疑惑の主婦~岡部警部シリーズ~
柿崎零華
第1話~事件編~
私〈久保田恵美〉は一人の主婦だ。
今日も夫〈久保田浩二〉の命令で、食事の支度や洗濯などをやらされるのだ。
夫は何もせずに、命令ばかりしてくる。
今に至っては、台所で皿洗いをしている前で、テレビの野球中継を見て、色々と文句を言っている。
色々と文句を言いたいのは私の方だ。
恐らく試合をしている野球チームが負けた場合、私は不機嫌となった夫を優しく癒さなければならない。
結婚してから二十年。
これが日常茶飯事となっており、この二十年の間、一切慣れたことはなかった。
私としてもそろそろ我慢の限界が来ている。
結婚した当初は、こんな性格ではなかったのに。
私と夫は高校の同級生であり、出会いもそこからだ。
二人ともまだ若かったため、共に切磋琢磨しながらも愛を育んできた。
しかし、歳を取るにつれて、次第に夫の威張りが強くなり、今ではまるで独裁者のような風格で傍にいるのだ。
私はそれが年齢を積み重ねていくうちに、こんな夫の傍に居るのがバカらしくなってきた。
時間は経ち、皿洗いが終わったため、一休みをしようとソファに腰を掛けると
「何休んでるんだ」
「え?」
よく見ると、夫が近くに立っており、こちらをじっと見ている。
ホラー映画に出てくる怪物かと一瞬口に出そうになったが、これは油に火を注ぐことになるため、グッと堪えた。
夫は顔を一つ変えずに
「風呂はもう入った。早くお前も入って、さっさと風呂を洗え」
「ちょっと休ませてくださいよ。やっと皿洗いも終わったのに」
「ダメだ」
「あとでやりますから」
「そう言ってやらないだろ」
「やるって言ってるじゃない」
「そういう甘えから、家事を一切しなくなるんだ。いいから俺の言うことを聞け」
「・・・分かりました」
私はそう言ってゆっくりと立ち上がり、そのままお風呂に入ることにした。
一時間後、風呂に入り、掃除も済ませた私はそのままソファに腰をかけて、目を瞑った。
正直、この真っ暗な空間が一番心地いいのだ。
あまり精神的にも悪いことなのかもしれないが、仕方ないのだ。
こんな状態にさせたのも全てあの人だ。
私は何も悪くないのだ。
すると誰かが近づく音がしたため、嫌な予感がした。
「おい」
完全に夫の声だ。
小さくため息をしながらも
「なんですか」
「お米を研がないと、明日のご飯がないぞ」
「すいません。後でやるから」
「謝る暇があったらさっさとやれ」
「あの。私、あなたの奴隷でも何でもないんですけど」
「何?」
遂に私にも我慢の水が溢れたため、立ち上がって夫を見つめながら
「もう我慢の限界です。明日でも実家に帰ります」
すると夫がゆっくりと私に近づいてきた。
今の言葉が心に刺さったのかと思い、夫をじっと見ていると、突然平手打ちをされた。
突然のことで頭が真っ白になりながらも、夫を見ると
「ふざけたことを言うな。お前は俺と一緒になった以上、離れることは許されないんだよ」
私はそれを聞いた瞬間、背筋が凍る思いでいた。
そう言ってのけた夫は寝室へと入っていった。
こいつが生きている限りは、確実に私は奴隷のままだ。
だが、私の人生はこいつのものではない。
それは断じて言える。
こいつをどうにかしなければならない。
そう思った私は、最悪の計画を練り始めていたのだ。
いつも化粧をする専用の部屋が二階にある。
階段を恐る恐る音を立てずに上がり切り、部屋に入った。
私は化粧台の椅子に座り、中にある拳銃を取り出した。
以前、チンピラの男たちが喧嘩をしていた際、仲裁に入ったことがある。
それは近くに小学校などがあったため、私は子供たちを守るために当たり前なことをしただけなのだが、チンピラが所属している暴力団から、お礼として拳銃を貰ったのだ。
正直、警察に届け出ようかと思っていたが、これがまさかあいつを殺す良い道具になるとは思いもしなかった。
内心微笑みながらも、拳銃を手に一階の寝室に降りた。
寝室では夫が既に寝る準備を整えており、呑気にベッドの上で本を読んでいる。
入るや否や、夫が本を目線に合わせて
「おい、米を研ぐにしては早いな。手を抜いているんじゃないだろうな」
「いえ、全く手を抜いていませんわ」
「だったら、良いんだ。さっさと寝ろ」
「私は、あなたの奴隷ではない」
「は?」
夫が目線を私に変えると、目を見開いた。
「お前・・・」
私は夫に拳銃を向けている。
そのまま引き金を弾いた。
大きな音を立てており、その間、夫は頭を撃たれて息絶えた。
後はあの暴力団に頼んで遺体を処理してもらおう。
あの人たちは口が堅い。
これで私も解放されるのだ。
そう思っていると、突然インターホンが鳴った。
一体誰だと思い、リビングにあるモニターを確認すると
「すいません。ちょっとよろしいでしょうか」
モニターの奥には女性が立っており、こちらを見ている。
ここから、私の長い一日が始まりを告げたのだった。
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