第六話 駄菓子屋での子供じみた遊び、不吉な予感……


 その日、期待していただけだった彼女とのラブストーリーが幕を開けた。

 彼女とのデートは主に夜になった。

 夜更かしの、甘いスイートな恋愛に蕩けそうになる辿たち。幸せを享受出来たらこんなにも、こんなにも幸福なのだと改めて思い知った。

 

「ここ、勝手に開けてもいいの?」

「言ってるだろ。ここは僕のじいちゃんの駄菓子屋なんだよ。お金さえ置けば店の物も勝手に飲み食いしていいから」

 駄菓子屋のシャッターを上げて、引き戸を開ける。

 腕時計で時間を確認する。八時三十分。もうそろそろかな。

「よっすー」

「おう。鳥居に緑ちゃん」


 鳥居昭とその妹、みどり。彼らがアルビノである佐奈のことを見て、「全く、綺麗な子だな」「ほんと、お姫様みたい」と口々に言った。

「おいおい、鳥居。僕の恋人を獲らないでくれよ」

「そんなことしねえって。ダチの恋人なのに」

「お兄ちゃん。その『ダチ』って言い方、古臭いよ」緑が険しい顔をしている。

 その言葉に全員が笑った。そして、思う。佐奈が辿以外の誰かの前で笑っているところを初めて見たな、と。

「さあ、存分に楽しもうぜ」

 辿の号令とともに皆それぞれの楽しみ方をした。辿と鳥居は馬鹿らしくラムネの一気飲み対決をしたり、緑と佐奈は二人で何が楽しいのかずっと話をしていた。

「お兄ちゃんのこういうところがダサいんだよ」

「ははっ、それはダサい」

 そんな様子を端から見ていて、どこか辿は安堵していた。


 そんなとき、佐奈が立ち上がろうとしたとき、眩暈でもしたのかふらっとその場に崩れた。辿は慌てて駆け寄る。「大丈夫か?」

「う、うん」

 本人も驚いているようだった。「立てるか?」と尋ねながら肩を貸して立ち上がらせる。

「今日はもう帰らせるわ。僕が送っていくから、店のこと頼んだ。鳥居」

「分かった。気をつけてな」

 彼女と手をつなぎながら歩く。「気分は悪くないか?」

「うん。平気。一体どうしちゃったんだろう」

「疲れているんじゃないか? 眠れているのか?」

「大丈夫。でも最近ちょっと貧血気味かも」

「そうか。今度親御さんと一緒に内科に受診したらどうだ?」

「……うん。そうする。あっ、ここまででいいよ」

 目の前には高層マンションが立っていた。そこの玄関に連れていく。「じゃあな。明日の学校は無理するなよ」

「うん、ありがと」


 そう言って彼女に別れを告げる。

 駄菓子屋へと帰路につく中、頭の中ではアルビノの皮膚がんのケースを想像していた。

 もし彼女がそうだったら、自分はどうしたらいいのだろう。

 ……何考えているのか。もし彼女に何かあったって、辿には何も出来ない。何も力になってあげられない。

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