第17話、閑話休題2、若様と婆上様(アネウット視点)
若様の婆上様が訪ねてきた。
私とは殆ど接点の無かった人だ。
話にはきいていたが。
「アルハザード。約束はどうなってます」
「ファッ? どの約束や?」
「アルハザードは私と同じく。王家の男に嫁ぐと言う約束です」
「………ワイは男やで」
一体全体、あの先代プラチナム家当主。
婆上様は何を言ってるのだろうか?
先代プラチナム家当主と言う事は、他家へ嫁いでないと言う事だ。
ましてや王家へ嫁いでる訳がない。
それに、若様を男に嫁がせようとする?
先代当主が何を言ってるか、私にはさっぱり理解でき無い。
謎だった。
「………では、王家の女を娶りなさい」
「何処に、そんな女いるんや?」
「城です。城を襲うのです」
「ファッ?」
無茶を言う、先代プラチナム家当主。
通称婆上様。
それに若様が戸惑ってる。
「城を襲撃して、王家の娘をさらうのです」
「ワイは魔王や竜じゃないで」
何というか………
若様が、凄くまともに見える。
「そう言えばアルハザード。昔討伐した魔王は大人しくしていますか?」
「知らんで」
魔王?
一体全体
若様たちは、
いつ魔王を討伐したのだろうか?
謎が増えた。
魔王が封印されたのは、
おとぎ話によると400年前の筈だ。
王家の紋章で、封印されたそうな。
「あの魔王を完全に滅ぼす事はできません。いつか必ず蘇ります」
「そうなんか?」
「その日に備えるのですよ。一度勝ったからと言って、次も勝てるとは限りません」
若様が魔王に勝った?
まさか………
でも………若様なら………まさかね。
「………ワイに勝てる奴なんかおらんで。………でも………魔王って誰や?」
「不死身の魔法使いですよ」
「ワイは、そんな奴と戦ったかな?」
若様が戸惑ってる様にみえる。
やはり魔王とは、戦って無いのだろう。
たぶん………
「アナタは何処まで物覚えが悪いのですか」
「いちいち、ワイが戦った相手を覚えてたら、きりが無いで」
「十年近く前に、砂漠で戦ったでしょ」
「………そうだっけ?」
若様………
魔王と戦った事を忘れるものだろうか?
しかも十年前?
その頃若様は、まだまだ子供のはずだ。
私の疑問。
謎は深まるばかりだ。
「アルハザード。キリンとクジラが食べたくなりました。狩ってきなさい」
「わかったで。街で買ってくるで」
キリン? クジラ?
街にキリンは売っているだろうか?
私も買い物について行こう。
しかし………そんなもの売っていたとして、
いくらくらいするのだろうか?
お金は足りるだろうか?
そう言えば。
きりんのエサはなんだろう?
私は首をひねった。
謎だ!
私は我慢が出来なくなった。
なので………同じ部屋で
無言でお茶を飲んでる当主様に聞く
「………当主様。お二人が、何かとてつもなく物騒な事を話していますが………」
「アネウット。気にしなくて良いですよ」
当主様は、われかんせずと、
落ち着き払っている。
先代当主様と若様。
あんなに不思議な話をしてる二人なのに、
何故、当主様は無関心でいられるのだろうか?
謎だ!!!
「しかし………」
「息子と婆上。あの2人の会話は、いつもあんなものです。放っておきなさい」
「いつも?」
あんな会話をいつも?
「2人の会話は嘘ですから。信じてはいけませんよ。アネウット」
「嘘………のテンションでは、無い気がするのですが」
何というか、迫力。
真剣さが違う。
アレはガチ勢の勢いだ。
「私の母上はボケてます」
「え………」
「馬鹿息子とボケ婆上の会話です。本気にすると、あなたもおかしくなりますよ」
「………ナルホド」
………ああ、そうか。
謎は全て溶けた。
謎は溶けて謎ではなくなった。
「アルハザード。ロック公爵家の人間に出会ったら、なぶりごろすのですよ」
と婆上様。
「何でや?」
と若様。
2人の不可思議な会話は、まだ続く。
ロック公爵家?
この国でも五本の指に入る大貴族だ。
プラチナム伯爵家よりも、2つほども格上の大貴族だったはずだ。
「彼等は、この世で最も価値の無い一族です。腐った人参ほどの価値もありません。生きる価値もありません。虫けらです」
「でも、虫けらだって精一杯生きとるで。ソレを殺すのは、なんか違わんか?」
物騒な事を言う先代と。
ズレた、たしなめかたをする若様。
やっぱり若様がまともに見える。
やっぱり謎だ。
「やるのですアルハザード」
「あ、そこに黒くてカサカサしとるロック公爵家の一族がおるで」
黒くてカサカサ?
若様の視線の先に………
みんなの嫌われ者の虫、Gがいた。
「アルハザード。絶対に逃してはいけませんよ。なぶりごろすのです」
「婆上様に任せるで。手本を見せてや」
「嫌です。アナタがやるのです」
「………」
「………」
先代当主婆上様と若様。
2人は揉め始めた後、沈黙した。
「母上〜助けて〜」
「わが娘よ。そこにいる、黒くてカサカサするロック公爵家の虫けらを始末するのです」
若様と婆上様が当主様に泣きつくと………
「………私は知りません」
当主様は、すげなく拒否した。
「娘よ。アナタはロック公爵家を殲滅する為に、我がプラチナム伯爵家を継いだのです」
婆上様がとても物騒なことを言う。
「そんな事は知りませんよ。それよりも、馬鹿息子」
「なんや?」
馬鹿息子とよばれて返事をする若様。
それで良いのだろうか?
「アナタがゴキブリ如きに震えてどうするのです? アネウットに頼るのですか?」
「ファッ?」
「情けないと思いませんか? アナタが逃げると、アネウットが戦うハメになりますよ」
え?
私?
まぁ良いけど。
でも正直、私もGとは戦いたくは無い。
「………アネウットをロック公爵家と、戦わすわけにはいかんで。ワイの力を見せてやる。逃げるな、ロック公爵家の一族め」
若様がGに襲いかかる。
違う若様。
そうじゃ無い。
何かをイロイロ間違えてる。
「当主様。ロック公爵家の方々に聞かれたら、怒られませんか? コレ?」
私が聞くと………
「我らとロック公爵家は、仲が悪いのです」
「しかし………」
「向こうも似たような事をやってますよ。お互い様です」
私と当主様がそんな話をしていると、
若様と婆上様は、向こうは向こうで………
「アルハザード。アナタは私の跡をついで、伝説の勇者になる。と言ったではありませんか」
「婆上様は、伝説の勇者じゃないで」
婆上様の言葉を………
若様が否定する。
「いいえ。私が伝説の勇者です!」
「ワイは勇者になりたくないで」
「なら何になりたいのですか?」
「ワイは早く普通の男になりたいで」
「駄目です。アナタは私の跡をついで、私と同じく、王家の男を口説き落とすのです」
………話が最初に戻った。
「ワイは男の子やで」
「そう。アナタは男の娘です」
「アカン。………流石のワイ君も、頭がおかしくなりそうや」
あの若様が音を上げた。
理性がゴリゴリと音を立てて崩れていく。
この感覚は懐かしい。
まるで
はじめて若様を見た日を思い出す。
全てを変えられた日を。
◆
「子供の頃、婆上様から受けた英才教育を思い出すで」
「そうですか」
「婆上様だけが、ワイ君を天才だと言ってくれる」
「そうですか」
「だからワイ君は、その期待に答えたいと頑張った」
「そうですか」
「ワイは婆上様が大好きや。期待に答えられとるやろうか? 自信は無いなぁ」
若様は期待に答えられてない。
だが、しかし。
そもそもの、期待のハードルが高すぎる。
一つだって叶えるのが………
困難な期待ばかりだ
世の中広い。
上には上がいるものだ。
それにしても………
若様の名前は【アルハザード】
だったかしら?
何だか記憶力に、自信がなくなった。
◆◆◆
モテる人間とは
相手の為に
自分が動く人間の事では無いなぁ
相手が
自分の為に
動いてくれるように
立ち回れる人間の事
先ずはジュースを買いに行かせよう
喜んでジュースを買いに行ってくれるように、相手を誘導する。
そこから徐々に、
自分の為にイロイロやってくれるように、
他人を教育する
そんな努力できる人間がモテるんだろなぁ
でもだからこそ………モテる人間に操られ騙されるのは………楽しい。
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