柄沢真凜、十六歳、SNSはじめます。

川上水穏

第1話

 柄沢真凜、十六歳です。高校には進学しなかったので、おうちでひきこもりをしています。SNSでのハンドルネームはMarin。よくアイドルみたいな名前だよねと同級生にからかわれて嫌な思いをしたのですが、インターネットでは私の外見なんて誰も知らないわけで、だったら逆にアイドルみたいな名前のままでいいかな、って。SNSではMarinって呼んでくれると嬉しいです。よろしくお願いします。

「待って。華凛ちゃん、この自己紹介おかしいでしょ」

「いいよいいよ、真凜! すっごい、あたしよりSNS慣れしてるじゃん! ひきこもりさまさまだね」

「……そうかなぁ。これくらい誰でも書けると思うけど」

「ううん! そんなことない! あたしなんて、七生ななみ華凛かりん、十七歳、高校二年生です、よろしくお願いします、しか書けないもん」

「ちょっとぉ、華凛ちゃんはアイドルが好きなんじゃないの?」

「はっ! そっか! アイドルが好きですって書いて良いんだ! 真凜、ありがとっ」

 この押しが強い七生ななみ華凛かりんは幼なじみで、丸一年ひきこもってた私の目の前に久しぶりに現れ「真凜、一緒にアイドルやらない?」と強引に誘われて、アイドルグループ結成の話し合いの場に引っ張り出されたのが始まり。

 オーディションなんてない。ご当地アイドルを模した、アイドルやってみたいってだけの地元の女の子が集まった五人組グループ。この田舎で、都会のようにアイドルグループが存続できるとも思ってないし、単独ライブができるとも思えない。地元のイベントにお金を出さずに、呼ばれるようになることが当面の目標だろう。SNSでID取得したから自分たちで宣伝活動してみて、と運営の大人に言われて放置してたんだけど、華凛ちゃんが家に押しかけてきてしまってこの有り様。どうしたらいいの? と涙声でアドバイス求められたから、運営から渡されたIDとパスワードでログインして自己紹介の文章を適当に打ち込んでみたところだ。でも、すんでのところで現実に戻れたから、華凛ちゃんに文章を見せただけでまだ書き込みはしていない。だって、このままじゃ恥ずかしい。おうちでひきこもり、なのにアイドル……両立できるの? できるわけない。SNSの知り合いにはアイドル好きな人も多いから、新規に作られるアイドルグループの数、解散するアイドルグループの数も膨大にふくれあがっている。そんなことを大真面目にやる気は起きない。それなのに、華凛ちゃんは明るく真剣だ。

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