第10話

「久しぶり」



マンションのエントランスに体を預けたまま、掌をこっちに向ける。

笑っているのに和やかな雰囲気は一切ない。



「……久しぶりだね」



あまりの不意打ち。

驚きと困惑が入り混じった声は一世にも伝わっているだろう。



「話がある。察しはついてんじゃねえ?」



最後に会った時とは違う。確信を得たような表情。

目を鋭くし、決して逸らされないその瞳。


今日は逃がさない。

覚悟を決めたような瞳に吸い込まれそうだった。


息を殺して立ち尽くす私は呆然とそこに居た。




一歩一歩、距離を縮める一世。


私のちょっとした動揺さえ見逃さない。

そんな緊迫した空間に恐怖さえ覚えた。



「渚」



逃れるように俯いた私の逃げ場を塞ぐように、腰を折って顔を覗きこむ。




「気づいてるのは俺だけ?」



声が出せなかった。


相手は一世。

嘘に嘘を重ねても先は見えてる。



そして意志を見失った中途半端な反応は全ての答えでしかない。




「関わらない方が賢明だよ、」



足早にマンションの入り口へ向かう。

言うことのきかない手をバッグに突っ込んで鍵を探していると、一世が逃すまいと声を張った。



「そういうわけにはいかねえんだよ」

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