第九話 緑内障

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 学校に登校すると佐奈はいなかった。もしかして、と思い真っ先に保健室へと向かった。

 もしかしたら佐奈は保健室登校に変わったのかもしれない。

 それで保健室に訪れると、彼女がいた。佐奈はじっと辿の方を見て、「私のこと好きすぎかよ~」なんて言って笑った。

「もう教室に戻ってくることは無いのか?」

「私もそうしたいんだけど。なかなかね~」

 保健室の教諭が目配せをしてくる。何か意図を含んだ目線を投げられ、辿は対処に困った。

 何か彼女が保健室登校に甘んじる理由があるのだろう。それを彼女に追及するのは簡単だ。だがしかしそうしてしまうと何か、彼女の大切な部分を傷付けてしまいそうな予感がして。

「じゃあ僕はもう帰ります」

「えっ、もう帰っちゃうの?」

 寂しそうな声を出す佐奈。すると保健室の教諭が「ちょっと話をしようか」と辿と一緒に廊下へ出る。


「彼女は病気なんだ」

「ええ。知ってますよ。アルビノでしょ?」


「違う。そうじゃない。緑内障と言う病気だ」


「ええ、はあ?」

 一瞬、受け止めきれなかった。

「点眼をし続けていれば病気の進行を抑えられるが、所詮抑えているだけだ。それでもきっかけひとつで失明してしまう可能性がある」

「そうなんですね。でも、どうして僕に? 守秘義務とか色々あるでしょ」

「彼女の親御さんにね、親しくしている友達には病名を告げてほしいと言われていてね。それで君に伝えたんだ。不幸なことに、彼女はもしかしたら親しい人と言うのを君だけで終わってしまう可能性がある」

「それはっ」言葉を飲んでしまう。次いで発してしまいそうになる言葉を、寸前の理性が押し止めてくれた。

「分かりました。何とかします」

「何とかしますって――」


 辿は歩き出した。使命感に包まれながら。

 あいつに普通の学校生活を送ってもらいたい。その願いからくる行動だった。

 教室に戻り周囲を見渡す。鳥居が友人たちと談笑している最中だ。

 そこに喋りかけに行く。


「なあ鳥居」

「ん? どうした?」

 辿は頭を下げた。「頼む、力を貸してくれ」

 じとっと鳥居は辿のことを見据えた。

「何をだよ」

「ごめん。言葉足らずだった。佐奈がこのクラスで馴染めるようにしてあげてくれないか」


 鳥居は容姿端麗、博学多才でこのクラスでの高カーストに位置している男だ。そんな男の号令がかかればみな、大人しくなるはずだ。

「分かった。なるべく力になってやる。でもよ、最終的な部分はお前が何とかしないといけないと思うぞ」

「……どういう意味だよ」

「彼女の本当の気持ちを理解してあげられるのは、お前だけだ、と言う意味だ」

 辿は歯噛みした。そしてただ「分かっている」と呟いた。

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