人間嫌いの異世界無双

黒須

第1話 プロローグ




 俺は人間不信で、人間嫌いだ。

 それ以外はどこにでもいる平凡なサラリーマン。


 そんな俺に突然訪れた転機。

 気付けば目の前にソレはいた。


 ――白いフェザードラゴン。


 大きさは馬くらいか?結構大きいぞ。

 体は純白の体毛に覆われていて、背に白い翼が生えている。顔や体型はヤモリに似ている。


 ドラゴンは力無く倒れ丸まっていた。目は虚ろだ。

 俺のすぐ足元にいるから屈んで手を伸ばせば触ることができる。


 もしコレに襲われたら俺なんてひとたまりもない。

 だけど、ドラゴンから発せられる優しい雰囲気のせいだろうか、全く恐怖を感じない。寧ろ安心する。


 俺は顔を上げて360度周りを見渡した。

 何もない真っ白な世界。――死んだのか?

 いや、そんな筈はない。さっきまで仕事をしていたんだ。


 自分を見るとスーツを着て革靴を履いている。

 カラフルな水玉模様のネクタイは今朝選んだものだ。


 純白のドラゴンに視線を戻す。


 興味深く観察しているとドラゴンがゆっくり目を開きこちらを見た。

 穏やかな青空のような澄んだ蒼眼は妖艶な宝石のようで、俺の視線を惹きつける。

 視線が合うとドラゴンは目を細め嫌悪感を表情に出した。


「ああ……なんて汚いんだ。君の魂はとても醜いね。真っ黒だよ」


 頭の中に声が響いた。

 聞いたこのない言葉だが何故か意味を理解できる。


「……」


 確かに俺の心は醜い。

 俺は人間が嫌いだ。人という生き物をゴキブリや蚊と同等に見ている。


「朕は消えるけど、このチカラを正しいことに使ってね?」


「チカラ?」


「魂を支配し総べるチカラさ」


「意味がわからない。何それ?」


「直ぐにわかるよ。このチカラは君に引き継がれるのだから」


「アナタは何者なの?」


「朕は……、ソウルイーターと呼ばれていた。本当の名前はずっと昔になくしてしまったんだ」


 ダメだ。全く分からない。

 そもそもこれは夢だから、わからなくていいのか?


「ん?あれ?夢ぇ……えっ??」


 それにてはやけに意識がはっきりしている。半信半疑で自分の頬を抓ってみた。


「痛ぁっ……夢じゃないじゃん!?俺、オフィスで仕事していたよな?……なぁソウルイーター、ここは何処なんだ?」


 そう問いかけるが、ドラゴンは徐々に透明になっていく。何か言っているようだが声が小さくて聞き取れない。

 疑問が解決されることはなくドラゴンが消えると同時に俺は意識を手放した。



 シーダット王国王城、魔術広場にて。


 広場の中心には体長3メートル程の白いフェザードラゴンのミイラが転がっていた。


 ドラゴンの横には髭を貯え顔に深い皺を刻んだ壮年の王が立つ。

 王は広場に集まった貴族等国の重鎮や騎士団幹部、文官や官僚に向かって説明を始める。


「諸君、よく集まってくれた!こいつは3000年前の遺跡フルマトル神殿、その遥か地下深くで発見された竜のミイラであぁぁる!太古の時代、彼の竜は強大な強さで世界の頂点に君臨しておった!その名はソォォウルイータァーッッ!!これより、このソウルイーターに人の魂魄を入魂し、我が国の兵士として働いてもらぁううッッ!!」


 ローブを纏った魔術師二人が王の前に出る。二人とも顔はフードで隠れていて見えない。


「この者らは、世界最高峰の召喚魔術師と死霊魔術師であぁる。100人以上を殺し実験した結果、この世界の魂はソウルイーターに適合しない故、別世界から魂を召喚する!諸君ッ!儀式が成功した暁には、この戦国の世で我がシーダット王国は数多の隣国を蹂躙し、このヘムリア大陸で覇権を握るであぁろうッ!!」


「「「「「シーダット王国に栄光あれッ!!」」」」」


 会場は割れんばかりの拍手と歓声で盛り上がった。

 王は暫し沈黙した後、片手を上げる。すると会場は一斉に静まり返った。


「――では始めよう!取り掛かれぇいッッッ!!」


 王の一声で予め床に描かれていた魔方陣に召喚魔術師と死霊魔術師が魔力を流し召喚魔法を発動させる。

 暫くするとソウルイーターのミイラが光り輝いた。

 そして、ミイラは激しい光と青い炎を纏い燃え上がる。



 意識を取り戻し、目を開けると俺は体育館のような広い部屋にいた。


 ここはどこだ?


 薄暗いが視界は通る。

 俺の周りには何かが燃えたような灰が積もっている。それが何なのかはわからない。

 床や壁は石畳で壁には等間隔に蝋燭が灯っている。高い天井には大きなシャンデリアがいくつもぶら下がり、蝋燭の火が燃えている。


 そして俺は大勢の人に囲まれていた。


 それにしても物凄い人数だ。

 皆、外国人だな。顔がヨーロッパとかそっち系だ。鎧を着ている人もいる。何かのイベント?


 そして何故か、皆が俺に刮目している。

 滅茶苦茶見られている。


 えっと……、俺何かやっちゃいましたか?




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