最終話 永遠に輝き続ける歌

 ◇


 芸能事務所、「テイマーエーグループ」を立ち上げてから二週間が経った。

 所属タレントは佐奈と霞。霞を説得するには骨が折れた。

 どうして霞を説得するに至ったのか、それは彼女に対して交渉材料があったからだった。もし君の詩が曲となってヒットすれば、立ちまち小説家にでもなれるんじゃないか? と。

 

 1


 突然だが、佐奈の病気の進行が早まった。もうほとんど視力が無いらしい。

 もう、ドーム公演は無理だろう。

 そんななか、鳥居の父と「スペス」社、社長の援助もあって、武道館ライブが決まった。

 きっと、これで最後になるだろう。彼女の歌手としての人生は。

 そのために、武道館ライブのセットリストの最後にある曲を付け加えた。

 それは、アルビノの彼女の賛歌だった。

 

 2


 武道館ライブ当日。念入りにリハーサルを重ね、そして控室で待つことにした佐奈。

 そしてぞろぞろと武道館に客が入ってきた。残念なことにチケット完売とはならなかったが、それでも佐奈は満足だった。

 これを自分の餞としよう。そんな気持ちでいっぱいだったから。

「佐奈さん、そろそろ」

「あっ、はい」

 大きく伸びをしながら幕裏で待つ。

「足元、コードがいっぱいなんで気を付けてくださいね」

「す、すみません。ちょっと目が弱視で……助けてもらえると、うれしいです」

「あっ、はい」

 スタッフさんに支えてもらいながらコードの上を通る。

 舞台に立つと、客席から歓声が轟いた。

 まるで月のような白いサイリウムを、客が振っている。

 佐奈は深呼吸をして、それからマイクを通して歌い始めた。


 辿はその様子を右側の舞台袖で見ていた。

 スポットライトと白いサイリウムに照らされる彼女は、まさしく輝いていた。


 3


 そして、佐奈は芸能界を引退した。

 それから一週間後、芸能事務所の後片付けを終わらせた後、佐奈と待ち合わせている、新宿駅へと向かった。天候はもちろん夜だった。

 彼女は白杖を使いながら駅前のベンチに座っていた。その様子を目撃した辿は声を掛けることをためらったものの、それでも声を掛けた。

「よお、佐奈」

「あっ、辿くん」

 彼女の瞳には、もう今までのような輝きは存在していなかった。

 佐奈を支えながら一緒に歩く。

 

 ある路地を通った時だった。佐奈の武道館ライブでしか聴けていないはずの曲を、ギター片手に弾いていた少女がいたのだ。

 それをそばから見ていたとき、佐奈が口を開いた。

「私は永遠にならなくても、私の曲は永遠になるんだね」

「そうだね」


「また、一緒に夜で遊んでくれる? もう私は月に輝いていないけど」

「ああ、もちろんさ」

 佐奈と手を繋いで、弾き語りの少女を後にした。


                            了


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夜を愛した少女のアルビノ物語。 彼方夢(性別男) @oonisi0615

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