月日の約束
四戸希大
プロローグ
『神の領域 アストラレギア』
ここに三人の神がいた。——月の女神ロシャ、太陽の神アースレイ、そして時の神ウラヌガイ。彼らに勝てば「選択」を授けよう、と創造人ミシャは言った。
「時間消失(ロストタイム)!」
ウラヌガイが叫ぶと、二人の神が同時に声を重ねる。
「月よ、太陽よ、生まれろ!」
三柱の神々の戦いは壮絶を極め、大地を裂き、空を燃やし、時間すら歪めた。
時を操るウラヌガイの力は絶対ではなかった。
確かに過去や未来に干渉し、運命をねじ曲げる力を持っていたが、それでも越えられないものがあった。
それが、太陽と月の理。
アースレイが司る太陽の力は、「絶対的な力」であり、すべてを照らし出す。
ロシャが司る月の力は、「適応する力」であり、変化しながら調和をもたらす。
時を操ることはできても、すべてを支配することはできない。
未来を見通せても、それが必ずしも実現するとは限らない。
過去に干渉できても、そこから生まれる新たな変化までは制御できない。
もし時の理が最強であるならば、ウラヌガイはあらゆる未来を選び取り、敗北することはなかった。
だが、太陽と月の理が交わるとき──すなわち日食や月食などの「特異な瞬間」において、時の力は揺らぎ、未来は予測不能となる。
そして、その予測不能な未来こそが、ウラヌガイの敗北を決定づけた。
「この戦いは後に『月と陽の審判』と呼ばれるようになった
しかし、創造人ミシャは深いため息をつく。「期待して損じゃったが...なかなか面白いもの見せてもらったぞ」
その言葉にウラヌガイの瞳が揺れる。「...俺の野望はこんなところで潰えない...」
次の瞬間、ウラヌガイの体は粉々に砕け、自然のエネルギーとなって消えていった。
「レイィィィ!」
ロシャは絶叫した。アースレイは彼女の頬を流れる涙を指でぬぐう。
「君は世界に降り立つんだろ? そのお腹にいる僕たちの子と……」
「レイ、あなたのこと、忘れないわ……」
彼女の手に残ったのは、温かい砂だけだった。
「ロシャよ……選択の時だ」
*
こうして、月の女神ロシャは世界に降り立つことを許された。
*
——そして三万年後。
【月陽界】
ルミナス歴 30000年。
月の神が創りし異空間、月陽界(げつようかい)。
青白く輝く空には、幾重にも折り重なる光の環が浮かび、静寂に包まれた湖が穏やかに揺れている。そこに暮らすのは、一組の夫婦——アラン・ギガンディールとヒイナ・ギガンディール。
「アラン、あの子たちはどこ?」
澄んだ夜風に乗せて、母ヒイナの声が響く。
「俺が作った湖のほとりにいるだろうさ。二人とも、水の流れを見るのが好きだからな」
父アランが穏やかに笑い、視線を遠くへ向ける。
湖のほとり。
そこには二つの小さな影が、月光の下で寄り添うように座っていた。
——サク・ギガンディールとエリオ・ギガンディール。
彼らの瞳には、月と太陽が映り込んでいた。
この世界の理すら揺るがす運命を背負っていることを、まだ誰も知らない——。
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