第十話 クラス内の不和との対決。
⒑
昼休憩時、辿は板書を思いっきり叩いた。
生徒たちの視線を一身に浴びる。
「なあ、お前ら。佐奈を虐めて楽しいか?」
「……えっうそ嘘。急に何なの? 佐奈ってあの不良? 別に虐めてなんかないんですけど」
「そうだよね。勘違い笑っちゃうんですけど」
こいつらほんと調子に乗りやがって、と辿は思う。あの女子グループはほんと最低だな。
するとこの光景を面白がって撮影し始める生徒。それを確認して大博打を打つことにした。
「僕は佐奈と付き合っているし、だからこそいまの彼女の保健室登校の原因を作ったお前らが許せない」
「勝手にそう言われてもねえ」
「おい……何だよこれ」
撮影していた生徒が困惑を口に出す、
「どうしたの?」
撮影者へこちらに喧嘩を売ってきていた女子がそう問いかける。
「ライブ配信であいつのことを擁護するコメントで溢れかえっているんだよ。ちょっとおかしいだろ? なんかあの有名なボカロPであるメルの名前も出てきているし」
「そりゃあ僕はメルだからな」
クラス中の生徒が嘘だろ、という顔になる。
それほどまでにメルと言うのはネット上でも、現実世界でも影響力を有しているというらしい。
「……なんだじゃあ早く言ってよ」
「は?」
女子グループの一人が手を叩きながらこちらに歩み寄ってくる。そして数歩先のところで頭を下げてきた。「本当にごめんなさい。許してくれると嬉しいです」
その光景も撮影している生徒。辿は頭を掻いて、「分かった、もう二度とあいつについてとやかく言うなよ」と釘を刺した。
放課後。辿は佐奈を迎えに行った。
彼女は帰り支度をしていた。そこへ声を掛ける。
「なあ教室に来てくれないか」
「えっ、まあ辿くんの頼みなら聞くけど……」
鞄と日傘を持った彼女が辿の後ろを連いてくる。
そしてクラスへと入ると、あの女子グループがいた。散々佐奈に向かって侮蔑を吐きまくった生徒たちが。
まずそいつらは「ごめんなさい」と謝った。
「ほんの出来心だったの。それが結果的にあなたを苦しめることになったということ。それは罪だし、なら私たちは償わないといけない」
もう一度謝ってくる女子たち。
複雑な顔をしていた佐奈だったが、ついに心折れて、「分かった。許すよ」と言った。
「ありがとな」
「どうして辿くんが謝るの? 全部取り計らってくれたんでしょ。お礼を言うのはこっちだよ」
もう帰ろう。そう言って辿の手を引いた佐奈。
校舎の外に出ると佐奈はいつも通り空に向かって日傘を射した。
「ありがとう」
ぼそっと、彼女は感謝の気持ちを言葉にしてくれた。
辿はそれに、「構わないさ」と答えた。
こうしてクラスの間での不和を取り直すことが出来た。これで彼女が少しでも昼の世界は居心地がいいと思ってくれることを、心から願っている。
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