夜を愛した少女のアルビノ物語。
彼方夢(性別男)
第一章 夜に出会った、月に輝く少女。
第一話 ボカロPとアルビノ少女の必然的出逢い。
1
山本辿はいつも通りにボカロソフトに歌詞を注入して、それを何度も初音ミクに読み上げさせて、その後エディターにエクスポートする。初音ミクの歌声は当然機械的だが、ぬくもりを感じる。
「ふう」
辿はゲーミングチェアから立ち上がり、窓の外を見るためにカーテンを開ける。そして窓を開けて夜風に当たる。見上げると半月があった。
この時は思いもしなかった。夜にだけ安息を得る人がいることを。
その人が自分の人生を大きく変えることを。
夜に出歩いてみることにした。
コンバースのスニーカーを履いて、玄関の外に出る。夜風が頬をそっと撫でた。それに軽く身震いする。まだ四月になったばかりで気温は辿に容赦はしない。錆びれた階段を駆け下りて団地から出る。外の新鮮な空気を肺に目一杯に入れる。
とても清々しい。肺が洗われるようだ。
辿はアスファルトを勢いよく蹴った。走るたびに感じる胸が締め付けられる感覚が、気持ちよかった。
そして膝に手を置いて軽く呼吸を整える。
この夜だけは自分の世界だ。
横を見ると自動販売機があった。それでコーラのペットボトルを購入する。
がらんとペットボトルが押し出されてトレイに置かれる。そこから取り出してキャップを開けてぐびぐびと飲む。強炭酸が喉を弾けさせる。
「美味い」
おっと、大きな声を出してしまった。不審者だと思われていないか?
そう思いきょろきょろと周囲を見渡す。そしたら一人の少女が立っていた。いつの間に? と思い、その少女のことを凝視してしまう。一体誰だろう。この近所では見ない顔だ。金髪に青い瞳だったので多分に外国人だろうが。
「ねえ、何をしているの?」
「えっ?」
流暢な日本語で喋りかけられたことで、彼女が白人ということは無くなった。それほどまでにイントネーションが完璧だったのだ。どうやら肌や目の色素が薄いだけで日本人、かもしれない。
「いいね、私にもコーラ奢ってよ」
「ど、どうしてさ」
その少女は、「だって喉乾いたんだもん」と言い訳にもなっていない、ただの強欲さを主張した。
「……分かったよ」
「ありがとうね」
見ず知らずの少女にジュースを奢るというのは、よく分からないシチュエーションだが。それでも奢ってもらった少女は愉快気だった。
「ねえ、公園に行かない?」
「またまたどうして?」
「話したいことがあるからよ」
そう言って少女は辿の手を引いて近くの児童公園へと向かった。
そこでは、月光に照らされたブランコがあった。
それぞれ座ると辿はぎぃぎぃと小さく漕ぎ始めた。
「君はいったい誰なの?」
「……
「僕は山本辿」
すると佐奈が、ふふっと笑った。「こうして私たちは夜の友達になったね」
その言葉、どこかエッチだ。そう思い辿は苦笑する。
「私、明日入学式なんだよね」
「奇遇だね。僕もだよ」
「奇遇なんだ~」
彼女は微笑みながらそう言った。その姿に見惚れてしまう自分がいる。彼女の容姿は端的に言えば厳かだった。シャツとリボン、スカートを身に着け、上からパーカーを羽織っている。
「その服ってもしかして制服?」
「そうだよ。……何か気が付かない?」
辿は首を傾げた。「どういう意味だ?」
「分からないなら、いいよ。じゃあまた」
「ああ。……また?」
彼女は去っていった。もう辿以外誰もいなくなった公園。
「何だったんだろう。あの子は」
このとき夜の半月は、僕らを祝福していたのだろうか。
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