第285話

楽しいという言葉とは裏腹に、渚の頬は濡れていた。


拭ってやろうと手を出したけど、思い留まってポケットに逆戻り。





色とりどりの光が涙に透けてすげー綺麗だったから。

もう少し見ていたいと思わせるほど幻想的な横顔だったから。


代わりに肩を引き寄せ、渚の頭を預かった。





「ジョー?」


「おん?」


「好きだよ」


「知ってるって」


「ジョー、」


「なに?」





「……わたしね、香港に行く」





天国から地獄。

愛を囁いたかと思えば、瞬間的にどん底に突き落とされる。



パレードを見た周りの人間が歓喜の声を上げている中、全く脈絡のない会話の終着点に落とされて手に汗が滲んだ。




どんなに喉を鳴らして唾を呑みこんでも渚の言ってることを消化することは出来なくて、最強に間抜けな面をしていた。






渚の言葉足らずの会話には慣れたけど、さすがにこの展開は意味が分かんねぇ。





「は?!」




香港? 旅行?




「何の冗談だよソレ」




瞬時に浮かんだ疑問を正解に導くように。

俺の精神的ダメージに追い討ちをかけるのを承知で渚はもう一度口を開く。







「香港でお兄ちゃんと暮らす。大学も向こうの学校に移るつもり」






濡れていたはずの頬は涙の跡すら残っていなくて、渚の瞳は前を通るパレードの列だけを捉えていた。


コミカルな音楽と、眩しすぎる電飾。

非現実的な世界を演出するそれらが、ぶっとびそうな俺の理性を繋ぎ止めてくれていた。

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