あの日見た、透明な恋

時川 夏目

あの日魅た、透明な恋

 

 晴空の中を、しやしやと降り注ぐ、清澄の雨。

 小さな雫が地面へと落ちる音は、何処か心を穏やかに落ち着かせてくれるものがある。


 晴れ晴れとした空から降り注ぐ雨の中を、白い傘をさして踊るようにして歩く。

 いつも通る道、いつも耳にする信号機の音、電車の音。


 私の好きな日常。今日が始まるという合図。

 けれど、今日は神様の気まぐれなのか、運命が変わる日になった。


 歩道橋の上、赤い傘を指した、黒い綺麗な髪をした女の子。

 私と同じ制服を着た彼女が、青々とした空よりも、燦々と輝く太陽よりも、私の大好きな雨よりも、綺麗だと感じた。

 そして──


 私は、雨の中で初めて、女の子に恋をした。





 暖かさを感じるオレンジ色に染った空の下。

 雨が止んで、湿った暖かな風が吹く中で、私は名前も知らない赤い傘の女の子に、を叫んでいた。


「貴女に恋をさせられました!なので責任もって付き合ってください!」


「…」


 名前も知らない女の子は、その長い髪を揺らしながら、困惑の表情で私を見つめる。


「私は、女の子との恋愛が分からないわ。それ以前に、恋をしたことがないの」


「それなら私が恋を教えます!なので付き合ってください!」


 自身でも何を言っているのか分からなかった。

 それでも、私は恋をしてしまった。

 もしかしたら気持ち悪いと思われて、嘘をついて、恋を知らないと言ったのかもしれない。


「私、幽霊よ?」


「はい!大丈夫で…す?……ぇえええええ?!」


 その日私は、女の子の幽霊に──


 ──恋をした。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日見た、透明な恋 時川 夏目 @namidabukuro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ