第十五話 「メルト」「四季刻歌」を歌う、カラオケで。
7
ピザ屋から出て行ったあと、辿は佐奈に連絡を掛けた。しかしやはり、出ない。
嘆息を吐き、家路についた。
空はもうじき、夜になる。
しばらくして、月光が雲の合間から出てきた。
いつもの公園に立ち寄ると、歌声が聞こえてきた。
それは、その声は自分が惚れてしまった歌声。
月光に照らされた白髪が周囲へ反射していた。
「佐奈……」
「……」
佐奈が唄うのをやめて荷物をまとめて、辿の横を通りすがろうとしたとき、だが佐奈はこちらを窺い、「謝ってくれたら許してあげてもいいけど?」なんて言ってきた。
そんな、佐奈の言葉が可笑しくて辿は笑ってしまった。
「面白いな」
素直な性格のくせに、そんな皮肉じみたことを言う佐奈のことが可愛くて笑ったのだ。
「なに笑ってんのよ」
「いやあ、ごめん。悪かった。実はな、学校の件は――」
詳しく事情を話すと、佐奈は納得してくれたようだった。
「そうなんだ。なんかごめんね。私のために動いてくれたのに、あんな嫉妬しちゃって」
「いいよ。嫉妬はなんか嬉しいしさ」
「う、うん」
どこか気恥しそうにしている佐奈。
「どうする? 今日は」
「か、カラオケ行かない?」
「……いいけど、後悔するなよ」
「え……」
カラオケボックスでフリータイムの部屋を取った。
狭くうす暗い室内にどこか緊張をしてしまう、辿。一度情事なら致したというのに。
「なんの曲を唄ってくれるんだ?」
「ふふーん。聴いて驚くなよ」
そこでかかった曲は、「メルト」だった。
「さすがは歌い手だ。ニコニコ黎明期の曲をよく知っているな」
そして、彼女は華麗に歌った。伸びやかな声や、張りがあるそれは聴いているだけで女性の恋愛の甘酸っぱさを連想させる。
「じゃあ今度は僕の番だね」
辿もデンモクを使って曲を送信する。それは「四季刻歌」という楽曲だ。
自分で言うのもなんだが、辿は相当の音痴だ。だけど誰よりも歌を楽しんでいる。
辿が歌い始めると顔を険しくさせた佐奈。だがしばらくして相槌を打つように体を揺らし始めた。
「ふう」
「なんかいいね。こうしてボカロPと歌い手が、過去の素晴らしい楽曲をカバーするなんて。動画回せば数万再生はくだらないよ」
「そうだな。まあ、僕の音痴な歌はネット民の笑いものになるけど」
「確かに」
そうして、二人は笑い合った。
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