第8話、なし崩れる


 自家製の雑草茶かドクダミ茶か

 よくわからないモノ。

 それを母上に飲ませたら怒られた。

 ワイは母上から怒られてばかりや。


 だが………

 アネウットからは褒められた。

 それはそれは、凄く引きつった笑顔だった。


 それでもワイは上機嫌や………

 もっと褒めて欲しいで。

 人様に褒められる事など

 あまりないからな〜。

 しかし母上は………


「アネウット!!!」

「は、はい。なんでしょうか。当主さま」

「私は貴方に、息子の教育を頼みました。そうですね?」


 母上が念をおすように確認する。


「は、はい」

「なのにコレはどういう事です?」

「え? え?」


 母上の剣幕に

 アネウットは困惑していた。

 何が悪いのかと、オロオロしとる。


 なぜ怒られているのか、わかってない。

 ふっ未熟者め。


 アネウットは混乱してる。


 モチロン。ワイにも………

 母上が何故プンスカしているのか、

 わからん。


 わからんが……

 賢いアネウットにさえ、わからん事が。

 無能なワイ君に、わかるわけ無いんや。

 それだけはわかる。

 無知の未知な。


「アネウット」

「は、はい!」

「貴方には息子が少しでも賢くなるように、教育を任せたのです」


「全身全霊を尽くしてます。誠心誠意、教育をいたしております」

「ならば、コレは一体どういう事です?」

「???」

 

 怒る母上。

 怒られる意味がわからない。

 と小首を可愛らしく傾げるアネウット。


 スタイルの良いアネウット。

 そう言うポーズをすると、

 つい見とれてまうで〜。


 最近は特にな。

 何故か………

 見惚れて目が離せなくなる時があるで〜


「馬鹿息子が賢い貴方に似て、賢くなるのを期待したのに」

「………」


 母上は愚痴り、アネウットは沈黙した。


「だから教育を任せたのに」

「………」

「それなのに貴方が息子に似て、馬鹿になってどうするのです!」


 え?

 母上。

 今なんて言うた?


「ファ〜〜〜。母上。それはいくらなんでも言い過ぎや。ワイ等傷つくで」

「黙りなさい! 馬鹿息子!」


「ば、馬鹿息子やと!」 

「そうです!」


「ワ、ワイは………百歩譲って、馬鹿息子かもしれんが………」

「百歩譲らなくても。一歩めから馬鹿ですよ。アナタは」


 い、一歩目から馬鹿やと〜。

 ナンチュウ言い草や。

 ワイとアネウットは怒る。


「いいや、言わせてもらうで母上。アネウットは悪くない」

「私に歯向かうと?」

「あぁ………」


 口論するワイ君ら。

 アネウットは一瞬だけ怒りの表情をしたが………すぐに元の顔に戻った。

 その後、喧嘩する母子の間でオロオロする。


 母上はワイ君を無視して、そんなオロオロするアネウットへ。


「アネウット! いつもはあんなにも、さっそうと、凛としていた貴方が………」

「え?」


「さっきからの、そのなよなよした有様。わずか数日で、女々しい、その変わりよう」

「そ、それは………」


 オロオロして、

 何かを言い難そうに口ごもるアネウット。


「まるでうちの息子のように女々しい!」

「ファッ? ワイは女々しくないで」

「貴方は男の癖に、なよなよして男らしさが足りません!」


「あんまりや母上。今日は攻撃力高すぎるで〜。ワイ君、泣いてまうで」

「く………この馬鹿息子が!」


「百歩譲ってワイは、ワイは、馬鹿かもしれんが、母上言い過ぎや」


「馬鹿と言われたくなければ、努力して賢くなりなさい」

「ワイが、普通になろうと、どれ程努力してると………」

「あぁ〜〜〜。なんて可愛そうな若様」

 

 怒る母上。

 必死に言い返すワイと

 すかさず、ワイ君を慰めるアネウット。


 やっぱり持ってて良かったアネウットや。

 今まで口論で母上に勝てた事は、ほぼ無いが………


 アネウットがいれば、母上にも勝てる気がするで。

 今のワイは無敵や。

 そんな気がした。


「ア〜ネウット! 息子を甘やかすんじゃありません!」

「でも………当主様」


「でも、ではありません!」 

「でも………」

「貴方は一体。この馬鹿息子に、どんな教育をしているのですか?」


 母上は、ますます激高する。

 どんどん母上の怒りが、高まっとるのがわかるで。


 怒る母上。

 ワイ君への教育方針を聞く母上。

 でも………

 聞かないほうが………


 アネウットは言う。


「それは………とりあえず。この治安の悪い世界では、男は強くないとと思いまして」

「それはそうです」

「ですよね」


「しかし、すでに紋章持ちで強い我が子には、強さよりも賢さが………いえ。せめて、もう少しだけ、まともになって………」


 母上の言葉は

 ワイへの愚痴になりかけた。

 だがアネウットは、母上の言葉を無視して


「なので………若様には………

 若様の父君。アイアン様から私が教わった。アイアン家直伝。夜の男女の合戦法を………」


 あ、言った。

 言ってしまった。


 隠してた地雷を。

 自ら、ばらすスタイル。


 アネウット。

 父上の時と浮気した時から比べると、随分成長したなぁ。

 精神が図太くなった。


「え? ちょっと待ってアネウット。アナタは何を言ってるの?」

 戸惑う母上。


「待ちません」

 ニッコリ笑うアネウット。


「今なんと言いましたか?」

「はい?」


「今なんと? もういちど言いなさい」

「若様には、夜の戦いでも強くなってもらおうと………」

「待った。ちょっと待ちなさい………」


 慌てる母上。

 しかし、アネウットは止まらない。


「若様には、夜の男女の戦い。ベッドの中での戦い方を一通り伝授しておきました」

「な、なんですって!」


 あぁ。

 母上が動揺しとる。


「若様に夜の戦い方を、教えて差し上げました。と申し上げております」

「う、嘘ですよね?」 

 更に動揺する母上。


「若様の父上。アイアン様は、おっしゃいました」

「あの浮気馬鹿アイアンが、何と?」


 父上が浮気馬鹿!

 やと………

 まだ母上は怒ってるのかぁ。


「人間は昼も夜も戦いだ。我が子たるもの、夜の戦いにも強く無ければならない。っと」

「何を……何を言っているのです? アネウッ〜〜〜ト!」

 叫ぶ母上。


 スカートを両手で広げ

 優雅にお辞儀をするアネウット。

 その状態で淡々と報告するアネウット。

 ワイが口を挟む。


「そういえば、最近アネウットはスカートをはくようになったなぁ」

「ハイ」

「前はズボン姿しか、見た事無かったのに」


「スカートは嫌いですか?」

「すきだけども………短いスカートで、ヒラヒラした姿をするという事は、油断すると下着が見えるで。見てほしいんか?」

「違います。下着ではなく、足。脚線美を見て欲しいのです」


 ワイらのやり取りと雰囲気。

 アネウットの言葉に、何か本気を感じ取ったのか………恐れ慄く母上。


 母上は立ち上がり………

 顔面を蒼白にした母上は………

 ブルブルと震え………

 ガチャンと………

 母上お気に入りのティーカップを取り落とした。


 ティーカップは………

 音をたてて砕け散った。


 あぁ、ワイ君が精魂込めて育てた草?

 雑草………………じゃない。

 たぶんドクダミ茶が〜〜〜。


「嘘ですよね? 嘘だと言いなさい。アネウ〜ット!」

「さぁ、どうでしょう?」


 狼狽える母上に………

 アネウットは微笑んだ。

 ………

 アネウットは邪悪に微笑んだ。

 ………

 凄く邪悪な笑顔に見えた。


 何や?

 母上に恨みでもあるんか?

 何がアネウットをそこまでさせるんやろ?


◆◆


 問題を抱えた異性とは寝てはならない。

 問題を抱えた異性と関係を持つとは

 問題と寝るという事。

 問題と関係を持つと言う事。


 それは………その異性の抱えた問題。

 それを抱え込むと言う事だから。



 例えば、その問題を貴方が解決出来るとしても………


 問題が解決するという事は………

 問題が去ると言う事で。

 問題を抱えていた異性も、別の誰かの元へ、去ってしまうと言う事なのだ。


 少なくとも、その無償の覚悟が無いのなら、手を出してはならない。

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