夢か現か 救われた僕

蟒蛇シロウ

目覚める貞王神の兆し

僕の名前は木元幸太きもとこうた

今日から日記を付けていきたいと思う。

まずは僕について。

冴えない今年32歳の独身。

恋人いない歴=年齢ですが何か?


仕事はしていない。

両親は早く安定した仕事に就けってうるさいけど、僕にはそんなつもりは全くない。

何故って実家暮らしと親のお金で、十分に生活していけるからだ。

いざとなれば生活保護って手もある。

人間、身の丈に合った生活をしていれば気楽でいい。


そんな僕にもちょっとした趣味がある。

そう、それは推し活——!

僕が愛して止まないのは、女性アイドルグループ「はったりぼん」だ。

その中でも僕が大好きなのは、桜田ひなたちゃん!!

僕を始め、ファンのみんなはひなたんって呼んでるんだ。

ひなたんは、優しくてとてもいい子!

みんなの事を考えて、いつも一生懸命。

誰よりも努力家なひなたんは、絶対に夢を叶えてくれると僕は信じてる!

だって、ひなたんにはとっておきの奇跡が約束されているから!

その奇跡とは、「はったりぼん」のメジャーデビューだ。

この奇跡が叶う日を僕はずっと待ち望んでいる。

そして、その日が訪れた時……僕はきっと泣いてしまうだろう。

いや、絶対泣くね! だって推しがメジャーデビューだよ!?泣いちゃうに決まってるよ! 僕はその日が来たら、きっとひなたんとの別れを惜しんで、号泣しちゃうと思うんだ。

だから僕は、その日が来るまでずっと応援したい。



今日は2月7日、僕の誕生日だ。

今までは、誰からもおめでとうなんて言われた事はなかった。

でも、今日からは違う! 僕の誕生日に、あるプレゼントが家に届いたんだ! そう……それは……ひなたんの生写真!! ひなたんが「はったりぼん」の新衣装を着て、ちょっと恥ずかしそうにしながらこっちに向かって微笑んでる。

ひなたん尊い……。

もう僕の心臓はキュン死にしそうだよ……。この写真は、一生の宝物!

こんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてだよ!! もう……僕は幸せすぎて死んでしまいそうだ……。


ああ……ひなたん……。

僕はひなたんに恋をしている……。

こんな幸せな誕生日は初めてだ! もう死んでもいい!! いや、まだ推し活を続けたいから死なないけどね。

ああ……ひなたん!!ひなたん!!! ひなたーーん!!!! ひなたんを思って、今日も僕は生きていく。

今日の推し活は、ひなたんとの2ショット写真を部屋に飾って眺める事にしよう。

ああ……幸せだなあ……。



ちょうど、来週の2月14日はバレンタインデーだ。

なんでもはったりぼんのバレンタインデーイベントがあるらしい!

そのイベントのチケットが当選したと、ファンクラブから通知が来た。

これまた嬉しい誕生日プレゼントだ!

このイベントの為に、僕は明日からダイエットして体脂肪率を落としていこうと思う。

そして当日は、はったりぼんの皆んなと1日過ごすんだ!! ああ……楽しみだなあ……!! もう待ちきれないよ〜!早く2月14日になってくれないかなあ〜!!



2月14日のバレンタインデー当日。

僕は今、ひなたんとの2ショット写真撮影会に来ている。

ひなたん、めっちゃ可愛いよ〜!!

今日のひなたんは、淡いピンクのドレスを着ていてとても似合っている。

何これ!? 可愛すぎるんですけど!?

僕の推しが可愛すぎて尊い……!!

僕も今日は一応それなりにオシャレをしてきたつもりだけど、僕なんかが隣にいるのは申し訳ないと思ってしまう。


僕は太ってるし、顔も良くない。だから、僕はひなたんに釣り合わない……。

そんなの分かってるけど、ひなたんが大好きだから! どんなに釣り合ってなくても、僕の気持ちは変わらない。

だから、精一杯頑張ってひなたんを応援する!! ひなたん、僕の一生の推し!!




「みんな~! 今日は来てくれてありがとう! 今日はバレンタインだから、私からみんなにチョコをプレゼントするね!」

ひなたんはそう言って、僕に向かってチョコレートの箱を差し出した。

「ハッピーバレンタイン!!」

ひなたあぁぁぁぁん!!! ありがとう〜!!! もう僕は幸せすぎて死にそうだよ〜!!

「ひ、ひなたんからチョコを貰えるなんて……」

「こうたん……今日も来てくれてありがと~!」

ひなたんは古参の僕のことを覚えてくれていて、こうたんと呼んでくれる。ああ……推しが尊い……!!


「ひなたん……僕、今日の為にダイエット頑張ったんだぁ。始めるのが遅くてあんまり痩せなかったけどね……えへへ……」

「こうたん偉い! 凄いよ! 頑張ったんだね!」

ひなたんは僕に向かってニッコリ微笑んでくれた。

ああ……天使がいる!! 僕は今日死んでもいい!! いや、まだ推し活を続けたいから死なないけどね!

「ありがとう〜!!ひなたんにそう言ってもらえると嬉しいよ〜!!」

ひなたんは優しい。僕にいつも優しくしてくれる。。

僕みたいなキモータにも優しいなんて……マジ物の天使だな!

「こうたん、これからも応援よろしくね!」

「うん!任せて!!僕もひなたんをずっと応援し続けるからね!!」

ひなたん、一生推すよ!! これからも推し活頑張るぞ〜!!


その日の夜。

僕は今日の推し活を思い出しながら、1人日記を書いていた。

「今日は最高にいい日だったなあ……ひなたん可愛かったなぁ……」

もう、今日という日が終わってしまうのが寂しくて寂しいでしょうがない! 今日は本当に幸せな一日だったな〜!



そんな素敵な2月14日のバレンタインデーから数日経ったある日。僕は、いつも通り推し活に勤しんでいた。

今日は商業施設でミニライブだ。

「ひなたん〜今日も可愛いよ〜!!」

「こうたん、いつもありがとう〜! 嬉しい! 大好きだよ~!」

今日も推しのひなたんが尊すぎる……。

やっぱりひなたん大好き!


そういえば3月には、ひな祭りイベントがあるな~!

桜田ひなたって、名前も何だかお雛様みたいだよね!!

ひなたんがお雛様で、僕がお内裏様……なんて。

そんな妄想くらい、いいよね!

ひなたんのことは僕が一生守ってあげるからね!


その日の商業施設でのライブは、ファンや彼女たちが想像していた以上の盛況に終わった。

へへん、どうだ我らがはったりぼんを見たか!!

集まった観客たちの大きな声援を聞き、彼女たちを応援してきてよかったと心から思う。


ただ集まった観客のなかの若い男性10人組くらいのガラの悪い集団が、ニヤニヤと下卑た目で彼女たちを眺めているのが少し気がかりだった。

あいつら……。

はったりぼんのメンバーが可愛いから、気持ち悪いこと考えてんだろうな……。

あ~、神聖な推しをあんな顔で見るなよ!!

まあ、ひなたんは僕が守るから大丈夫だけどね!



そしてライブが無事に終わった帰り道、僕ははったりぼんのみんなを出待ちすることにした。

いや、ストーカーじゃないよ? 今日の変な連中がもし、彼女たちに何かよからぬことを企てようとしているなら、僕が阻止しないと!

はったりぼんのメンバーは、バンタイプの車で会場を後にした。

僕は、無断で借りた母の車を運転して尾行を開始した。

本当は無事に車に乗るところを確認したら帰るつもりだったんだけど、先ほどの10人ほどのガラの悪い連中が乗る車2台が、彼女たちの車の後を追い始めたから僕も後を付ける事にした。



あいつら……もしかして、変質者か!? 冗談じゃない! ひなたんたちは僕が守る!!

そんな思いで僕は2台の車を追いかけ続けた。

はったりぼんの車がとある山道に差し掛かった時だった。



あっ——!!

奴らの車が彼女たちの乗る車の前に、飛び出して停車させる。

そして10人ほどのガラの悪い連中は、そのまま彼女たちの車に近づくとドアをこじ開け、中に乗り込んでいく。

そして車は急発進し、猛スピードで走り去る。


ふざけんなっ!!

僕は見失うまいと、ギリギリの距離をとって追い続けた。

その最中に警察に連絡し、駆け付けてもらうことにした。

だけど、もし警察が質の悪いイタズラだと判断して動かなかったら……。

ガラの悪い相手が10人……僕1人でどうこうできる人数じゃない……。



あっちの車は山道をどんどん進み、山奥の廃屋にたどり着いた。

男たちははったりぼんの5人と、運転手、マネージャー、プロデューサーにナイフを突きつけて、廃屋へと進ませた。

僕も少し離れたところで車を降り、慎重に声の方に近づいていくと、ある部屋に奴らと彼女たちがいた。

僕は柱の影に隠れて様子を窺う。

ガラの悪い連中は廃屋に入ると、中にあったパイプ椅子にはったりぼんのみんなを縛り付けていく。



「なにが目的なんですか!? どうしてこんなことをっ!?」

はったりぼんのリーダー、みなみんこと星川みなみがキッと男たちを睨みつけながら言った。

「へっへ、俺らはお前らのことよく知らねぇんだけどさぁ。スタイルのいい可愛いメスが5人も揃ってるんだし、ちょ~っと楽しませてもらおうと思ってよぉ」

ガラの悪い男たちの1人がニヤニヤしながら彼女たちを舐めまわすように見つめる。

「おっ? やっぱみんな可愛いじゃねぇか! 夢見る地下アイドルどもを俺らがたっぷり可愛がってやるよ」

男は、縛られて身動きが取れないみなみんの顎をくぃっと持ち上げた。

「へへっ、いいねぇ! その嫌がる顔!そそるぜぇ」


「やめてくださいっ!! こんなことして許されると思っているんですか!?」

みなみんが気丈に言い返すが、男たちはニタニタと笑っているだけだ。

「そうです! 私たちは何もしていません!」

ひなたんもみなみんに続けて声を上げるが、男たちのいやらしい視線に少し怯えているように見える……。

「へへっ、まあそう言うなよ。ちょっと俺たちと遊んでくれよぉ」

男はそう言ってひなたんに近づくと、彼女のスカートをめくりあげる。

「いやあっ!! 何するんですかっ!?」

ひなたんが恥ずかしさと恐怖に顔を真っ青にし、声を上げる。



ああ……ひなたんの下着……ひなたんのおパンティだ……。僕は思わず、ゴクリと生唾を飲み込む。

僕は……最低だ……。助けにいかないといけないのに……。僕がひなたんを守るって誓ったのに……。


あの人数相手にここで飛び出すのは自殺行為だ。

でもここで隠れているだけだと、はったりぼんのみんなはもっと酷い目に合ってしまう。

僕はどうしたら……。どうしたら……!


「いやあっ!やめてっ!」

ひなたんは目に涙を浮かべ震えているが、男の手が彼女の太ももを這いずり回る。

はったりぼんの他のメンバーたちも、皆一様に怯えていた。

「へへっ、可愛いパンツ履いてんじゃねぇか」


最低だということはわかっている。できれば助けたい! でもそれは難しい! そして彼女たちを汚されたくないという思いは本当だ。

だけどあの可愛いはったりぼんの、ひなたんの美しいカラダをこの目で見てみたい、という歪んだ欲求があることもまた否定できない。



僕は……最低だ……。

でも、もうどうすることもできない……。それでも……。

それでもやっぱり、あんな奴らがひなたんたちの笑顔を奪うのは許せない!!

そう思った時には、僕は既に柱の陰から飛び出して声を張り上げていた。



「ひなたんたちを離せぇえええ!! これ以上はったりぼんのみんなに手を出したら許さないぞ!!」

僕は男たちに向かって声を荒らげる。

「なんだテメェ!?」

僕が発した突然の大声に、ガラの悪い男たちは一瞬驚きの声を上げる。

「その子たちを離せ!」

僕は再度、敢然と声を張り上げた。だが今度はお互い顔を見合わせて、僕を嘲るように笑う男たち。

「なんだぁ? お前? 邪魔すんなよ」

しまった……。やっぱり、無謀過ぎたんだ……。

この数の差だし、どう見ても僕は弱そうな見た目をしている。ケンカ慣れしてそうな連中にとっては、なんの障害にもならないんだろう。


「ああ……こいつ、この女どものファンか」

「黙って見てろよ。そうすりゃあ、憧れのアイドルのあんな姿やこんな姿が見れるんだぜ?」

男たちがゲラゲラと品のない笑い声をあげる。

「こ、こうたん……!?……ど、どうして——!?」

ひなたんは突然現れた僕の姿に驚いて、目を見開いている。

「はったりぼんのみんなを傷つけさせやしないぞ!!」

僕は精一杯声を張り上げる。

しかし、ガラの悪い男たちはニヤニヤと笑みを浮かべたまま、余裕そうな態度を崩さない。


「なんだ? 兄ちゃん……まさかコイツらを助けようとでも思ってるのか?」

1人の男がそう言って僕の正面に立つと、ドンと肩を小突いた。

僕はその衝撃で尻餅をつく。

「ぐあっ!」

その男は僕の腹を思い切り蹴りつけた。

「こうたんっ!!」

「幸太くんっ!!」

ひなたん、はったりぼんのみんなの悲痛な叫びが僕の耳に届く。


僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。

「ぐあっ!」

そしてまた蹴りを入れられる。

痛い……苦しい……。

でもここで僕が倒れるわけにはいかないんだ!! 僕は腹を押さえながらなんとか立ち上がる。

しかし、そんな僕の様子に男たちはゲラゲラと手を叩いて笑う。


「腹の肉のおかげで随分とタフだな」

男たちが僕を痛めつける様子を、はったりぼんのみんなが怯えた表情で見つめているのが目に映った。

「ひなたん!みんな!!大丈夫だからね!」

僕は腹を押さえながら、痛みを堪えて笑顔を作る。僕がみんなの盾にならないと!! 絶対に……絶対に許さないぞ!!コイツらを全員ぶっ飛ばしてやるっ!!

「へへっ、お前みたいなデブに何ができるんだよ?」

1人の男が僕の胸ぐらを掴むと、ぐいっと引き寄せた。


「こうたん!」

ひなたんの悲痛な叫び声が聞こえる。

ひなたん……僕は大丈夫だから。だからそこで待っててくれ!

「調子に乗ってんじゃねぇよ、コラァッ!!」

男の拳が僕の顔を捉える。

「うがぁっ!」

僕はそのまま床に叩きつけられる。痛い……痛いよぉ……。

でも、みんなの方がもっと辛いんだ!だから僕は大丈夫だっ!!


「ぶっ飛ばしてやるっ!!」

僕は立ち上がると、目の前の男に向かって渾身のパンチを繰り出した! ……が、それはあっさりと避けられてしまう。

そして次の瞬間には、また腹にズシンとした衝撃が走っていた。そのまま床に叩きつけられる。

僕の決死の抵抗も虚しく、男の拳が振り下ろされる。

「ぎゃあっ!」

僕は口から血を吐いてその場にうずくまった。腹の痛みが脳天まで響いて、頭がクラクラする……。


男2人がかりで僕を押さえ込むと、リーダーらしき男がひなたんに近づいていく。

「どうやらあのデブの推しってやつは、お前みたいだな」

男はひなたんの顎をくいっと持ち上げると、ニタニタといやらしい笑みを浮かべる。

「い、いやっ!離してっ!」

ひなたんは目に涙を溜めて必死に抗議するが、男は僕の方を向いて邪悪な笑みを浮かべると

「おいデブ。お前の大好きな推しを、今からお前の目の前で汚してやるよ」

そう言ってひなたんの太ももをまさぐり始めた。

「いやぁああ!やめてぇっ!」

ひなたんが泣きながら叫ぶ。


「へへへっ、お前も推しのアイドルの裸見てぇだろ? 全裸で乱れる姿見てぇだろ? お前みたいなデブじゃ絶対にこんないい女とヤれねぇもんな? お前の代わりに俺がこいつをブチ犯してやるよ!」

そう言うと、男はひなたんの服に手をかけると、ビリビリと引き裂いた。彼女のブラジャーが露になってしまう。

「きゃああっ!!やめてぇっ!!」

ひなたんの悲痛な叫びに、僕はもう我慢できなかった。


「やめろぉおおおお!! もうやめてくれぇえええ!!」

僕がそう叫ぶと、男は苛立った様子で怒号を発した。

「うるせぇっ!! おい、そのデブぶっ殺せ!見せしめにしろ!!」

リーダーの男の指示が飛ぶと、僕を押さえ込んでいる1人が僕の背中にナイフを突き立てた。

「うあああっ!! 」

背中に灼熱の痛みを感じて、僕は絶叫する。

しかしその痛みは1度や2度じゃ済まなかった。

男は何度も何度も僕の背中や肩、首にナイフを突き刺した。


霞んできた視界の先に映ったひなたんと目が合った……彼女は先ほどよりも絶望的な表情を浮かべ、身体を震わせて大粒の涙を流している。

そして彼女は僕に手を伸ばして

「こうたん! こうたんっ!! やめてっ! こうたんが死んじゃうっ! やめてぇええ!!」

と、半狂乱になりながらそう叫んだ。

僕はそれに応えようと手を伸ばしたけど、正直もはや絶叫をする余裕すらなく、呻き声しか出てこない。

そんな僕の様子さえ、目の前の男たちにとっては滑稽なのだろう。奴らの満足そうな高笑いが廃墟に響いた。


そしてその瞬間、僕は全てを悟ってしまった。

もうだめだ……僕は死ぬんだ……はったりぼんのみんなを……ひなたんを守ることができなかった……。ごめんよ、本当にごめん……。

ああ……僕はこのまま死ぬのかな……ひなたんを守ることもできないなんて……最悪だ……。



「はっ! 大人しくしてりゃあ、コイツの下着くらいくれてやったってのに残念だったなぁデブ?」

リーダーの男が僕の頭を踏みつける。僕はもう呻き声すら出なかった。

ああ、意識が遠のいていく……僕死ぬんだな……はったりぼんのみんなも守れずに……ひなたんも守れずに……!

ああ、神様!どうかお願いします!もう一度僕にチャンスをください!!

僕はもう、どうなっても構いませんから!

どうか、ひなたんたちだけは助けてください——!お願いしますっ!!

僕は必死に心の中で願う。助けたい……彼女たちだけでも——



"問いを1つ—— 本当にどうなっても構わないのかな?"

薄れゆく意識の中で、誰かのそんな言葉が聞こえた気がした。

"未来永劫、他者との肉体の交わりを禁じられる……つまり異性同性とを問わず、今後キミは一生交尾ができなくなる。それでも構わないというのかな?"


——いや、幻聴なんかじゃない——!

これはきっと神様の声だ。

だとしたら!

(それでも……。どうなっても構わない! もう誰とも交われなくても! 一生童貞でも構わない! だから、彼女たちだけは助けてくださいっ!!)

僕は心の中で強く叫ぶのだった。


"ほう……今一度問うよ……本当にどうなっても構わないのかい?"

(構わないっ!! もう僕の命なんてどうだっていいから、彼女たちだけは助けてくださいっ!!!)


"契約は成立だ——。キミの願いを叶えてあげよう。じゃあ早速……キミの体をいただくとしようかな?"

その声と共に不思議なことが起こった。

少し遠くに、血だらけで倒れている僕の体が見える。

まるで映画でも見ているような感覚だ。


……夢?

でもなんだろう、この不思議な感覚は?

はったりぼんのみんなは、相変わらずこの絶望的な状況に涙を流して震えている。

ひなたんは血だらけの僕を見て、嗚咽しながら呼吸が荒くなっている。

そして何度も僕の名前を叫んでいる。


ああ、たった1人のファンのためにそんなに心配してくれたんだ。

嬉しいな……。


「へへっ、ゴミがくたばったところでそろそろお楽しみタイムといくかぁ!」

リーダーの男はそう言うと、ひなたんのスカートの中に手を入れる。

ひなたんは抵抗しようと必死に手足をバタバタさせるが、男によって押さえつけられてしまう。



その時だった——。


「#$#$,##$##$!」

「なんだようっせぇな!!」

1人の男がそう叫ぶと、声のする方に振り向く。

そこには血まみれで、確実に致死量の血を流しながら起き上がった僕の姿があった。

「なっ!? あいつまだ生きてやがるぞ!! テメェらさっさと黙らせろ!!」

リーダーの男の声に反応して、男のうち1人が僕の心臓にナイフを突き立てた。


「いやあぁぁっ!! こうたんっ!!」

絶叫するひなたんと、血だらけの僕を見ながらニヤリと笑うリーダの男だったが——。


「#$#$,##$#!$##$%? %&&%%**?? ?!?! !!!!」

ナイフを心臓に突き刺されながら、僕は訳のわからない言葉を発し続ける。

「なんだぁ!? コイツ、どうしたんだ!?」

リーダの男を始め、連中はそんな僕の様子に恐怖している。


「%%**!!#$8$99#44!$444?4444……?"!!……あ、あ、あー……あーあーあー」

そして僕は言葉にならない言葉を発し続ける。これは一体……。

「あー、ずぃー、じぇー……すぅ~、聞こえる? 聞こえるかな? ……あれ? 聞こえるかな?……えっと、聞こえてる?」

その声は僕のものとはかけ離れた、美しい響きを含んだ男性の声だった。

「聞こえてるも何も……。な、なんだてめぇ?」

リーダーの男は動揺を隠しきれない様子だ。他の連中も同じような反応だった。


「よし、聞こえているみたいだね。やはり意識に直接語りかけるのと、誰かの肉体を借りてその世界のその国の言葉で話をするというのは違うものだね。久しぶりともなると調整が面倒なものだ。ましてやこんな小さな世界の中の島国の言語だと、ね」

「てめぇは誰だって聞いてるんだよ!! 訳の分からねぇこと………………!!?」

気味の悪い僕に対する恐れを拭うようにリーダーの男が威圧的に言葉を続けようとするも、口をパクパクとするばかりで一向に声が出ない。


「キミはさっきうるさいから僕を殺せと、仲間に命じていたね。フフ、ほんの仕返しだよ。もう治してあげようね」

僕(?)は、いたずらっぽく笑った。

「さて、と。キミたちに問いたい。今まで何人の女性に対してこういうことをしてきたんだい? 正直に教えてくれるかな?」


「は、ははは……。そんなの覚えてねぇし、どうだっていいだろ? お前みたいなキモオタにはわかんねぇよ。みんな、こいつ妙な手品かなんかしただけに違いねぇよ! ビビる必要なんかねぇぜ」

男の1人がそう言うと、他の男たちもそうだと口々に言う。

しかしその瞬間、騒いだ5人ほどの男たちの体がゴキッ! ボキッ!! という音と共に圧壊してしまった。


彼らは声を上げることもなく、殺されたのだ。

「な、なんなんだよ! てめぇ!!」

リーダの男は慌てて懐から拳銃を取り出すと、僕(?)に向けて発砲する。しかし僕(?)は避けようともしない。

そしてそのまま銃弾は胸に吸い込まれた。

しかし、出血はない。

貫通もしていないようだ。

だが——


「う、ぐぁ……っ……な、なんで……」

別の男の心臓に、代わりに銃弾が撃ち込まれていた。

「な、なんなんだよ……お前……」

リーダの男は恐怖に顔を歪ませ、後ずさる。

しかしすぐに壁にぶつかってしまった。


そんな男に対して僕(?)はニッコリと微笑むとこう言った。

「教えてくれないなら結構。その代わり、キミたちには自分たちが乱暴したり、殺したりしたのと同じ回数、別の方法で死んでもらうことにするよ」

僕(?)がそう言うと、先ほど死んだ5人の体が元通りになる。


「ど、どうなってんだ? ……おれ……」

「確か激痛が一瞬走って……それで……」

口々につぶやく男たちだったが、次の瞬間には体がゆっくりと膨らんでいく。

「な、なんだよ……なんなんだよぉ!! これぇ!!」

リーダーの男の体もどんどん膨らんでいく。


「ぐぇっ!! く、苦しい……!!」

「た、助け……!!」

「お、おれ……死ぬのか……?」

そして彼らは全員パーンッ、と大きな音を出して破裂してしまった。


しかし再び彼らの体は再生する。

状況を理解し始めた男たちは、恐怖で顔が青ざめてしまっている。

「い、いつまでこんなことを……続けるんだよ?」

1人の男の問いに対して、僕(?)が、

「話を聞いていなかったのかな? 本当に本能のままに動く獣のようだ……いや、それは獣に対しても失礼だね……。言っただろう、乱暴したり、殺したりしたのと同じ回数ってね」

そう返すと、今度は男たちの体が自然発火して燃え始めた。

「熱いっ! 熱いっ!! あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

「たすけ、だずげっ……」


男たちが口々に助けを求める中、

「そうやって何人の人がキミたちに助けを乞うたのだろうか。さぁ……もっと罪を償うんだ。そしていつの日か良き魂として転生せよ」

僕(?)はそう冷たく言い放った。

そして男たちの体はどんどん焼け焦げてゆき、ついには完全に灰になってしまった。


「我ながら残酷な処刑方法だ……これじゃあまるでフォーノスだ。……さて、と」

僕(?)はそう言うと、はったりぼんの5人の方を見る。

彼女たちの中にはあまりのことに気絶してしまっている子もいた。


「ごめんね……。助けるキミたちにこんな凄惨な現場を見せてしまって……。続きは別の空間にいる僕の眷属に任せるとしよう……」

すると倒れていた男たちの死体も痕跡も綺麗さっぱり、消えてしまった。

「こ、こうたん? あなたは……こうたんじゃないの? いったい……誰なの?」

ひなたんが呆然としたまま、そう聞いてくる。

他のみんなも僕(?)を見ながら震えていた。

「僕はね、ひなたん……」

僕(?)は優しく微笑みながら言った。



「こうたんだよ」

そう言い終えると同時に、僕(?)からまばゆい光が放たれ、辺り一帯が包まれるのだった。




……という夢を見たんだ。

な、なんだ夢か……。よかったぁ……。

でも、あまりにもリアルだったなぁ……。



「こうたん、おはよう」

僕が目を覚ますと、そこにはひなたんがいた。

「あ、ああ……。おはよう……」

僕はまだ少し夢見心地のままそう返す。

するとひなたんが僕の顔をじっと見つめてきた。そして……

「……ねぇこうたんっ! こうたんっ!! 好きっ! 大好きっ!!」

そう言って僕に抱きついてくるのだった。


「えっ!? えぇっ!?」

僕はひなたんのいきなりの行動に動揺して、真っ赤になりながら固まってしまう。

「こうたんっ! こうたんっ!!」

そんな僕の気持ちなど知る由もなく、ひなたんは僕を抱きしめたまま胸に顔を埋める。

ああ……これは夢じゃない。現実だ。


だってこんなに柔らかい感触と良い匂いがしているんだから……って、ああ! ダメだダメだ!! 変なことを考えるなっ! 落ち着け、落ち着くんだ僕っ!!

……と、とりあえずひなたんが落ち着くまでそっとしておこう。

うん、それがいい……。上目遣いで見つめてくるひなたん……。……かわいいなぁ。


「ねぇ、こうたん……」

そんなことを考えていると、ひなたんが上目遣いのまま話しかけてきた。

「な、なんだい?」

僕がそう聞き返すと、ひなたんは少し恥ずかしそうにして……

「キスしてもいい? ダメかな?」

と言った。


僕は一瞬思考停止してから……なんとか口を開く。

ひなたんはニコッと微笑んでから……また僕に抱きついてくるのだった。

そして耳元で囁くように言ったのだ。

「こうたんっ……好きっ」


僕はもう限界だった。

「ひなたんっ!! ごめんっ!!」

僕はひなたんを思いきり抱きしめて、キスをした。ああ……やっちゃったな、僕。

でもこうでもしないと僕の理性は保たなかっただろう。

そう思ったんだ。うん、仕方ない仕方ない……。

「んっ!?」

驚いたような声を出したひなたんだが、すぐに僕に身を委ねて目を閉じながらキスを受け入れてくれた。

柔らかい唇の感触と、ひなたんの良い匂い……そして温もりが伝わってくるようだった。


そしてしばらくしてからそっと唇を離すと、ひなたんは頰を赤らめながら、

「えへへ……。こうたんっ! 大好きっ!!」

と言ってまた抱きついてくるのだった。

僕はもう幸せすぎてどうにでもなれ!

と思いながら、ひなたんを抱きしめた。

そしてそのままひなたんの上に覆いかぶさる。


「こうたんっ! ……いいよっ!」

ひなたんはそう小さく言うと、目を閉じる。

ああ、もうダメだ。我慢できないよ……。

そして僕はそのままひなたんを押し倒してしまうのだった。



……という夢を見たんだ。

な、なんだ夢か……。よかったぁ……。

でも、あまりにもリアルだったなぁ……。



「こうたん、おはよう」

僕が目を覚ますと、そこにはひなたんがいた。

「あ、ああ……。おはよう……」

僕はまだ少し夢見心地のままそう返す。

するとひなたんが僕の顔をじっと見つめてきた。そして……

「……ねぇこうたんっ! こうたんっ!! 好きっ! 大好きっ!!」

そう言って僕に抱きついてくるのだった。


「えっ!? えぇっ!?」

僕はひなたんのいきなりの行動に動揺して、真っ赤になりながら固まってしまう。

「こうたんっ! こうたんっ!!」

そんな僕の気持ちなど知る由もなく、ひなたんは僕を抱きしめたまま胸に顔を埋める。

ああ……これは夢じゃない。現実だ。


だってこんなに柔らかい感触と良い匂いがしているんだから……って、ああ! ダメだダメだ!! 変なことを考えるなっ! 落ち着け、落ち着くんだ僕っ!!

……と、とりあえずひなたんが落ち着くまでそっとしておこう。

うん、それがいい……。上目遣いで見つめてくるひなたん……。……かわいいなぁ。


「ねぇ、こうたん……」

そんなことを考えていると、ひなたんが上目遣いのまま話しかけてきた。

「な、なんだい?」

僕がそう聞き返すと、ひなたんは少し恥ずかしそうにして……

「キスしてもいい? ダメかな?」

と言った。


僕は一瞬思考停止してから……なんとか口を開く。

ひなたんはニコッと微笑んでから……また僕に抱きついてくるのだった。

そして耳元で囁くように言ったのだ。

「こうたんっ……好きっ」


僕はもう限界だった。

「ひなたんっ!! ごめんっ!!」

僕はひなたんを思いきり抱きしめて、キスをした。ああ……やっちゃったな、僕。

でもこうでもしないと僕の理性は保たなかっただろう。

そう思ったんだ。うん、仕方ない仕方ない……。

「んっ!?」

驚いたような声を出したひなたんだが、すぐに僕に身を委ねて目を閉じながらキスを受け入れてくれた。

柔らかい唇の感触と、ひなたんの良い匂い……そして温もりが伝わってくるようだった。


そしてしばらくしてからそっと唇を離すと、ひなたんは頰を赤らめながら、

「えへへ……。こうたんっ! 大好きっ!!」

と言ってまた抱きついてくるのだった。

僕はもう幸せすぎてどうにでもなれ!

と思いながら、ひなたんを抱きしめた。

そしてそのままひなたんの上に覆いかぶさる。


「こうたんっ! ……いいよっ!」

ひなたんはそう小さく言うと、目を閉じる。

ああ、もうダメだ。我慢できないよ……。

そして僕はそのままひなたんを押し倒してしまうのだった。



……という夢を見たんだ。

な、なんだ夢か……。よかったぁ……。

でも、あまりにもリアルだったなぁ……。



「こうたん、おはよう」

僕が目を覚ますと、そこにはひなたんがいた。

「あ、ああ……。おはよう……」

僕はまだ少し夢見心地のままそう返す。

するとひなたんが僕の顔をじっと見つめてきた。そして……

「……ねぇこうたんっ! こうたんっ!! 好きっ! 大好きっ!!」

そう言って僕に抱きついてくるのだった。


「えっ!? えぇっ!?」

僕はひなたんのいきなりの行動に動揺して、真っ赤になりながら固まってしまう。

「こうたんっ! こうたんっ!!」

そんな僕の気持ちなど知る由もなく、ひなたんは僕を抱きしめたまま胸に顔を埋める。

ああ……これは夢じゃない。現実だ。


だってこんなに柔らかい感触と良い匂いがしているんだから……って、ああ! ダメだダメだ!! 変なことを考えるなっ! 落ち着け、落ち着くんだ僕っ!!

……と、とりあえずひなたんが落ち着くまでそっとしておこう。

うん、それがいい……。上目遣いで見つめてくるひなたん……。……かわいいなぁ。


「ねぇ、こうたん……」

そんなことを考えていると、ひなたんが上目遣いのまま話しかけてきた。

「な、なんだい?」

僕がそう聞き返すと、ひなたんは少し恥ずかしそうにして……

「キスしてもいい? ダメかな?」

と言った。


僕は一瞬思考停止してから……なんとか口を開く。

ひなたんはニコッと微笑んでから……また僕に抱きついてくるのだった。

そして耳元で囁くように言ったのだ。

「こうたんっ……好きっ」


僕はもう限界だった。

「ひなたんっ!! ごめんっ!!」

僕はひなたんを思いきり抱きしめて、キスをした。ああ……やっちゃったな、僕。

でもこうでもしないと僕の理性は保たなかっただろう。

そう思ったんだ。うん、仕方ない仕方ない……。

「んっ!?」

驚いたような声を出したひなたんだが、すぐに僕に身を委ねて目を閉じながらキスを受け入れてくれた。

柔らかい唇の感触と、ひなたんの良い匂い……そして温もりが伝わってくるようだった。


そしてしばらくしてからそっと唇を離すと、ひなたんは頰を赤らめながら、

「えへへ……。こうたんっ! 大好きっ!!」

と言ってまた抱きついてくるのだった。

僕はもう幸せすぎてどうにでもなれ!

と思いながら、ひなたんを抱きしめた。

そしてそのままひなたんの上に覆いかぶさる。


「こうたんっ! ……いいよっ!」

ひなたんはそう小さく言うと、目を閉じる。

ああ、もうダメだ。我慢できないよ……。

そして僕はそのままひなたんを押し倒してしまうのだった。


僕がひなたんに覆いかぶさると、彼女は恥ずかしそうにして顔を赤く染めていた。

そんな彼女の表情を見て僕の心臓がドクンッと跳ねるのを感じた。




あれ……なんか変だぞ?

僕、どうしたんだろ……?

体が熱い。

頭がぼーっとする。

呼吸が荒くなってくるのを感じる……。

なんだか意識が遠のいていくようだ。

僕は一体どうしちゃったんだろう?

そんなことを考えているうちにもどんどん意識は遠くなり、やがて僕は意識を手放したのだった……。



目が覚めるとそこは自室だった。

あれ、さっきまで何してたんだっけ……確かひなたんにキスしようとして……それからどうなったんだっけ?

「幸太!! 幸太!! いい加減に起きなさい!!」

母親の声だ。



夢……だったんだ。

ん? 夢? どこからが夢なんだ?

ひなたんにキスしたのも、押し倒したのも?

ああ……なんだ夢か。よかったぁ……。でもこうでもしないと僕の理性は保たなかっただろう。

そう思ったんだ。うん、仕方ない仕方ない……。



「ねぇ、幸太! 聞いてるの?」

「あ、ああ……ごめん……」

そんなことを考えていると母親が声をかけてきたので、僕は慌てて返事をする。

何気ない日常だ。

ただ推しを応援して、推しに元気をもらって、そんな日々で僕は満足だ。



……でも本当に夢だったのか? ひなたんとのこと……いや……あの廃屋でのこと……。

僕はあれが夢だとはどうしても思えなかった。

「幸太、ちょっと顔色が悪いわよ?」

僕が考え事をしていると、母親がそんなことを言ってきた。

確かに少し体が重いような気がする……。



でも大丈夫! 僕は元気だ! そう自分に言い聞かせて、僕は今日も推し活を始めるのだった。

それからの僕はいつものように、推し活をする変わらない日々を送っていた。



3月3日のひな祭りイベントまであと1日。

ひな祭りイベントには、はったりぼん全員が出演するんだけど、誕生日が近いし名前にひなって入っていることもあって、ひなたんメインのイベントなんだよね~!

それにそのあとすぐにひなたんの生誕祭もあるし! ひなたんは、歌を歌ったり、トークショーをしたり、ゲーム大会なんかもやる予定らしいよ~! 生誕祭ではなんと……ひなたんからの特別なプレゼントがあるんだとか!


なんだろう?楽しみだなぁ~♪ 僕もイベントに参加するし、どんな感じになるのかすごく楽しみだよ!

今回もひなたんにたくさんの愛を伝えるんだ~!

あとね、ひなたんへのお手紙も書いたよ~! 大好きな推しへの愛情をたくさん込めて書いたから喜んでくれるといいな~♪



そして翌日の迎えた3月3日。

ひな祭りイベント当日。僕は朝早く起きて、準備をしていた。

今日は特別な日だからね!気合い入れていかないと!

「よしっ! これで完璧!」

僕は鏡を見ながらそう呟く。

今日の服装は推しカラーの黄色を基調としたコーデにしてみたんだ。

推しカラーを身につけることで、より一層テンションが上がってきている気がする……!

今日はいい一日になりそうだ! そう思いながら、僕はイベント会場へと向かうのだった……。



ひな祭りイベントは大成功だった。

たくさんのファンが楽しんでいたし、ひなたんやはったりぼんのメンバーたちも喜んでくれたみたいだった! 僕もすごく嬉しかったよ! やっぱり推しが喜んでいる姿を見ると自分も嬉しくなるよね~!

最後に握手券を購入してひなたんと3分間の握手ができることになった。

僕はドキドキしながら列に並び、自分の順番が来るのを待っていた。そしてついにその時が訪れる……!

「次の方どうぞ~!」

スタッフさんに呼ばれ、僕はひなたんの前に移動する。あぁ……ひなたん!! 久しぶりだね~! 僕は幸せだよ~!!



「わぁ~!! こうたんっ!! ステージからこうたん見てたよ!! 何回も目合ったもんね! ちゃんと見てくれてありがと~! 大好きっ!!」

ひなたんは満面の笑顔でそう言うと、僕の手をギュッと握ってくれる。

ああ……幸せすぎる……!この瞬間のために生きてきたといっても過言ではないくらいに……!

僕とひなたんはイベントのこと、衣装のこと、生誕祭のことなどを話していた。

未だにひなたんの目の前に立つのは緊張するけど、一番最初にひなたんと握手したファンである僕は、リラックスして話ができるようになっていた。

話題は最近あったことについて、2人で話し合っていた。

最初は他愛のない話をしていた僕たちだったが、ひなたんが少し気になることを口にした。


「そういえばね、すっごく怖い夢を見たの……こうたん、笑わないで聞いてくれる?」

彼女がそう言うと、僕はもちろんと返事をして、話の先を促した。

「ありがとう……。えっとね、なんか商業施設でライブがあって、そのあとにね。私たち5人と関係者を乗せた車が10人くらいの集団に襲撃を受けるの……。それから暗い廃屋に連れていかれて、酷いことをされそうになったんだ……。すごく怖くて……。でも、そしたらこうたんが助けに来てくれたの。……でも……」

その話を聞いた瞬間、僕は慄然とした。



何故なら僕が見た夢と全く同じ内容だったからだ。

ひなたんたちが廃屋で男たちに……そして僕が助けに入って……僕は死んで……。……僕は死んで……?

「こうたん……? ごめんね、怖かった?」

いつの間にか考え込んでしまっていたらしく、ひなたんは心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。


「だ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。それよりその夢のことなんだけど僕も同じ……」

そこまで言いかけた時だった。



「幸太さん、握手終了のお時間です」

夢のことについてもっと話をしていたかったけど、スタッフによって引き剥がされてしまう。

あの夢のことについて話したいけど、仕方がない……。

次の握手会の機会を待つしかない。

僕がひなたんに手を振ると、彼女も少し寂しそうに手を振ってくれた。



僕は家への帰り道を歩きながら、なんとなく気付き始めていた。

あの夢は、ただの夢じゃないということに——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢か現か 救われた僕 蟒蛇シロウ @Arcadia5454

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ