雪の日の後悔と夏の日の残像

七月七日(なつきネコ)

226から815へ

わたしは一つの後悔がある。


銃弾で撃ち抜かれる中で、私は思いだしていた。


 ゆるやかに崩れる体、つよく蝉しぐれが聞こえる。


 記憶の中で白い乃木坂だった。


そして、雪白に浮かび上がる美しい横顔の軍人。


軍帽の似合う彼の姿。


-頼む。共に立ってくれ! この日本のために-


その言葉をたくす君は若く、今、私を殺す青年も熱い目をしていた。


 だから、思い出したのだ。

  情念と思い上がる彼らの姿はおなじ。


 因果だ。


-ちがう。これは間違っているんだ!-


私は強く否定していた。


純粋な目の美しい男は真っ直ぐな人。


そんな彼は悲しい目をして、私から離れていく。

私は妻のために拒否していたのだ。


陛下の大命なくもなしに決起するなど、やってはいけない。


彼らも妻も子もいたのに立ち上がり戦い、そして、銃殺された。


そして、2月26日に彼らは動いた、苦しむ農村や貧民を捨てられず、既得権益を捨てられない政府。軍を率い、時の総理大臣を襲い、侍従長に大けがを負わせ、大蔵大臣、内大臣を殺した。


 雪の中で彼らは軍服に白い襷の姿だったという。


しかし、彼らも暴走していたが、赤心は本物だった。

それでも、クーデターに軍を動かし大臣を殺したことは非難されて仕方がない。


-ついに行動してしまったのか。大バカ者!-


 当初軍部は彼ら決起軍を同情的な意見は多く、私も彼らの助命に動いた。


 二月の雪の中をはしり、回っていく。


 そう、彼らのいう昭和維新がうまくいっていたはずだった。


 しかし、彼らは虎の尾を踏んでしまう。


 そして、彼らは形状の露に消えた………彼らの思いも言葉も誰にも聞かれないまま銃殺される。


 わたしの後悔は、ただ一つ……彼らともに立てばよかったかもしれない。


 理解しているのだ。


彼らの行動のせいで日本は狂った。


まずしいものを救うための昭和維新という理念は軍部の暴走へとすりかわり、大東亜戦争へといたった。


 既得権益のみで政治をおこなう奴らを排除して陛下に直接政治を行えば、日本は変わる妄想を信じていた。


 彼らの願いはただ一つ。 

 それは目の前の兵も同じだろう。


「陛下もまだ戦いを望んでいる! 奸臣を排除せよ!」


 どうして、陛下のためという彼らは思いを曲解するのだ。


 あの時の陛下も、真に信頼していた政治家を殺し、傷つけ、今も陛下と自分の心は同じと信じている。


「違う。陛下は……戦いを望んでいない」


 しかし、陛下は無条件降伏を承知している。


 奸臣が導いたわけでない。陛下の心を読み取れたのはその奸臣だっただけの事。


 そして、何の因果か……226で死に損ねた男が終戦工作に絡んでいる。


彼が生き延びたのも天命だったのか。


 陛下の御心はこの土壇場でもあの男を信じている。


「奸臣の鈴木をだせ!!」


 今も彼ら暴走していく。


 14年式拳銃から弾丸がはなたれ、薬莢が地面におちる。


 血が夏空にまう。


 また自分の体に穴が開く。


 そう、口を割らない私を殺そうとしている。


 この二発の弾丸の間の邂逅だった。 


 私もあの時、行動していれば、日本の終わりを見届けなくてすんだかもしれない……いや、最後に希望は残された。


 私の死が……この国の未来へつながるよう、彼らの望んだ貧しい者のいない皆が幸せな国となるように……




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『堪え難きを堪え 忍び難きを忍び もって万世の為に太平を開かんと欲す』


 暑い夏の日に陛下の遺志により戦争を終えた。

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雪の日の後悔と夏の日の残像 七月七日(なつきネコ) @natukineko

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