第4話 住処を見付ける


 女に付いて行くと裏路地で強面の男数人に囲まれた。


 これってやっぱり……!逃げないと!


「ぐはっ!」


 脇目も振らず走り出そうとするが、女に首根っこを掴まれた。この女、やはり物凄い力だ。


 ガラの悪い男達は皆、とぐろを巻いた笑う蛇の入れ墨を体に入れている。完全にヤバい集団だ。


 男達に包囲されて逃げ道を無くすと女は俺から離れる。悪戯な笑みを俺に向けて賊の後ろに隠れた。


「嵌められた……」



 それから俺は賊達に顔が腫れ上がるまで殴られた。

 賊が服を剥ぎ取ろうとして、抵抗したらこうなった。


 腹を何発も殴られて呼吸が上手くできない。

 体中が痛い……。


 賊は地面にぐったり倒れている俺から服を剥ぎ取っていく。

 皮靴や靴下まで取られてしまったが最早抵抗する力も気力も残っていなかった。


 そして、パンイチなった俺からパンツまで剥ぎ取ろうする。


 俺は咄嗟にパンツを手で掴んだ。

 これを取られてしまったら人の尊厳を失う気がしたのだ。


 するとさっき俺を連れてきた女が賊の腰からサーベルの様な湾曲した剣を抜いて俺の喉元に突き立てる。


 頬を染め興奮した女の表情は狂気に満ちている。


 殺される……。


 なんだよ。異世界って夢も希望ないじゃないか……。


 思えば碌な人生ではなかった。

 良い思い出なんて一つもない。

 俺はなんと惨めなんだ。


 でも死にたくない……。

 まだ死にたくない……。


 そう思ったら涙が出た。


「パンヅあげますから……、だから殺ざないでぐださい……」


 パンツを取られたらプライドも尊厳も全て失う。

 だけど死にたくないから、泣きながら左手でパンツを脱ごうとする。そんな俺を見て賊達は一斉に笑い出した。


「「「「ギャハハハハハハ!」」」」


 俺を騙した女も笑っている。


 悔しい。


 こいつ等は人の皮を被った獣だ。

 もし、生き残れたら絶対に強くなってやる。

 そしてこの猿共を全員殺す。こいつらだけじゃない。右腕を切り落とした城の連中もだ。


 パンツを下ろそうとすると何処からか叫び声が聞こえた。


「ゾルイニコソアァーッ!ミランダッ!」


 路地に軽鎧を着込んだ兵士風の男達が剣を抜いて雪崩れ込んできた。


 賊が叫ぶ。


「イバヤッ!」


 賊達も剣を抜いて応戦する構え。

 すぐに斬り合い始まった。

 と思ったら、あの女が目で追えない速さで兵士数人を切った。

 女のサーベルが兵士に当たる瞬間「バッッ!!」と爆発したような音が響く。女の斬撃は物凄い衝撃、威力だ。


 こいつ滅茶苦茶強いぞ!


 兵士の甲冑を叩いた女のサーベルが折れた。刀身はクルクルと宙を飛び地面に突き刺さる。

 しかし、女は余裕の表情でヘラヘラ笑っている。

 手に持っていた柄を捨てると、他の賊に後は任せたと言わんばかりに路地裏に消えていった。


 俺は上半身を起こして戦闘を見る。


 賊達の方が強い……。体の動きに無駄がない。剣速が速い。

 大振りな喧嘩剣術ではなく、日本の剣道のような洗練された剣術だ。

 それに戦い慣れた感じがする。


 賊のサーベルが兵士の首に直撃。頭が胴体から落ちる。

 首はコロコロ転がって俺の横で止まった。

 地面に倒れた胴体側、その首の切断面から血がドボドボと噴き出ている。


 兵士は何人か斬られたが賊は無傷だ。

 ただ、数は兵士が上。まだまだこの路地に入ってくるぞ。


 賊達は突破口を切り開くと一目散に逃げ出す。

 俺の服や靴は持って行ってしまった。パンツだけは残ったが……。




 賊が逃走し、兵士の何人は後を追ったようだ。残った連中は負傷兵の救護や死体の片付けを始めたていた。


 一瞬だった。辺りは真っ赤な血で汚れている。

 5、6人くらい死んだのか?


 俺は真横に転がている兵士の首を見る。犬の獣人で十代だろうか?若い男だ。


 その首を犬の獣人で若い女兵士が持ち上げた。


 俺はその女を見上げる。露出した腹筋が六個に割れていた。


 女は首を大切そうに抱き締めると声を出して泣いた。


「……ジャン、うあ゛ぁぁ、あ゛あ゛あ゛、ジャン……ジャン……あ゛あ゛あ゛」


 ジャン?名前かな……、同じ犬の獣人だし、歳も同じくらい。恋人なのだろうか?


 顔を涙でグチャグチャした女兵士と目が合った。

 俺は気不味くて視線をそらす。


 すると女は「ぺっ」っと唾を俺の眉間に吐きつけた。


 何だよそれ。俺のせいじゃないだろう……。


 ここは想像以上にヤバい世界だ。

 俺は平和ボケした日本人で、頭の中はまだ何処かお花畑だった。


 でもこの世界で行きていくなら変わらなきゃいけない。






 それから町を出て広大な畑の中を通る泥道をひたすら歩いた。この道は町と町を繋ぐ街道なのだろう。荷物を満載に積んだ行商人の荷馬車が往来している。


 とにかく町から離れたかった。


 食料はないから途中、湧き水で腹を膨らませて、夜になっても星明かりを頼りに歩いた。

 牢に閉じ込められている間、殆ど寝ていたから眠くなかった。

 翌日も同様に何も食べず歩き続けた。


 ずっと街道を歩いて城を出てから三日目の朝、ここまで続いていた農村や畑は終わり、この先は森が広がっている。


 体力の限界だ……。


 この先、森を抜ければ別の町や村へ行くのだろうか?

 それじゃあまり意味がないな……。どうせ誰も俺を助けてはくれない。寧ろ人といると騙されたり危害を加えられる。

 もう人を人だとは思わない方がいい。

 人間は獣。猿に痛みや苦しみを訴えてもキャキャ笑うだけだ。


 ここは畑や近くに集落がある。

 食料を調達できない場合、畑から盗むこともできる。


 この辺りで数か月生活して、ソウルイーターが言っていたチカラを研究したい。できれば魔法も覚えたいが、独力では難しいか……。いや、誰も頼れないんだ。一人でやるしかない。


 森の中に入ってみるか?

 洞窟とか木の洞とか雨風を凌げる場所があるかもしれない。

 そこを拠点にできれば……。


 俺は森の中へ続く街道から逸れて、道のない森の中へ入っていた。


 いたっ!


 石を踏んだ。足元を見ると岩や落枝でゴツゴツしていた。

 ここまでは土の上を歩いてきたから裸足でも何とかなったけど、ここからは足元に注意しないと……。

 足の裏を深く切ったら暫く動けない。


 暫く森の中を進んでいくと木が少ない開けた草原に出た。


 元々集落があったのだろう。朽ち果てた家が数軒ある。

 煉瓦造の外壁、屋根は藁葺、外壁や屋根につたが巻き付いている。


 殆どの家は屋根が崩落して外壁も崩れていた。だが、家の形状を維持している建物もある。ボロボロだけど。


 俺は一際綺麗な家に入って中を物色することにした。


 扉は木が腐って取れているから簡単に入れた。鳥や獣の糞が落ちてるけど、何とか寝泊まりできそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る