おばあちゃんの本屋さん

天蝶

第0話

ある小さな町の端に、すっかり古びた小さな本屋がありました。

店主の老婦人は、毎日その本屋に立ち、訪れる客に本を勧めるのが楽しみでした。

彼女は心優しい人で、町の人々にとても愛されていました。

しかし、老婦人には一つの秘密がありました。


彼女は、ひとりの孫と過ごした幸せな時間の思い出を大切にしていました。

その孫は、幼い頃から本を読むのが大好きで、いつも本屋で新しい物語を探し求めていました。

しかし、ある日、孫は病にかかり、若くしてこの世を去ってしまいました。

老婦人は大きな悲しみに包まれ、彼女の心に空虚感が広がりました。


それ以降、彼女は孫が好きだった本を手に取ることができなくなりました。

ただ、孫が好きだった本のタイトルを、静かに本棚に並べていました。

時が経つにつれ、本屋は次第に人々が訪れなくなり、老婦人は一人で本を眺める日々が続きました。


ある日、小学生の男の子が本屋に入りました。

彼は本を手に取り、ページをめくり始めました。

老婦人は思わず微笑みました。

彼女が孫と過ごした日々が、彼を通じて少しよみがえったように感じたのです。

男の子が老婦人に「この本、面白いよ!」と話しかけました。

その声に、彼女の心が温かくなり、彼女はその子に本を勧めました。


それから何度もその男の子が本屋に通うようになりました。

彼は老婦人と本の話をすることが楽しみで、彼女にあたたかな思い出を与えてくれました。

やがて男の子が成長し、自分の夢を追い求めるようになりました。


数年後、老婦人が静かにこの世を去ると、男の子は彼女の本屋を引き継ぎました。

彼はその本屋を「おばあちゃんの本屋さん」と名付けました。

彼は老婦人から教えてもらった物語や知識を次世代に伝えることを決意しました。


最初は小さな本屋でしたが、彼の情熱で多くの子供たちが集まる場所に成長しました。

老婦人は、彼を通じて再び人々の心に生きていることを感じ、女の子のように微笑んでいるでしょう。


この話が伝えたいのは、愛する人を失っても、その人の思い出や影響は、次の世代に受け継がれることがあるということ。

そして、人とのつながりや影響が、どれだけ大切であるかを教えてくれます。

時に涙を流すことがあっても、その先には希望と新しい物語が待っています。

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おばあちゃんの本屋さん 天蝶 @tenchoo

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