。

「……誰が設計した?」


「答えを求めるのか?」


「当然だ。私は科学者だ。」


「では、答えよう。」


その瞬間、闇の中に光が差したように感じた。

ただそれは光ではなく、ただ「情報」だった。


高峰の意識に、ある映像が流れ込んできた。

——遥か遠く、無数の存在がある。

——それも「宇宙」であり、実験であり、観測のための構造。

——そして、人類が知る「宇宙」は、その中の一つに過ぎない。


「……我々は、作られた存在なのか?」


「お前たちは、ただのデータではない。」


「では、何だ?」


「お前たちは、『観測する者』であり、同時に『観測される者』だ。」


「観測される……?」


「そうだ。お前たちは、実験の結果を示す存在だ。」


高峰の意識に、冷たい感覚が広がった。


「では、この宇宙は——」


「実験が終了すれば、不要となる。」


「つまり——消えるのか?」


「その通りだ。」


高峰は息を呑んだ。


「……待て。それなら、我々に選択の余地はないのか?」


「ある。」


「どういうことだ?」


「あなたの宇宙の存在意義を示せ。そうすれば——」


その声が途切れた瞬間、高峰の意識は急速に引き戻された。

——次の瞬間、彼は目を覚ました。

そこは、エンデバー号の船内だった。

船の計器は全て停止していた。同行していた二人のクルーは、静かに横たわっていた。

生きているのか、それとも——


だが、それよりも先に、高峰は見た。スクリーンに映し出された光景。

それは、確かに「宇宙の外側」だった。

しかし、そこに広がっていたのは「宇宙」だった。


彼は震える手で記録装置を起動し、言葉を刻みつけた。

「我々は、一つの有限の宇宙に生きていたに過ぎない。」

「我々の宇宙の外には、無限の宇宙があるのかもしれない。しかし、我々はその宇宙には出られない、閉ざされた宇宙の住人に過ぎないのだ。」


🔳 有限の宇宙


高峰直人の意識は、先ほどの「存在」との対話から戻ってきたばかりだった。

スクリーンには、無数の宇宙が映し出されている。彼は深呼吸し、思考を整理し始めた。


「我々の宇宙は、他の存在によって設計された実験場だと……」彼は独り言のように呟いた。

「そして、無限という概念が人類の知性の進化を促す要因だったのか。」


彼は、地球上の人類の歴史を思い返した。

初期の人類は、夜空に浮かぶ月とわずかな星々を見上げていた。その限られた宇宙では、想像力や探求心は限られ、知性の発達も緩やかだった。


しかし、ある時期から夜空は劇的に変化した。無数の星々、銀河、そして広がり続ける宇宙が人々の目に映るようになった。それは、まるで誰かが「ホログラム」を用いて宇宙を拡張したかのようだった。


「無限の宇宙……その概念が、人類の知性を刺激し、進化を加速させたのかもしれない。」高峰はそう考えた。

無限の探求、未知への好奇心、それらが科学や哲学、芸術といった多様な文化を生み出し、人類を石器時代から現代へと導いたのだ。


しかし、今やその「無限」が虚構であったことが明らかになった。

人類は再び有限の世界に直面し、その先に何があるのかを問われている。高峰は、エンデバー号のデータを解析しながらそう考えた。


「もし我々がこの宇宙の存在意義を示すことができれば……」彼は先ほどの「存在」の言葉を思い出した。「この宇宙は、終わらない。」


だが、その存在意義とは何なのか。

人類が無限を追い求めてきたように、今度は有限の中で新たな意味を見出す必要があるのかもしれない。

高峰は決意した。地球に戻り、この驚愕の真実を伝え、人類が新たなステージへと進化するための道筋を示そうと。


エンデバー号は静かに地球への航路を取り始めた。高峰の胸には、新たな使命感が宿っていた。


🔳 地球への帰還


エンデバー号が地球への帰還を開始してから数日後、高峰直人は船内のデータ解析に没頭していた。

彼は、「存在」との対話や、無限という概念が人類の知性に与える影響について深く考察していた。


「無限の探求が人類の知性を進化させた。しかし、今やその無限が虚構であったと知った人類は、次に何を目指すべきなのか……」高峰は独り言のように呟いた。


彼は、哲学者カントの『純粋理性批判』を思い出した。

カントは、人間の理性がどのような場合に正当な主張ができるのか、理性の正当な領域と不当な領域を明らかにしようとした。高峰は、この考えが現在の状況に通じるものがあると感じた。


「理性の限界を知ること……それが新たな知性の進化への鍵となるのかもしれない。」高峰はそう考えた。

無限の宇宙が虚構であったとしても、人類の探求心や知性の進化は止まるべきではない。むしろ、有限の中で新たな可能性や意味を見出すことが求められているのだ。


地球への帰還が近づく中、高峰は人類に伝えるべきメッセージをまとめ始めた。それは、無限の幻影に惑わされることなく、有限の現実の中で新たな価値や目的を見出し、知性をさらに高めていくための指針となるメッセージだった。


エンデバー号が地球へ帰還した後、高峰直人は国際宇宙機関(ISA)や各国政府の代表者たちと緊急会議を開いた。

彼は、「存在」との対話や、無限という概念が人類の知性に与えた影響について詳細に報告した。


「我々が観測していた広大な宇宙は、知性の進化を促すためのホログラムだったのです。無限の探求が人類の知性を高めてきましたが、今、その無限が虚構であったと知った我々は、新たな目標を見つける必要があります。」


会議室は静まり返り、参加者たちは深く考え込んだ。やがて、ある科学者が口を開いた。


「有限の宇宙の中で、我々は何を探求すべきなのでしょうか?」


高峰は静かに答えた。


「我々自身です。人類の意識、知性、そして存在の意味を深く探求することが、次なるステップとなるでしょう。」


この言葉をきっかけに、世界中で新たな研究が始まった。

哲学、心理学、神経科学などの分野で、人間の意識や知性の本質を解明しようとする試みが活発化した。

また、芸術や文学の世界でも、人間存在の意味を問い直す作品が次々と生まれた。


人々は、外宇宙への探求から内なる宇宙への探求へとシフトし始めた。

無限の幻影が消えた今、有限の現実の中で新たな価値や目的を見出すことが、人類の新たな挑戦となった。


🔳 人類の新たな挑戦


人類が宇宙の真実を知り、有限の世界に直面した後、天体物理学者・高峰直人は新たな挑戦を始めた。

彼は、仮想現実技術を駆使して人類自身の手で無限の宇宙を創造し、探求できるプラットフォーム「ネオ・コスモス」を立ち上げたのだ。

このプロジェクトには、世界中の科学者、技術者、芸術家たちが参加し、物理法則すらもユーザーの意志で変えられる無限の可能性を持つ仮想宇宙が構築された。


「ネオ・コスモス」は、単なるシミュレーションではなく、人々が自身の創造性を発揮し、共同で新たな宇宙を構築する場となった。


この取り組みを通じて、人類は有限の現実世界に縛られることなく、無限の創造性と探求心を持ち続けることができるようになった。

高峰直人は、人々のこの新たな宇宙創造の活動を見守りながら、かつて「存在」と交わした言葉を思い出していた。


「無限とは、外界に存在するものではなく、我々の内なる意識と創造性の中にこそ存在するのだ。」


人類はこうして、有限の宇宙の中で無限を見出し、新たな未来へと歩み始めた。


To be continued.










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太陽系外惑星探査船の消失から始まった驚愕の真実 向出博 @HiroshiMukaide

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